閃光 その4
ガキーン!
一撃目とは違う音が響く。音がした方向に視線を向けるとホークが蒼い剣を中段に構えていた。黒ずくめの男も構えてはいたが、手にある剣は根本から無くなったいた。先程とは真逆の状況だ。
「くっ……やはりその剣は我が国の剣。どうしてそれを持っている?どこで手に入れた?その剣は、必ず転生した英雄の元へと帰る神聖なる武具。英雄をどこへやった?そもそも、その剣を扱えるのは英雄のみのはず……」
「そんなにいっぺんには答えられないよ。まぁ、ほぼ機密事項だから答えられないけどな。答えられるものとしては、お前たちの言う『英雄』とやらを殺したみたいな報告は受けていないということくらいだな」
「あたりまえだ。あのお方の力には誰も敵わない」
「ウチのフレデリカも魔力の量だけなら負けないんだがな。それ以外は大したことないけど」
ホークのやつ、無事に帰ったら殺してやる。
「とりあえず黒マント。お互いの為、今回は引かないか。お前が戦車壊したから、こっちはまぁまぁ大変なんだよ。生身で敵国のど真ん中だぞ。少しは同情とかしてくれてもいいと思うのだが」
「……わかった。この場は引いてやる。いずれ必ず見つけて決着をつける。名前は……ホークと呼ばれていたな。私の名は閃光。」
「『センコウ』?技と同じ名前なんだな……と言うより技に自分の名前をつけたのか」
「私の存在自体の名が……いや、説明したところでお前たちには理解できない事だ。今回はこの様な結果だが、次は私が勝つ」
「それはどうも。あと折れた片腕は、ちゃんと治してこいよ……って、もういないし」
気がつくと閃光と名乗った男は姿を消していた。
さて、ひとまず命に関わる災厄はいなくなった。
だが、これからどうすればいいのだろうか。
戦車のキャタピラは破壊されて移動手段が自前の足しかなくなった。無理だ。何日もかかった距離を徒歩で帰還するなんて絶対無理だ。
さらに此処は、最前線のさらに奥の敵国の土地。敵の索敵にでも引っかかったら、魔法の集中砲火で瞬殺されてしまうだろう。
「で、ホーク。これからどうするのー?」
「……おまえ少しは、命懸けで闘って、守ってもらった人間に感謝とか労いの言葉はないのか?」
「もちろん感謝はしてるわよ。ただ今は、この絶望的な状況下でどうするかという問題を考えないといけないと思うの。その辺り、どうお考えですか?」
「まるでオレが何にも考えていないみたいな言い方だな。だが安心しろ。最後の切札が残っている。まぁ結局フレデリカが頼みの綱なんだが」
人差し指で大破した戦車を指差し、ついて来いと言っている。ホークに続いてハッチがあった辺りの穴から中に乗り込む。
あらためて見ると派手にやられてる。これを一振りの剣でやったかと思うとゾッとする。
「フレデリカ、魔力接続頼む」
先ほどパージしたばかりの三本ケーブルを、うなじと手首に再び接続する。
「あうっ!」
体に異物が挿入される。この感覚は何回やっても馴れない。
それにしても、こんな壊れた機械式魔法戦車に接続してなにをするのであろうか。
「……フレデリカ。これから君にどんな負担がかかるのかは、タンクではないオレにはわからない。だが現状これしか帰る方法がない。許してくれ。無事に帰れたら君の望みは何でも聞くよ」
「ちゃんと考えているのね。いいわよ。私が出来る事ならなんでもするわ」
「本当にすまない。やる事はいつもと一緒だ。この車体を動かす為に、君の魔力を使わせてもらう。ただし、消耗が尋常じゃないらしい。正直な話どうなるかわからないんだ。まともに使うのはこれが初めてだからな。テストの段階では特級タンクが15分もたなかった」
「やるわよ。どっちにしても、このままじゃ敵に見つかって終わりだし。何をしようとしているのかわからないけど、始めましょう」
「ありがとう。行くよ」
その言葉と共に、完全に沈黙していたと思われていた鉄の塊は、フワリと空中に浮かび上がった。