脱走兵 その4
「なんで今さら!あの人はもう……」
脳内がパニックになっているのが自覚できる。冷静にならなければ足元をすくわれる。
わかっているのに心が落ち着かない。
「軍の最重要人物だったと聞く。剣の腕も王国一だったらしいな。今は片腕も失って落ちぶれているらしい。俺でも容易く出来そうだ」
「そんな事は聞いていない!だからなぜ今になって彼が追われなければならないの!」
冷静に……冷静になれ……
「それはお前のパートナーだったからだろう。わからないか?大量殺人犯の重罪人フレデリカ・クラークの相棒だからだろう。そんな殺人犯と国家の機密事項を所持している者が繋がっているんだ。そんなもの放置しておけるわけないだろう」
また私だ。
私という存在が『あの人』の呪いとなっている。
こんなに距離をとっても、あの人から私という呪いはなくならないのだろうか。
ああ……体に力が入らない。
「わざわざ教えてやったのはお前を試す為だ。この先、平和に暮らしたいのであれば何もせずに部屋にこもっていることだ。じゃあな」
きびすを返し、背中を向ける。
「逃すわけないでしょ……きゃあ!」
右足を一歩前に出したところでロープが足首に巻き付く。
そのまま逆さ吊りで木の上に吊り上げられた。
「待てっ!ここで決着を着けてやる……くっ!取れない」
魔法でロープを焼き切ろうとするが炎がはじかれる。
「無駄だ。魔法を無効化する縄で編んである。頭に血が上っているから、こんなトラップにかかるんだ。精神面も鍛えるのだな」
「だから待ちなさい……くっ、逃げられた。早くホークに知らせないと……」
逆さまになった世界で男を探すが、すでに姿は消えていた。
屋敷の方から扉の開く音が聞こえる。
三人の聖騎士が駆け寄ってくるのが見えた。