追跡者 その2
スタッ……
呼びかけに、男が建物の屋根から地面に降り立つ。
「貴様何者だ?その力普通ではない。この街にいる強者は全員把握している。お前のデータはリストにはなかった」
自分の攻撃を、ことごとく防がれたにも関わらず冷静だ。少なくとも見た目には一切動じている様子はない。精神的にもなかなかの強者かもしれない。やはりこの場で和解なり、なんなりの対応はしておくべきかもしれない。
「私が何者かなんて重要じゃないの。私の要望としては、私のお店や従業員、友人に余計なお節介をかけないでほしいの。そうしてくれるなら、私たちはジブリ商会さんに面倒をかけたり、私たちから危害を加えたりしない。もし、このお願いを聞いてくれないなら、いまこの場で、あなたに対して何らかの攻撃的な対応を取ることになるけど」
警告はした。おそらく素直には聞いてくれないのは予想がついているのだけど……って言ってるそばからっ!
飛んできた物体を蒼の剣で叩き落とす。
ドッゴーン!
火薬系の飛び道具だった。爆発の効果範囲が広い。
「まったく……」
私は無傷だからいいけど、このまま続けたら街や人に被害が出てしまう。
いい加減に……もう許さないから。
半径二十メートルの範囲で魔力のフィールドを展開する。
このフィールド内での私は誰よりも速い。この範囲内なら望む座標に瞬間移動ができるからだ。
暗殺者の気配を探る……
「いた!範囲内!」
魔力をターゲットの位置へと射出する。
そして、その位置へと移動のイメージ。
一瞬で景色が変わる。
「なっ!」
ターゲットが突然目の前に現れ、さすがのベテラン暗殺者も隙が生じる。
空中での背面回し蹴り。
手に持っていた炸裂弾をまきちらしながら下へと落下していく。
「あちゃー。さすがにこの高さから落ちたら死んじゃうよね。仕方ない。人殺しはしたくないし助けてあげようかな」
男が潜んでいたのは、街で一番高い構造物の時計塔だった。
高さは三十メートル近くあるかもしれない。
男の落下地点に魔力を飛ばす。
再び景色が変わる。
視線を上に向けると、私が突き落とした相手が落ちてくるのが見えた。