武器品評会 その6
イベントが終わった会場の舞台に、再び人が集まってきた。
武具を扱う一流ブランドの騒ぎを聞きつけ集まってきたみたいだ。
とりあえず私のスタイルの誤解も解けたことだし、一刻も早く、この場から退散することにする。
「鑑定士の皆様。ありがとうございました。では。失礼いたします」
深めに一礼し、舞台から飛び降りる。
そのまま人混みに飛び込み行方をくらます。
まぁ店の住所は申告してしまっているから、後日おしかけられてしまうかもしれない。でも悪い行いはしていないから気にする事もない。
この辺りでいいかな?
人の波から飛び出し、路地裏に入り込む。
ここから浮遊の魔法で建物の上を飛んでいけば何事もなくお店まで帰れるはずだ。
シュッ!
何かが空をきり私の頬をかすめる。
いや違う。これは物理的なものではない。誰かが、私に向けて鋭い殺気を飛ばしてきたのだ。
これは見過ごす事は出来ない。この殺気は人を殺す時に発するレベルのものだ。
あっ……しまった。見過ごせばよかった。
これは、私がこの世で一番嫌いな『トラブル』というやつだ。しかし、こんな人気のない路地裏で、先ほどの殺気に反応してしまった。いまさら
「今夜のディナーは何にしようかしら」
などと、とぼけて素通りできるはずもない。
あまりよろしくない気配のする方向に、ゆっくりと向き直る。
薄暗い路地からの逆光で影になってしまってシルエットしか見えないが、何者かが立っている。
先程の殺気は、この人物から発せられたものだ。
「あのぉ、そこにいるのは、どなたでしょう?ちょっとだけ急いで……」
「白々しい言動はやめろ。オレの剣気に反応したお前は、ただの武器屋の娘でない事は明白だ。その剣は回収させてもらう。そしてお前は処理する様にとの指令だ。すべて諦めろ」
あっ……これって、戦闘状態に突入してしまっているとの認識で間違いないわよね。しかも、かなりの手練れ。私って、こんな殺し屋みたいなのに狙われる程、大それた事したかな。
「どうした娘。怖くて何も言えんか。少しは出来る様だが、本物の殺し合いもした事がないお前などオレの……」
男の口から発せられていた言葉が途中で止まる。魚の様に口をパクパクと動かすが言葉にする事は叶わない。
「えっと……ごめんなさい。何も教えてくれそうもないから、勝手に記憶読ませてもらうね。こんな危ないナイフやらなんやら体中に忍ばせちゃって。転んだら刺さっちゃうじゃないかしら」
気配のない背後からの突然の声に、男の表情は引き攣っているだろう……本来は。現実には体全体の神経を停止させているから眉一つ動かせない。もちろん、最低限、生命活動に必要な機能はいじってないから死ぬ事はない。
「痛くないから安心して」
話しかけてはいるが、この声も届いていないはずだ。
なぜなら聴力も奪っているから。