プレイヤーメイドと我らが博士
名前:ミズキ
職業:放浪者
レベル:25
STR:30(0)
AGI:65(0)
DEX:30(0)
VIT:20(+3)
LUC:5
「実は私、以前は最前線ギルドの鍛冶師をしていたんです」
アンティークなバーのカウンター席で、フードを上げたな〜よさんがポツリと零した。
今の姿に関係がある話と付け加え、壮絶なギルド人生を語り始めた。
「その時は『ななし』という名前で武具を作り、この前戦ったハナミズキさんや他のプレイヤーと協力して、かなり奥のボスまで倒しました」
「なるほど。『ななし』から『な〜よ』に、ね」
原型は失わず、中身が総入れ替えって感じか。
「一応と言ってはなんですが、13番目の街までは攻略したんです。推奨レベルが85とかいう、意味分かんないとこまで」
「85? そりゃまた凄い。その先があるのかね」
「あります。が、それは後で。私がギルドを抜けたのには、それなりに理由があるんです」
人との関わりは苦手だが、仁義はあるからな、彼女。
そうでなきゃワイバーンのレアドロップ2つと、世界一弱い蜘蛛のレアドロップ1つを交換する時、申し訳なさそうな顔をしないからな。
全く、どれだけ劣悪な環境なんだ? トップのギルドってのは。
「彼らは、私の造った武器達を大切にしませんでした。耐久値は無駄に減らすし、武器の効果も理解せず、高いプレイヤースキルとプライドで敵を倒し......武器を壊された時なんて、どう殺してやろうか悩んだほどです」
す、凄まじいまでの職人魂だな。
言葉の棘の撒き方が、忍者が使う撒菱のソレだったぞ。
「私はユニークアクセサリーの効果で、誰よりも先にレベル100になりました。チュートリアルで名前だけ知ることが出来る、『刻み』」
「刻み?」
「言ってしまえば、限界突破です。レベル100から1になる代わりに、ちょっと強い状態で始める感じの」
「強くてニューゲーム、ですか。ほぇ〜」
な〜よさんは生産職上がりだもんな。
今も生産が楽しいと思っているようだが、プレイヤーには一切売ってないみたいだし、今はセカンドライフを謳歌しているのだろう。
「少しだけならキャラメイクをし直せたので、種族をエルフにして、顔をリアルに寄せたんです............あ、ネタバレしちゃ──」
「今更ですし、いいですよ。別にネタバレされたところで、俺がその域に着くのはまぁまぁ先......ちょっと先なんで」
う〜ん、なんかレベル100まで上がれるっぽいぃ。
レベルロック状態のせいでワイバーンの適正レベルで経験値を稼ぎまくり、いつの間にか100までの道程をすっ飛ばしていた。
「ごめんなさい......それでギルドを抜けようと思ったら、なんと退団条件が作られており、私の手では抜けられなかったんです」
「あ〜、それは知ってます。最近の修正で削除された機能ですよね?」
「ですです。私のギルドの退団条件はただ1つ、『100万ゴールド以上の借金を背負うこと』だったので、カジノでボロ負けして退団しました」
なるほどな。それで自分を知るプレイヤーが少なく、かつ安全な彼岸原で鉱石を集めていたんだ。ようやく見えてきた。
そして借金返済間近という時に、俺と出会ったと。
「この一週間は、ギルドから開放された喜びと新たなと、とと、友達が出来た幸せを噛み締め、いっぱい装備を作ってました」
「俺が狂ったようにワイバーンを狩っていたというのに、なんて健気な......」
「ねー! 私も泣けてきちゃう」
ヌルりと会話に参加したのは、ディーさんだった。
彼女もまた人間ではなくケモ耳だが、『刻み』を終えたプレイヤーなのだろうか?
