追跡者 その3
水の魔法で、人が収まるくらいの大きな玉を作る。
当然、玉の中は水で完全に満たされている。
本来は敵を中に封じ込め、窒息させるのが使用用途である魔法なんだろうけど、使い方によっては人命救助に使う事もできる。
時計塔から落下してきた暗殺者は、巨大な水でできた球体に衝突し、そのまま球体の中に入り込む。
男は水でできた牢獄に閉じ込められたのだ。
「聞こえる?あなたほどの実力者なら、水の中にいても私の声が聞き取れるでしょ?よく聞いて。今から出してあげるけど、敵対行為な行動はしないでほしいの。ちゃんと話し合いで取引をしましょう」
水の牢獄に近づき、投獄された男に話しかける。
真っ直ぐに、こちらの目を睨みつけている様子から私の声は届いているようだ。
この呼吸も出来ない状況下で、よくパニックにならずに落ち着いていられる。
「わかったかな?私は平和的に事を進めたいと思っているの。それでも殺し合いたいというのなら地獄に連れていってあげるから」
パッチン!
親指と中指を使いフィンガースナップで音を鳴らす。
同時に、水の牢獄は破裂するように飛び散った。
ヒュン!
四散した水の中から人影が飛び出した。
眼前にナイフの切先が迫る。
迫り来るナイフにタイミングを合わせ、武器破壊の魔剣でなぎ払う。
パリン!
当然、ナイフは粉々に砕け散った。
さすがだ。
『剣の聖騎士』が打った魔剣は伊達じゃない。
「やっぱりね。そう来ることは、わかってはいたけど。それじゃあ約束通りに地獄に連れて行ってあげる」
再び、右手の親指と中指を合わせる。
暗殺者の男の背後に狙いをさだめ、再び指を打ち鳴らす。
パチン!
何もない空間がガラスの様に割れた。
その奥は闇が広がり、地響きの様な音が鳴り響いている。
「!」
異様な気配に男が背後を振り返った。
「隙ありっ!」
再び、回し蹴りで空間にできた穴に男を蹴り飛ばす。
「安心して。私も一緒に行ってあげるから」
蹴り飛ばした勢いのまま、自分自身も空間の裂け目へと飛び込んだ。




