デジャブをもう一度
よしっ
PK集団から奪っ......渡された物をトリポーラで換金した俺たちは、一度宿でリスポーン地底を固定してから彼岸原に出た。
今日も鉱石集めに勤しむプレイヤーを横目に、更に奥へと進んで行く。
「ほぇ〜、鉱石ポイントの奥にボスエリアがあるんですねぇ〜」
「ですです。でも、すっごく厄介なボスでして、適正レベルは20らしいんですけど、体感は......」
「体感は?」
「40レベです」
事前にな〜よさんの経験を聞いた俺は、ボスがどんな厄介な技を使うのか、敢えて聞かずにボスエリアへ進む。
初見の楽しみを奪いたくないという彼女の優しさに甘え、この1回は情報ナシで挑ませてもらうぞ。
袖に『隕』を隠し、インベントリからいつでも受狂者を取れるようにセッティング。
毒を使う可能性を踏まえ、太もも付近に出したインベントリには解毒ポーションを取り出せるよう、ウィンドウ2枚体制で戦う。
な〜よさんが引いてる気がするが、きっと気のせいだ。
「こういうゲーム......慣れてるん、ですか?」
「いや、そんなに。俺が憧れてる人ならこうすると思うので、真似してるだけです。尤も、その人の足元にも及びませんけど」
楽しむ心を忘れずに。予想外の事態に陥っても、如何に「楽しさへの追求」を捨てずにいられるか。それが大事だ。
「き、来ます!」
広大な円形状の岩石フィールドの上空から、大きな影が降ってきた。ソレは地面に激突する瞬間、強烈な風を噴射し、この戦闘エリアを縦横無尽に飛び回った。
特徴的な8本の足と、ギラついた複眼。
腹部にある空気の噴射口に、鋭利な鎌状の脚。
「風神蜘蛛じゃん。そりゃ厄介だわ」
「し、知ってるんですか?」
「多分、世界で誰よりも」
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『風神蜘蛛』との戦闘を開始します
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あのアナウンスが視界上部に出現し、戦闘開始。
今回は武器を使い、ちゃんと戦おう。
まずは彼の得意技、なんか色々ブンブンからのシャキーン! だ。
ジェット噴射で撹乱してからの水平薙ぎ。最早見なくても音だけで捉えられる。
俺の背後から接近した脚を、攻撃判定が発生した瞬間に弾く。すると──
「ほいっ! パリィ成功〜」
ひっくり返ってダウンした風神蜘蛛の脚の関節部位を破壊していき、最後に首にクリティカルヒット。
しかしHPを0に出来ず、風神蜘蛛が起き上がった。
「凄い......無駄が無い」
な〜よさん、是非シミュレーションゲームの方を遊んでみて欲しい。この蜘蛛がわんさか出てくる森にスポーンした時、1秒の無駄で死ぬ環境に置かれると、嫌でもこうなるんだ。
「次で仕留めてやろう。確かにお前はジ・ガースより戦いにくいが、ステータスとしては同等。レアアイテムでも落として死にやがれ!」
瀕死になった風神蜘蛛は体が赤く輝き出し、速度が上昇する。憶測だが、上昇倍率は1.3倍。時速200キロメートルを超える速度で俺に襲いかかる。
でも、まだ足りない。稀に出現する風神蜘蛛変種個体の最大速度は時速にして270キロメートル。あの弾丸に比べたら、コイツはまだマシだ。
「な〜よさん、武器は?」
「えと、弓ですっ」
「じゃあ4数えるから、0になったら俺に向かって撃ってね。はい、よ〜ん」
「ええぇぇ!?」
強引に矢を番えてもらうと、カウントダウンを開始した。
「さ〜ん」
俺は降りかかる斬撃を全ていなし、ヘイトを買い続ける。本来なら即死級のコンボも、リズムを覚えていれば簡単に弾ける。
「に〜い」
解毒ポーションを取り出し、天高く投げた。
「い〜ち」
次は回復ポーションを低めに投げ、武器を仕舞う。
両手が自由になったタイミングで風神蜘蛛の鎌が俺の腹の真正面を捉える。
「ゼロ」
ダメージ判定が当たる瞬間に風神蜘蛛の脚を掴み、左足を軸に全力で半回転。
そして指示通りに放たれた矢は、見事に風神蜘蛛の頭を貫いた。
