☆ガンガン☆
年末だぁぁぁ!!!
「数々の非道、許さんぞ!」
「あの〜、勘違いかと──」
「言い訳無用! 今ここで滅殺する!」
白い着物装備から赤い着物へと換装した銀桃ヘアー......ハナフブキは、完全に俺をPKプレイヤーだと信じて疑わない。
な〜よさんも弁明してくれているが、後続のプレイヤーは「あの状態の姐さんは怖い」とか言って、傍観を貫くようだ。
「クッソ......レベル差がハンパねぇ」
「フッ、私としてはこの速度に着いてくるお前が怖いがな」
そりゃあ姐さん、このゲームの仕様を理解しているからですよ。
攻撃速度に関する仕様として、STRとAGIのどちらかを参照するか具体的に決められているんだ。
一撃の速度、例えば剣の振り下ろし速度なんかはSTRを参照するが、双剣の様な一撃と一撃の攻撃間隔はAGIを参照している。
しかし、俺のAGIはそこまで高くない。
機敏性や多少の思考加速に影響するAGIだが、俺はその要素をプレイヤースキルで補っている。故に装備条件で求められない限りはAGIに振らず、レベルを保持している。
本当はチビチビとステータスを上げたいのだが、武器に求められるステータスが分からない以上、下手に伸ばせない。
「あ〜、重てぇ。俺の倍はあるだろ」
「倍程度だと良かったな」
ハナフブキは一度身を引くと、静かに刀を構えた。
俺の予想だとあの構えを続けさせるとバフが掛かる。そう考えれば、今の俺が出来ることはただ1つ。
インベントリを開き、装備欄の『全て外す』を押し──
「うぉぉぉぉぉぉ!!!! 逃げるぞ、な〜よさんッ!!!」
「えっ!? きゃぁぁぁぁ!!!!」
極限まで軽量化し、な〜よさんを抱きかかえて逃走。
「馬鹿な!? くそっ、あと5秒は動けな......」
やがてハナフブキの声は聞こえなくなり、2分も走っていると外の光が見えてきた。
だが俺のスタミナはもう尽きている。これ以上走ると疲労の状態異常を超え、気絶する。ここで足を止めても30秒はスタミナ回復に時間を使うので、背後から斬られる可能性がある。
一瞬の思考。俺はある結果を導いた。
「な〜よさん、走れ!」
「は、はい!」
「......イオタ、転送」
「はいなの〜」
背後を向けたな〜よさんを確認してから、イオタに妖精王国へ飛ばしてもらう。
目の前がパッと明るくなると、俺はそのまま意識を失い、硬い床とキスをした。
「あ、あれ〜? おに〜さん? おに〜さん! 大丈夫なの!? ねぇ、おに〜さん!!」
すまんなイオタ。辛うじて声は聞こえるが、1ミリも動けないんだ。1分間の気絶みたいだから、俺と床のキスシーンを眺めてろ。
「──はい、復活」
「起きた!!!」
完全回復して起き上がると、イオタが腹にタックルを食らわせた。地味にHPが減ってしまったが、心配させた代償にしては安い方だろう。
「もう、びっくりしたの......これからはイオタもあっち側に行くの」
「悪かったな。でも、お前の存在がバレると大変なことになる気がするんだ。辞めてくれ」
「や! イオタ、変身するもん! ほら!」
そう言ってイオタは手のひらサイズになり、俺の頭に乗った。何をしたのか分からないのでカメラモードで見てみると、なんと俺にアホ毛が生えていた。
「これでバレないの!」
「アホ毛が喋んな!」
「え〜」
「え〜じゃねぇよ! ぴょこぴょこ動くな!」
「イオタ知ってるの。架空のアホ毛は自由自在って」
「......オーケー、俺が悪かった。君を許そう」
「やった〜! これで一緒に居られるの!」
イオタちゃん、恐ろしい子。
こうして新たなアホ毛......もといイオタがくっ付いた。
俺はな〜よさんに無事である旨をチャットで送ると、どうせだからとデルタリアの塔へ足を運んだ。
「ちゃ〜っす、博士」
「ん。そこに座りなさい、助手」
白衣姿のデルタリアを博士呼びすると、流れるように椅子に座らされた。
相変わらず謎の文明を支配する彼女の工房兼研究室は、誰が見てもクエスチョンマークを浮かべるほどに情報量が多い。
水晶の画面やレーザーのキーボード。樹液がコーヒーの木はマグカップを掴んでおり、ロマンを感じる。
「面白い物を持ってるわね。見せてごらんなさい」
「面白い物? ンなもん無いですわよ」
「あの蜘蛛の眼よ? 面白いじゃない」
そう言えばと思い、『風を捉える目』を手渡すと、胸ポケットから取り出したルーペで観察しながら口角を上げたデルタリア。
しばらく自分の世界に浸ってそうなので出されたコーヒーを飲んでいると、おもむろに俺の前に立ちはだかった。
「失礼するわ」
「ん? あぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うるさいわね。義眼取ったくらいでピーピー泣かないで」
叫ぶだろ! こちとら急に左目取られてるんだぞ!!
俺、アニメでしか見たことねぇよ......他人の目を抜き取るやつ......経験したくなかった。
アホ毛のイオタがブンブン横に振るので、意外にも大丈夫だと言って落ち着かせた。
「うん、良い感じね。はいこれ、新しい装備」
「......緑色の義眼か」
たった数秒で義眼を返されると、新たに瞳が緑色の義眼を手渡された。光を透かし、風を呼び起こしそうな神秘性を放っているが、素材が素材だけに不安しかない。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
名前:『追風の瞳』
効果:MPを30消費し、AGIを10%増加させる。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「え? 強くね?」
「私が作ったもの。当然よ」
「流石っす博士!」
「むふんっ。くるしゅうない」
AGIバフのアイテムなんて相当な価値があるだろう。
特に俺みたいな回避前提の動きをするなら、攻撃から回避繋がる時間の短縮と、純粋な移動速度が上がる効果は喉から手が出ちゃったほどに欲しい代物。
デルタリア博士に多大なる感謝を捧げ、装備した。
「悔しいぐらい似合ってるわね」
「ありがとう。早速使わせてもらうよ」
「あら、もう行くの? だったら今度、ワイバーンの瞳と風神蜘蛛の複眼、あとは純銀を持ってきて。そしたらもっと良い物、作ったげる」
「アザーっす! それじゃ、また」
塔を出て妖精王国の中央広場こと、街への転移をする前に、俺はモンスターリストからワイバーンの瞳について調べてみた。
アイテム名が『???』になっているが、ちゃんとドロップ率が記載されていた。
「......確率0.07パーセントか。泣いていい?」
「笑えばいいと思うの」
「引き抜くぞアホ毛野郎」
「ば、罵倒に使っていい言葉じゃないの!」
はぁ、集めたい素材がまた増えちまったな。
な〜よさんに手伝わせるのも申し訳ないし、ちょっくら飽きるまでワイバーン周回でもするかね。
人間の姿で巨大生物と戦うの、夢があるし。
今までは人間同士で戦うことしかしてこなかったからな。たまには血なまぐさい世界から離れ、ファンタジーに生きるの悪くない。
!!!ぁぁぁだ末年