フェリックス・ミューラー その1
「私がフェリックス・ミューラー大隊長だ。現時刻よりフレデリカ・クラーク聖特級は私の所有タンクとして扱われる。いままで以上に任務に励む様に」
突如、押しかけてきた軍服の男は、部屋に入るなり高慢ぎみに、そう名乗った。
私はこの男の事を知っている。名前を聞いてピンときた。ホークの愚痴によく出てくる男だ。
会議で毎回絡んできて、必ずホークの意見に反対し、何かと突っかかってくると聞いている。
すでに私の中での心証は悪い。
「この様な服装で失礼いたします。フレデリカ・クラーク聖特級タンクです。よろしくお願いいたします」
突然の来訪で、服装がリラックスモードだ。真っ赤なフリースにスウェットパンツという完全に部屋着状態。上官を迎える服装ではないのは確かだ。
「フレデリカ・クラーク。今後の事で少し話がある。時間をもらう。お邪魔する」
何も言っていないのに、勝手にズカズカと部屋に入ってくる。
「大隊長。私の部屋散らかっていますので、ミーティングルーム一部屋おとりいたします」
「フレデリカ君。私はここで構わないから大丈夫。言葉遣いも崩してもらって結構」
ふぅ、あぶない。前回の任務の後、しばらく入院していたから、お部屋散らかっていたのよね。さっき片付けといてよかった……じゃない!
突然来て『お邪魔するよ』じゃないわよ。こっちの都合とかお構いなしなわけ?私が構うからミーティングルームに行きたかったのに。
「あと、こんな服装ですので制服に着替えます。少々お時間をいただきます」
「それも不用だ。いいからかけたまえ」
うっ、ちょっと薄着の生足で恥ずかしいのだけど……
「さすがにこの格好では……」
「構わないと言っている。同じ事を二度言わせないでもらおう」
「は、はい……じゃあお茶だけ入れますね」
何か言われそうだったので慌ててキッチンに逃げる。
ホークと一緒で、私も好きになれそうもない。話だけ聴いて、さっさとお帰りいただく事にしよう。
「お待たせしてすみません」
二人分のコーヒーをテーブルを置き、自分も席につく。
「今後についてだが……」
何の前振りもなく話しはじめた。この人自分勝手な性格だ。絶対に友達いないと思う。
「……次の任務は二日後だ。準備をしておけ。それと、君らが壊した戦車。あれは新しく組み直すことになった。新車だよ。次の任務では足を引っ張らないでくれよ」
別にミスして壊したわけじゃない。相手が強すぎたのだ。それに今の話にはおかしなところがある。
私は療養の為、あと五日間お休みをもらっている。二日後に任務など聞いていない。
「大隊長。私、療養の為、休暇を取るように命令を受けています。なのでニ日後の任務に就くことが難しく……」
「そんな話は聞いていない。その休暇の件は取り下げておくから準備しておくように」
こうして休暇を三日ほど短縮され、フェリックス大隊長との初出撃となった。