赤槍のキュール
ちゃんと不定期( 'ω' )و
トリポーラの宿屋で目が覚めると、すぐに街へと飛び出した。石造りの重厚感ある建物が多い中、木造のソレは一際目立っていた。
「こんにちは。武器屋はここで合ってますか?」
「らっしゃい。合ってるぞ。じっくり見て行きな」
まさに職人といった筋骨隆々の男が片手を差し出すと、購入可能な武器一覧が出てきた。
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『アイアンソード』 500G
『アイアンブレード』500G
『アイアンランス』 500G
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「見事にアイアン系で揃ってるな......」
「この近くは鉄がよく採れるからな。一応、合金加工もやればできるが、品質は保証できんからな。鉄以外は基本使わねぇ」
「なるほど。とりあえず金稼いで来ます」
「......お前さん、よく来たな」
「手持ちじゃ上3つが買えないので。失礼します」
ひとまずウィンドウショッピングを楽しんだ俺は、雑貨屋でピッケルを購入した。店員の話によれば、フィールドに行くと金属の塊が採れる岩があるらしい。
それと、今の俺のナイフではモンスターに傷をつけるのが精一杯だと言われた。
「戦わなければいい。逃げる選択は野生の基本だ」
あのゲームで培った経験があれば、敵の習性がある程度把握出来れば逃げることなど造作もない。それよりも、鉄を雑貨屋が買い取ってくれる話が気になるのだ。
スムーズに鉄が手に入ったら武器屋でも売れるか聞いてみよう。
「どんなアイテムでも売れるのはゲームの基本だが、なんとなく誘導されてる気がするんだよなぁ」
◇ ◆ ◇
「うおぉぉぉぉぉ!!! 振れッ! 振れッ! スタミナ尽きても振りまくれぇぇぇ!!!!!」
トリポーラに隣接するフィールド“彼岸原”にて、ミズキはピッケルに振り回されていた。鉱石が採掘できる赤茶色の岩を見つけては猛ダッシュし、目視で避けれる速度の石を飛ばすトカゲに見つかれば短剣を投げる。
あまりに必死かつ正確な投擲に、通りかかるプレイヤーは皆、ミズキを見ていた。
「凄いねあの子。スタミナ切れないのかな?」
ピッケル片手にミズキを観察する、紅いロングヘアーの女性プレイヤーが呟いた。髪と同じく紅いその目には、心配の色が1割、好奇心が9割の輝きを放っている。
そんな呟きに答えたのは、ミズキより白みがかった空色の髪と緑の瞳の少女だった。2人はパーティを組み、共にアイテム収集に訪れていた。
「多分切れてる。でも、投擲の前後とアイテムを拾う瞬間に回復してる......?」
「なるほど......ん? ねぇ今、トビトカゲの石を迎撃しなかった?」
「......してた。凄まじい精度。気持ち悪い」
「レベル幾つくらいなのかな〜? ネルちゃん、聞いてきてよ」
「やだ。人見知りレベル99の私には不可能」
「え〜? じゃあ私が聞くしかないのぉ......?」
接近するトビトカゲの頭を槍で一突きした女は、職業『暗殺者』の初期スキルである、『隠密行動』で近付いた。
後ろからそっとミズキを捉えた瞬間──
「そこっ! ってヤベぇ! すみません!!」
5メートルほど離れていた女の膝に、2本のダガーが刺さっていた。片方は膝の真ん中を捉え、もう片方は追撃と言わんばかりに1本目の真横に投擲されている。
ネルの言った「気持ち悪い精度」の投擲を味わった女は、頬を紅潮させてミズキの両手を取った。
「凄いわあなた! どうやってそんな技術を身につけたのかしら? よければ私にも教えてちょうだい! あ、もちろん対価は用意するわ! はい、フレコ」
「え、えっ......あっ」
あまりの勢いにしどろもどろになったミズキは、そのままフレンドコードを受け取った。ミズキの真紅の瞳は困惑に染まっているのに対し、女──キュール──の瞳は興奮して瞳孔が開いている。
その一部始終を遠くから見ていたネルは、内心で『止めておけば良かった』と後悔していた。
「すみません。技術は財産なので教えられません」
「あ......そ、そうよね! じゃあレベルだけでも!」
「レベルは10です。それでは」
そう言って次の採掘ポイントへと駆けるミズキ。呆然と後ろ姿を眺めるキュールは、動き出せないでいた。
「嘘でしょ......? 私より20も下で、アレ......?」
レベル10。キュールはミズキのレベルが低いことを前提に話しかけていたが、それでもレベル20が限界だと思っていた。しかし、その実態はプレイヤースキルに全てを捧げたプレイングだと判明。
我に帰ると、早速ネルに報告したのだった。
◇ ◆ ◇
「あ〜あ、武器屋閉まっちゃった。営業時間聞いとけばよかったな」
月明かりを頼りに武器屋へ訪れると、見事に扉が閉められていた。
流石はリアルを追求したゲームだ。制作は『ストーリープロジェクト』という、ことゲーム制作においては日本一、いや、世界一とも言われる団体だ。
そんな人達が作るゲームは、ゲーム内時間で店は閉めるし、季節によって現れるモンスターも変わる。故に没頭してしまう。
俺もその魅力に取り憑かれた1人だ。
「仕方ねぇ。朝になるまで猪突猛森で遊ぶか」
ナイフの耐久値は十分あるので、ダガー集めをしつつ兎を狩ろう。早く剣が使いたくて街に来たのに、結局買えずに一日目が終わるのは少々悲しい。
しかし、あの場で買わない判断を下したのは俺だ。
まずお金を用意しようとしたのは、決して間違っていないはずだ。
「そういやあのお姉さん、槍使ってたなぁ」
俺も使う予定がある武器だし、投擲の技術と引き換えに槍の技術を盗めるかな?