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初心忘るべからず(初心者)


「へー! じゃあこのゲームのこと、色々知ってるんですね! わざわざすみません、こんなペーペーが色々と聞いちゃって......」


「だ、大丈夫。困った時はお互い様だから」



 あの少女に正当防衛ナイフを食らわせた後、俺はもう1人の銀髪美女に道案内を頼んだ。名前を聞いても教えてくれない辺り、この人はあんまり他人と関わりたくないプレイヤーなんだろう。


 申し訳ないが、今回ばかりは我慢してもらおう。



「あ、短剣兎(ダガーラビット)


「俺がやりますよ」



 兎狩りに慣れた俺は、突進してきた短剣兎(ダガーラビット)の短剣を掴み、そのまま首を切るという技を会得した。

 掴み所が悪いとダメージを受けるが、白刃取りの要領で掴めば問題無い。



「......すごい」


「慣れたら誰でも出来ますよ。やろうとしないだけで」



 大体の物事は同じだ。0を1にするのが難しいだけで、1を10にするのは案外簡単だったりする。最初に必要になる着火剤が重要ってだけだ。


 インベントリにある大量の兎肉と皮、短剣を眺めながら、俺は美女さんの後ろを歩いた。




「えっと、この先にエリアボスが居るんだけど、倒せたらもう街が見えるから、案内はここまででいい?」


「はい、ありがとうございました!」



 ピシッと美女さんに頭を下げた俺は、エリアボスが待ち構えるという円形に背の高い木が伸びている場所へ歩き出した。



「あ、ちょっと待って!」


「はい?」


「あの子からドロップしたペンダント、返してくれないかな?」



 ものすご〜く拒否したい申し出なんだけど、受けなかったらどうなるか、怖いんだよなぁ。

 ......まぁいっか。余計な軋轢を生みたくないし。



「どうぞ。次からは気を付けてとお伝えください」


「よ〜く言っておくね。本当にありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございました。では!」



 今後この2人に会うことが無いだろうし、会ったとしても覚えてないっしょ。

 俺は短剣と共にペンダントを返すと、一直線にボスエリアへと走った。背中を刺されないか心配だったが、杞憂に終わった。



「ふ〜ん、ここが戦闘エリアか......おっ」



 半径15メートルほどの円形フィールドに足を踏み入れると、壁のような木々がザワザワと騒ぎ始めた。

 3秒後、俺の前に大きな影が現れ、鈍い音を立てた。



『ブルルルルル!!!』


「えっ......鹿?」


◆━━━━━━━━━━━━━━━━◆

『ジ・ガース』との戦闘を開始します

◆━━━━━━━━━━━━━━━━◆



「いきなり始まる感じかよォォォ!!!!」



 ウィンドウ表示と同時に突進してくる、角が異様に大きいジ・ガース。間一髪で避けると、黒い角が青く輝き、180度回転して再突進してきた。



「──あっぶねぇぇ!! ってかこの森のモンスター、今んとこ突進しかしてこねぇぞ!!!」



 あの短剣兎(ダガーラビット)でさえ、直撃すればHPが半分持ってかれるんだ。もしコイツの突進を真正面から受ければ......