全身がポリゴン化して爆散すると、ウィンドウの出現と共に、頭上から落ちてきたポーションを浴び、減ったHPと毒状態を回復した。
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彼岸原のエリアボス『風神蜘蛛』を討伐しました。
『クアディス』が解放されました。
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「よしっ! ナイスですな〜よさん!」
「ほ、本当に倒しちゃった......」
ポカーンと口を開けている彼女を横目に、俺は戦利品の回収を済ませる。
今回入手したのは3つのアイテムだ。高確率でドロップする『風神蜘蛛の背殼』と、中確率の『蜘蛛毒』そして──
「わぁお......キッショイ目ん玉......」
「うわぁぁぁぁ!?」
今にもギョロギョロと動き出しそうな、緑の眼球。
明らかに蜘蛛の目ではないソレは、『風神蜘蛛』の純レアドロップ『風を捉える目』だ。
100体倒して2個出れば良い方なのだが、中々の強運だな。
「な〜よさんの方は何が出ました?」
「えと、私も同じ物が出ました、です」
「この目も? じゃあ泥率共有してんのかな」
「いえ! パーティを組んでも、その人によってドロップ品は変わります!」
「ってことは、2人して豪運っすね!」
ラッキーだ。属性のある武器とか存在するなら、コイツの素材は毒属性や風属性の装備に使うだろうからな。
今のうちに周回しても良いと思うが、まずはこの世界を見てみたい。それから、イオタの事やセラの作成と、やるべき事かある。
必要になったらやればいいや。
「──で、ここが4番目の街クアディスと」
「ギャ、ギャンブルとか出来ますっ」
「ギャンブルとな......?」
煌びやか、と言っても金やガラスを用いたファンタジーな輝きを放つ街、クアディス。ここでは様々なギャンブルを楽しむことができ、最もプレイヤー人口の多い街だそうな。
金策にしても良し、アイテム売買をしても良しと、ゲーム的にも救済要素の多い場所らしい。
「あそ、そういえばミズキ......てゃんは、どんなジョブに就いてるんです、か?」
「放浪者ですよ」
「......まっずいですね」
「まっずいの!?」
「放浪者と無職は入店お断りのカジノが多いんです。なので、人気なカジノはもっぱら入れないかと」
うっそ〜ん。お兄さん、ギャンブルしたかったなぁ。
な〜よさんに手を引かれて裏路地に入ると、クアディス全体のミニマップを出された。
彼女は俺と肩がくっ付くほど近づくと、大きなカジノを順に指をさした。
「ここと、ここ。あと東の......ここ。これらは放浪者はおろか、下級職は全て入店出来ません」
「下級職?」
「え......? チュートリアルでやりませんでした? ジョブチェンジとクラスアップについて」
「生憎、放浪者は街でスポーンしないんですよ」
「............どうやってここまで?」
「PKしてる人に聞きました。人数差が付かなくなれば、みんな簡単に教えてくれたんです」
な〜よさんの言葉で思い出した。『そういえばチュートリアルやってねぇな〜』と。
でも、お陰でイオタやな〜よさんに出会えたし、あの忌々しきマーニェイズとも戦えた。アンラッキーな始まりも、振り返れば綺麗な思い出だ。
にしても、職業が重要なゲームなのだろうか?
その辺に関してはイオタ達に何も言われなかったし、やっぱりカジノというコンテンツが職業を参照しているだけかもしれない。
あ〜、それでもギャンブルしたいな〜。
クラスアップについて聞こうか悩んでいると、路地の奥から現れた背の低いローブのプレイヤーが、俺の腕を引っ張った。
「ちょいちょい、そこのお2人さんや。カジノに入れなくて困っているなら、ウチの行きつけを案内するぞよ」
フード越しでも分かる、頭にある2つの山。
この人......ケモ耳だ!
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