死神は唐突に
やぁ! 久しぶり!( ˆoˆ )
──紅イ満月ノ夜、猪突猛森ニ入ルコトナカレ──
──出ルゾ、出ルゾ、死神出ルゾ──
──逃ガサナイ、影食ム鎌ニ、首刈ラレルノミ──
トリポーラのメインストリート。大人数が行き来する道の上で、語り部は静かに言伝る。ランダムに月が変わるこの世界で、異常なほどに忌み嫌われる紅い満月。
それは、恐怖の訪れである。
それは、死神の訪れである。
それは、伝説の訪れである。
何も知らずに森を歩く、中性的な外見をしたミズキは、短剣兎を狩りながら零す。
「月......紅いな。これは良い事の予兆だな!」
彼は楽しんでいた。兎の首を刈ることを。
不幸にもそれは、死神の目に止まった。
滑らかな動作で的確に弱点を突き、一撃で仕留める一連の流れ......あまりにも鮮やかな狩りに、死神は大層喜んだ。
そして、死神はミズキと邂逅する──
◇ ◆ ◇
「えっ............何? コイツ。デカくね?」
街道を挟んで西側の兎を狩り尽くしたので、東側に移ろうとした瞬間、巨大な鎌を持ち、ボロ布のローブを身にまとった、5メートルはあろうモンスターが現れた。
いかにも“死神”と言いたくなる存在に、思わずナイフを構えた。
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【紅月之死神・マーニェイズ】が現れました
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「あかつきのしにがみ......確かにその鎌、紅いな」
紅い月光のせいで本当は色が違うかもしれないが、俺の目には紅く見える。刃文の如く焼き入れられた大きな鎌は、大人5人は容易く刈れるだろうな。
さて、俺が取るべき選択肢は......
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!」
全力ダッシュ! これしかないッ!!
しかし、影が妙に長い。もしかして......?
「着いてきてるぅぅぅぅ!!!!」
コイツ、浮いてるからって音もなく追いかけるなよ! 俺の心臓に悪いだろうがッ! 攻撃もしてこないのにずっと後ろに居るのはやめてくれ!!!
「分かった。戦う。それでいいんだろ?」
今、笑ったのか? 顎を引いたような......。
それよりこの死神野郎、体が無いのが引っかかる。布を攻撃すればダメージが入るのか?
気になるのなら試せばいい。俺は振り向きざまに短剣を投げると、綺麗に布の中に吸い込まれた。
「あれ?......詰んだ?」
そう呟くと同時に横に凪ぐ大きな刃。音も無く俺の首を捉えた斬撃を、すんでのところで弾いた。
流石は隠しナイフ。俺の相棒だ。
火花と共に威力を殺したが、俺の体勢が悪い。
案の定、マーニェイズは鎌を切り返し、追撃を放ってきた。が、目で捉えられるうちは防御可能だ。
高速でインベントリから短剣を取り出し、弾く。
短剣が一瞬にしてポリゴンになったが、これで分かった。短剣の数だけ、俺はマーニェイズの攻撃を受けられる。
残機は52。
この数字の10倍は兎を狩っているが、レベルは13。
「ああっ、楽しい! 脳汁出てきたァ!!」
鎌を避け、短剣を投げると見せかけて柄を掴み続ける。一瞬生まれた隙を狙ってナイフでボロ布を傷つける。
流石は最新のゲームAIだ。フェイントにも対応してるか。
さぁ、俺は夜明けまで生き残れるかな?
◇ ◇ ◇
「まぁ、無事死亡と」
あれから40分は生き延びた。チマチマと傷を付けては避けて弾いてを繰り返し、ノーダメージで戦い続けた。
だけど、アイツの行動パターンは鎌による斬撃だけじゃなかった。分かりきっていたことだが、対応が出来ず、首チョンパされてしまった。
フッ......まさか首チョンパする側から、される側にまわるとはな......時代は変わるもんだ。
「つーかあの影の鎌は卑怯だろうが!」
初見は対応できたんだ。大振りな斬撃を空振らせて、油断した隙に影による不可視の鎌を使う、分かりやすい行動だったからな。
だけどアイツ、2回目の影鎌は連撃の途中に組み込みやがった。俺の使い捨ての短剣だと対応が間に合わない速度なんだ。
だから負けた。
「ぜってぇ倒す。あのボロ布野郎はぜってぇ倒す」
AGIもPSも死ぬほど上げて対応してやる。満足のいくステータスで出会った時には、今日のお礼をさせてもらおう。
「──ってなワケで硬い剣が欲しいです」
「どうりで昨日と顔つきが違うわけだ」
武器屋のオヤジさんに頼んだのだが、目を大きく開けるばかりで中々答えてくれない。昨夜の出来事を懇切丁寧に1から100まで教えただけなのに......。
マーニェイズを倒すには、とにかく硬い剣が必要だ。
折れず、曲がらず、重すぎず。そんな剣が。
「はぁ。案はある。が、お前さんにはちとキチィ。それでもやるか?」
「やります」
「......100回は死ぬぞ?」
「100回程度で済むんですか? なら安いです」
オヤジさんは大きなため息をついてから、頷いた。
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『オリジナルクエスト:城剣・セラ』を受注しました。
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は、初めて見た。これがオルストの醍醐味の1つ、オリジナルクエストか。噂では1人1人違うクエストだと言われてるヤツだな。
それにしても、城剣・セラとは何ぞや?
名前からして、城の様に硬く、強い剣......か?
「それじゃあ今から言う素材を持ってこい」
俺は姿勢を正し、耳を澄ませた。
オヤジさんは手を広げて俺にみせた。
「1つ『黄金の涙』2つ『黒石煉瓦』3つ『灰溶岩』をバケツ1杯、4つ『神樹の苗木』5つ『人守の残骸』だ。バケツはやるから取って来い」
そう言ってオヤジさんはバケツを渡すと、グイグイと俺を店の外に押し出した。意外な対応に困惑していると、クエストアイテムを入手するまで入店不可という、ふざけた内容のウィンドウが出現した。
はい、これにて俺のトリポーラライフは終了です。ありがとうございました。
「せめてどこでゲット出来るか教えてくれよ......」
いや待てよ? これはMMOなんだ。何も、1人でやる必要はない。辺りを見渡せば、絶対に1人はプレイヤーが居るような現状、無理して1人で攻略するのはバカのすることだ。
俺はもう既に2人と関わったんだ。自信を持とう。
「紲......悪いお兄ちゃんでごめんな」
この時、ログアウトボタンを押した俺は知らない。
紲が廃人級のゲーマーであることを。
更新が遅くなって申し訳ないです。
8月中は(多分)更新頻度爆上げになるので、お許しを.....!
次回『スキルって知ってる?』お楽しみに!