武器品評会 その5
「かかってきたまえ。私は受けただけで、相手の武器の価値がわかるのだよ。我が商会の一等級のこの剣で受けてやろう。遠慮なく撃ってきたまえ」
ちょび髭の男が挑発してくる。
ジブリ商会お抱えの剣士みたいだけと、こういう状況下でのお約束通り高慢な性格だ。
それなりの腕前は持っているみたいだけど。
強制的に舞台に上げられて剣を持たされる。もちろん今回の品評会でだした閃光さんが打ってくれた渾身の一振りだ。
当然だけど完成した直後に試し切りは済ましてある。
だからこの剣の性能は把握済みだ。それだけに、こんな大勢の群衆の前で披露していいものか。
この『評価点なし』をいただいてしまった剣は、一見なんの変哲もない見た目だが、立派な魔剣だ。
しかも属性付与や魔力伝達の様なありきたりの能力ではない。かなり特殊な力を秘めている。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます。ちなみにジブリ商会さんの剣を破損させてしまった場合の費用等はどういたしましょうか?」
これは重要な話だ。先程の話だと、相手の剣は一級品の高価な品物らしい。そんな無駄な賠償金など払いたくない。
「ふははは。お嬢さん。その様な冗談は全く笑えないのだよ。そんな劣悪なものに我々の武具が傷つけられとは到底思えない。いらぬ心配だよ。まぁ、そうなった場合は私持ちにするから安心したまえ」
『笑えない』と口にしながら十分な高笑いをしていると思えるのだが面倒なのでツッコミは控えておこう。話が長くなりそうだし。
とりあえず力加減を間違えない様に気をつけて……
「では参りますね。えいっ!」
素人っぽい掛け声で剣を振り下ろす。
力は加えず、重力に任せて。
ガキーン
想像していた音と違う音が鳴り響く。思っていたより鈍い音だ。手ごたえも思っていたより軽い。
カラーン
地面に何かが落ち、その勢いのまま舞台から落ちて見えなくなる。音からして金属製の何かだ。
時間が止まった様に、そこにいた誰もが動きが止まっていた。言っておくが魔剣の力は時を止める能力ではない。
構えた剣が半ばからなくなっていた。
もちろん私のものではなく、ジブリ商会の剣だ。先程舞台から落ちていった物体は折れた剣の刃らしい。
「そそそそそ、そんなバカな!何が起きたのだ⁉︎」
へし折れた一級品の剣を凝視しながら、予想外の展開に体が震えている。
そう。この魔剣の使用用途とは『武器破壊』だ。
正確には持ち主の魔力を吸い取り、物理的な衝撃に変換。それを相手の武器とのインパクトの瞬間に一点集中に連続で送り込む。
閃光さんの説明では、二刀流を想定して作ったものらしい。
魔剣で相手の武器を破壊し、無防備になった相手にトドメを刺すのがセオリーのようだ。
今回は効果が発動しない様に、かなり手加減したのらだけれど、強制的に魔力を使われた。
とりあえず、これ以上の注目は避けたい。
騒ぎになる前に早く帰ろう。
「それでは私はこれで失礼しますね。ジブリ商会さんもご協力ありがとうございました。では」
ぐわし!
早々と舞台を降りようと一歩踏み出す前に肩を掴まれた。
「ま、待たれよ!このままではジブリ商会の武器が負けたみたいではないか!たまたま劣化が進んだ剣を折ったくらいでいい気になるな。今度は、こちらからいくぞ」
なんか決闘みたいなやり取りになってきた。
誰か止めてくれないの?
鑑定士さんに助けを求め視線を送る。
しかし、こちらの視線に気付くと、優しい笑みで頷いている。
「大丈夫!自信を持って挑みなさい」
こんな感じの事を伝えようとしているのは分かった。
ダメだ。付き合いきれない。もう逃げよう。
「逃げるな!そんな『なまくら』に負けたなどという噂が流れたら我々の今後に影響がでるではないか。しかも、お前みたいな筋力も何もないような体型の小娘に折られたなどと言う噂が流れた日には商売に影響がでる。この新品の剣で……」
カランカラン
さすが新品だわ。いい音が鳴るわね。
再び折れた刀身が地面に落下し、いい音を奏でる。
「な、なっ!」
「ごめんなさい。また折ってしまいました。そうだ!いい考えがあります。剣を折ったのは、『何もない体型の小娘』ではなく、「鍛え抜かれた体のナイスボディな女剣士』にという事にしてはいかがでしょう?実際、私は完璧なスタイルの持ち主です。あっ、今は服を重ね着しているのでわからないでしょうけど」