「即死だろうな。いいぜ、鹿肉。楽しく戦おう」



 美味しく食べられる肉をドロップしてくれ。

 俺は隠しナイフではなく短剣兎(ダガーラビット)から入手した短剣を構え、ジ・ガースの動きを観察した。


 数分間逃げ回って分析した結果、1回だけの突進は角が赤く光り、2回は青に光るということが分かった。そして角にはダメージが入らず、短剣が一撃で折れることも分かった。

 つまり、コイツの突進を避け、一撃を入れたらすぐに離れることが戦闘の要だな。


 ヒットアンドアウェイ。戦闘の基本を学べるボスだ。



「初心者用ボスって感じでいいねぇ! 楽しいよ!」



 少しずつプレイヤーのスキルを磨かせるボス配置。そして少々の思考で安定して戦える行動パターンを用意するとは、運営側も分かってるな。


 初心忘るべからず。戦闘の基本からやり直そう。



「避けて、切って、離れて......避けて、切って、離れて」



 しかしまぁ、同じことの繰り返しではつまらない。

 安定した立ち回りではあるのだが、刺激が足りないと戦闘が作業に変わってしまう。



「避けながら切って、切って、離れて、ヘイヘイヘーイ!!! 鹿さんカモォォォン?」



 1つ工程を合体させて、『煽る』コマンドを追加した。



『ブルルルルルルルルルッ!!!!!』


「うはっ! ブチ切れてらぁ!!」



 ジ・ガースは蒸気を吐き、毛皮を押し上げるほどに血管が浮き出ている。ブチ切れと言うには生ぬるい。憤怒に染まったと言うべきか。

 血管が浮くのは好都合だ。弱点がモロに出ているからな。



「真っ赤だな。首から脚にかけて義眼が喜んでるぞ」



 左目だけで捉えると、急所の兆眼のお陰で刺すべき場所がよく見える。突進を避けつつ血管を一刺しすると、ジ・ガースの首から赤いポリゴンが噴き出てきた。


 ナイフじゃ攻撃力が足りない。街に着いたら、すぐに武器を強化せねば。



「隠しナイフも短剣も、手数特化なだけに一撃が弱いのがネックなんだよな。次の獲物は槍か剣が望ましいぜ」



 余裕を見せて戦っていると、ジ・ガースの行動パターンが変わり、角の振り回しが直撃してしまった。

 強烈なノックバックと共に、HPが7割消し飛んだ。



『ブルッ!!!』


「マズイマズイマズイ死ぬぅ!!!」



 起き上がりを狙った突進。このまま起き上がれば直撃して死ぬ。何もしなくても踏まれて死ぬ。



「......やるじゃねぇか」



 ブルドーザーの様に猛進するジ・ガースが俺と接触する瞬間、俺はジ・ガースの角を横に蹴ることで体をぶっ飛ばした。

 少しだけHPが削れたが、死ぬよりはマシだ。


 流石にもう油断は出来ない。右手で隠しナイフを逆手に持つスタイルに変えた俺は、姿勢を低くして待った。

 右足を引き、何も持ってない左手にはいつでも短剣を装備出来るようにインベントリを出現させる。


 自然と口角が上がるのを感じながら、ジ・ガースとすれ違う。



「オラァッ! さっさと肉になりやがれぇ!!!」



 左眼で見える無数の赤い筋の中から、大きく太い線をナイフで突き刺し、小さく長い線を短剣で切った。

 短剣の耐久値が尽きて砕け散ったが、兎なら大量に居るので問題ない。失速して俺の後ろで倒れ込んだジ・ガースは、数秒の後にポリゴンとなって散った。


◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆

猪突猛森のエリアボス『ジ・ガース』を討伐しました。

『トリポーラ』が解放されました。

◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆


「お〜〜! 勝利ッ!!」



 ウィンドウにて街の解放が知らされると、俺はホクホク気分でドロップ品を掻き集めた。



「小さな鹿の角。毛皮、肉、肉、肉......それと何だ?」



 1つずつインベントリに収納していると、最後によく分からない、茶色い宝石の様な物を拾った。もしかしたらレアドロップの可能性もあるので、後でじっくり調べてみよう。



「さて、ボスも倒したし、街に向かいますか!!!」






 この時、軽い足取りで森を抜ける俺は、後ろから着いて来ている存在に気付かなかった。ソレは小さく浮いていたため、振り返ったとしても、気付けないと思うが。




『......助けて、くれるかな............』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猪突猛森、笑笑 ところどころにちょっとしたネタ入れてくるのいいですね。面白いです! あとやっぱり、戦闘シーンがすごい! どこがすごいかって、見てて飽きないところがすごい…。一言一句残さず読…
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