ハイド・ハイド・ハイド
13時間寝た時の絶望感
一度ログアウトし、翌日の夕方。
生産中のな〜よさんに連絡したところ、信じられない速度で「行きます」と来たので、早速ここ──風燐火山──へと足を運んだ。
「あ、熱いですぅ。地味に減るHPがなんとも......ミズキさんは大丈夫、ですか?」
「元気ですよ〜! ただ、ここの鉱石ポイントが」
硬い。そう言おうとした瞬間、1本の針が飛翔した。
俺の太腿に刺さった針がポリゴンに変わると、HPバーの上に2つのドクロマークを与えた。
黄色いドクロは麻痺状態。紫色のドクロが毒状態だ。
針が飛んできた方向を覗くと、確かに人の気配を感じた。
しかし、完全に姿を捉える前に視界が地面と衝突したのだった。
(おに〜さん、まずいの!)
「......だな」
ディーさんが言っていた通り、PKの数が多すぎる。
早いとこ誰かがPKギルドでも作ってくれないと、初心者がただの餌になってしまう。
あ〜、どうしよ。解毒ポーションだと麻痺は解除できないんだよな。
指が動かないからパーティ内チャットも打てないし、どうしたもんか。
「ごめんね〜、前に殺られた恨みってことで」
何とかして首を動かすと、トリポーラに行く前、俺に向かってナイフを投げた少女が満面の笑みで立っていた。
まずいな。装備を奪われたら大変な事になる。
「じゃ、ばいば──」
静かに。しかし確実に、眼前に立つ少女のこめかみを矢が貫いた。
「み、みみ、ミズキさんの仇ですっ!」
「......まだ、死んでない、です」
急所判定だが、何かしらのスキルで耐えたのだろう。
少女はダガーを構えると、な〜よさんに向かって一気に距離を詰めた。
「──死ね」
「えぁ、ちょっ」
鋭い刃がな〜よさんの首を傷つける寸前、甲高い金属音と共にナイフが吹き飛んだ。
麻痺が解けた俺はすぐにそちらを見ると、何やら2人の男が少女を拘束し、な〜よさんを助けていた。
「PKとか初めて見たな。いや〜、怖い怖い」
「お姉さん大丈夫〜?」
「あ、あっ............」
何とか体を起こした俺を発見したな〜よさんは、すぐに俺の後ろへと隠れてしまった。
「すみません。助けて下さりありがとうございます」
「いやいや、困った時はお互い様でしょ?」
「最近はPK多いっぽいし、助け合おうよ」
有難いな。そう言ってくれる人がいると遊びやすい。
......ただな、どうしてその少女を殺さないんだ?
拘束も緩いし、吹き飛ばしたナイフも回収している。
いや、考え過ぎか。今は無事を喜ぼう。
「この子どうするよ。処す?」
「処す」
「や、やめろ! クソ野郎共! 私を殺したら──」
「はいざんねーん。辞世の句は詠ませませーん」
うわぁ、思ってたより酷いな、これは。
それにしてもあの子を殺した茶髪の男、完璧なまでのクリティカルを出していたな。左眼を確認させて欲しいんだが......お!
あの眼は『急所の兆眼』じゃないか!