「ディーさんは、その......何刻み、ですか?」
「あ、私? このアカウントは0だよ。っていうか何回刻んでも獣人は選べないから、この世界には私だけ」
「どういうことです?」
「罪人の処罰、限られた種族、システムの理解度。はい、足し算開始〜」
......後ろ2つだけを足せば、チ──
「はいブッブー。答えは『ゲームマスターだから』でした〜! 間違っても私をハッカーだとか言ったら、問答無用で街中首チョンパだったからね!」
「ひぇぇぇ!!」
「なんて悪趣味なゲームマスターなんだ......」
「あっははは! ん、仕事きた。行ってくる〜!」
嵐のようにバーを出ていったディーさんの背中を見て、やはりゲーム関係の仕事は大変なんだと実感した。
「あ、あの! ミズキ......さん」
「改まっちゃってどうしました?」
「その......よければ、なんです、けど」
言い淀みながらウィンドウ操作をしたな〜よさんは、営業マンもビビる勢いで頭を下げ、二振りの短剣を俺に差し出した。
片方は禍々しい黒い輝きを放ち、もう片方は純粋に黒い。光の吸収率が高く、飲み込まれそうな黒さをしている。
「これ! 受け取ってくださいっ!」
「......マジすか」
慎重に受け取った俺は、武器情報を出した。
そこに書かれている文字は、初めて見るもので溢れていた。
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名前:『刻冥双刃』
装備条件:レベル30 DEX110
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「ウグッ! あと16レベルも足りないか......」
「えぇぇ!? あ、あれだけワイバーン倒して、そんなレベルなんですか!?」
「レベルロック外してないんですよね。今みたいに、装備に必要なステータスを貯金してるんですよ」
理由を説明しながら16レベル上げてDEXに極振り。
両手でしっかり握ってみると、軽く振った後に黒い残像が残った。触れると良くない事が起きそうだが、特にそういった効能があるわけでは無い。
俺の持っている限り、最高の無属性武器だな。
「じ、実はミズキさんがワイバーンを狩っているのは知ってました。その、掲示板で話題になってて......それで、動きを見ながら合うように頑張ってみました......ど、どうですか?」
「前半の話は置いておくとして、この剣はとても手に馴染みます。プレイヤースキルにモノを言わせる俺を立てる、軽くて鋭い刃。控えめに言って最高です」
よく切れて耐久値も高そうな『刻冥双刃』だが、欠点もある。それは火山で採れる砥石じゃ研磨できないことと、あくまで短剣なので、兎ダガーのように気軽に投げられないことだ。
元が隠しナイフの『隕』とは違い、投擲より握ることに特化している柄の形からして、使い時を間違えると大惨事になる。
故に、近接戦しかしない状況なら、この子は相当輝くはずだ。
「で、俺が掲示板で話題ってどういうことです?」
「えと、これ......です」
な〜よさんから送られてきたリンクを踏むと、ゲーム内掲示板に俺の戦闘シーンが撮られた動画があった。その投稿に続く返信には、かなりの数のプレイヤーが盛り上がりを見せている。
俺は魅せるプレイは下手だと自負しているが、確かに動画を観ると、洗練された立ち回りは魅せプに思える。
「幸いなことは、名前がバレてないことですか」
「あ、名前は過去にミズキさんを狙ったPKが晒しました」
「......それ、誰かなぁ? この子の養分にしたいなっ☆」
「だだだだ、ダメですよ! ミズキさんにPKマークが付いちゃいます! 赤い名前のミズキさんは、ミズキさんじゃありません!」
俺、復讐は何も生まないとかいう言葉が嫌いなんだ。
だって、復讐は最高の快楽を与えてくれるのだから。
対人戦で散々俺を煽り散らかした挙句、ボコボコされたプレイヤーの表情を見るのは最高の一言に尽きる。
それに、相手がPKなら何の憂いも無い。豚箱にぶち込んでやるぜ!
「今はいいや。見つけ次第裁く方向で」
「急に落ち着きましたね......温度差で風邪引きそうです」
「慣れてますから。でも、人と戦うならまだまだ装備が不安なので、しばらくは防具に力を入れたいんですよね〜」
俺の装備で変わった所は義眼と武器だけだ。肝心な防御力を与える装備は、穴の空いたボロ布一式。よくここまで戦えたものだと、自分を評価したくなる。
「た、確かに、まだボロ布装備ですよね......どうして?」
「単純に気付いてなかったのもありますが、特に攻撃を食らうことが無いので」
「わぁ......一度は言ってみたいセリフですね!」
かの赤い偉人はこう言った。「当たらなければどうということはない」と。この言葉は真理であり、0ダメージに何を掛けても0ダメージという、算数の基本を教えてくれる。
しかし、大半のプレイヤーは反論する。「それが出来るなら誰も苦労しない」と。
そんなこと、当たり前に決まっているだろう。
誰が“全員”出来るって言ったんだよ。才能や、積み上げた努力の果てに実行出来るのであって、ただラクしたいだけの人間には天罰を落としてやる。
遊びであっても、真剣に遊ばないと真理に触れられない。それがゲームってもんだ。
「さっ、まずは古代文明の遺跡とやらに行きますか!」
「ですね! せ、先輩の後を着いて来なさーい......なんて」
照れくさそうに笑うな〜よさんを先頭に、順番にアイテム集めを始めようか。
「っと、その前に............アイツら呼んでみるか」
年始早々ぶっ倒れてました。つらたん。
今日から頑張りますぞい!