まさか同業者とはな......いや、放浪者だけど。
「さてと、一緒に攻略する? 一応僕ら、レベル50を超えてるから、ここぐらいなら勝てるよ」
甘いお誘いだな。まるでウツボカズラのようだ。
丁重にお断りしようとすると、な〜よさんが俺を押し倒さんばかりの勢いで「甘えましょう」と言ってきた。
俺、この人達を信用するのはダメだと思うんだよな。
「ボスエリアはどんな感じなんですか?」
「ボスはワイバーンだよ。ボォって火を噴く」
「へぇ〜、空を飛ぶ相手は怖いので、甘えさせてください」
「任せて。後輩の教育も、先輩の役目だからね!」
おかしいなぁ。俺、『ボスエリア』について聞いたんだけどなぁ。ちょっと気が早すぎないか? もう少し落ち着こうよ。
「な〜よさん、最後尾で警戒を。あのお2人はとても強いので、前線で漏れた雑魚を倒しましょう」
「わ、分かりましたっ!」
「良い指示だね。得手不得手をちゃんと理解してる」
得手不得手だぁ? お前らがそれを言うかね。
演技とは何なのか、人の心を掌握する空気の支配力を鍛えてこいって、ハッキリ言いたいけどね、俺は。
な〜よさんを後ろに置いておけば、俺が守れる。
PKを狩るPKを装うPKなんて、まどろっこしい事をすんなよ。
そうして雑談をしながら火山の中を進むと、一際大きな卵状の空間に出た。
溶岩の海から高く伸びる火柱と、湧き上がる溶岩がこの部屋の主、ワイバーンを包む。
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『ワイバーン』との戦闘を開始します
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「よし、お前らはもう用済みだ」
「ぐっばーい」
「えっ」
俺たちがワイバーンを覗き込んでいると、予定調和とも取れる言動の後に、リーダーの男がな〜よさんを突き落とした。
──が、俺はすぐに伏せ、彼女を拾い上げた。
「んなっ!?」
「な〜よさんの仇ッ!!!」
抜剣される前に腕を掴み、背負い投げる。
溶岩には落とせなかったが、数秒のダウンは取れた。
続いて茶髪の男が俺を落とそうと足を振り上げるが、前に飛び込んだ俺には当たらなかった。
「周りを見ろよ〜」
「あああああああああああっ!!!!!」
ワイバーンの吐いた炎が男に直撃し、炎上ダメージを与えた。この隙に俺は起き上がった男を蹴落とし、ふらついた茶髪の首を一閃する。
「な〜よさん! 時計回りに走って!」
「......は、はい!」
ワイバーンが狙いを付けたのは彼女だった。
俺たちの居る足場をブレスで薙ぎ払おうとするが、読み通り、時計回りに走ることで回避出来た。
「来いっ!」
『グォォォォォォォォ!!!!!』
ワイバーンが吠えると、溶岩から幾つもの足場が出現し、1つの広いフィールドへ変化した。
俺は『隕』を構えて近付き、鱗の薄い腹側を切るが、ここは弱点ではない。
そしてあまりにも硬い鱗に弾かれると、ワイバーンは尻尾で俺を吹き飛ばした。
「ミズキさん!!!」
オッホォ! 残りHP、20! 武器以外は初期装備だからな。よく生きていた、としか言えないぞ。
ポーションをがぶ飲みして全快した俺は、再度ワイバーンに向かって駆ける。
次は噛みつき攻撃をしてきたが、首を引く予備動作が大きいため、すんなりと回避した。
「行くぜ新スキル!『短剣穿孔』!」
ワイバーンの首の下。さっきより柔らかそうな部位にスキルを使うと、赤黒いポリゴンが吹き出した。
暴れ狂う巨体から離れ、今度は受狂者を装備した。
『グォォォォォォォォ!!!!!』
「オラァ! カウンターパァァァンチッ!!!!」
尻尾攻撃を跳ね返すようにぶん殴ると、受狂者が受けた物理ダメージの、30パーセントを魔法攻撃にして反発した。
パリィ判定が入り、俺はノーダメージ。
対してワイバーンは、弱点であろう魔法攻撃を食らい、大ダウンだ。
「な〜よさん! 全力攻撃!」
「はいっ!」
俺は再度『隕』に持ち替え、一度貫いたワイバーンの首元を何度も斬った。そして段々と弱ってきたところに、な〜よさんの放った矢がワイバーンの眼に刺さり──
ワイバーンは、ポリゴンとなって散った。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
イェーイ! とハイタッチをすると、背後から数人の足音が近付いてきた。
「見つけたぞ! シャドウハイドめ! ここで処す!」
「......え? 俺ぇ!?」
銀と桃色のロングヘアーの女が現れ、俺を斬り殺さんと刀を振り下ろした。
あの時みたいにっ! 前書きで遊びたいッ!!!