レベリングなの!
イオタさんは今回お休みです
「253、254、255ォ!!」
兎シバきを始めて1時間。一向に俺のレベルが上がらない。気分転換にトカゲを狩ったりしたが、それでも無駄に終わってしまった。
「分からねぇ......分からねぇぜクソ野郎!」
「あ、あの!」
「なぁん?......あ、すみません。何でしょう?」
ステータス画面を殴って消していると、俯いたままフードを被った少女に話しかけられた。
頭上のネームタグには『な〜よ』の文字が。
うん、確かになよなよしている。
「あの、ステータスでレベルロックしてるんじゃないかな、と思いまして......すみません」
「レベルロック? まさかそんなことしてるワケ──」
◇───────────────◇
レベルロックが適用されています
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「ありました」
「やっぱり......でも、これでレベルが」
待てよ? 俺のレベルが上がらなくなってから、どれだけのモンスターを討伐した?
まず頭に浮かぶのが、デルタリアの塔だ。俺が倒した90幾つかのボスモンスターに、経験値が設定されていた場合どうなる?
そうだね。物凄い量の経験値が流れ込んでくるね!
「出来たらでいいんですけど、現状の最高レベルって幾つがご存知ですか?」
「えと、プレイヤーの、ですか? だったら確か......71?」
ほう。71レベがどれ程の経験値が必要なのか知らんが、流石にあのボス達でも足りないだろう。
レベルアップと同時にスキルを入手出来る仕様上、プレイヤーレベルを上げずにスキルレベルを上げる、というやり方がセオリーになっているらしい。
ん〜、とりあえず『解除』と。
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レベル上昇量を指定してください(62)
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「神仕様アザーっす!!」
ってか62レベ上がってんのか。やるな、俺。
......ん? 62?
今の俺のレベルは13から変わっていない。そこに62を足せば......?
よし、見なかったことにしよう。
「こここ、このゲーム、レベル上げがまぁまぁ簡単、です。30くらいまでは」
「そ、そうですよねぇ! 俺も今、ビックリしましたよぉ。えぇ」
あの塔、とんでもない経験値箱だったんだな。
知ってるモンスターが居たせいで、俺の感覚が狂っていたな。
さて、と。ステータス、振り分けますか。
「あ、あの!」
「はいはいなんでしょう」
「その、パーティ......組みみゃせんか? あぅ」
Oh......勇気を出したのに噛んじゃったか。
パーティ、パーティか。特にフレンドもいないし、試しに組んでみるのもアリかもなぁ。
「オーケー、組みましょうか。方針とかあります?」
「ほほほ、方針!?」
「まったりやるのか、ガッツリやるとか。プレイヤーメイドの装備を売るのがメインとか、そんな感じの方針です」
別に無くてもいいけど、『じゃあなんで俺らパーティ組んでんの?』と思った瞬間、解散してしまうからな。
折角のパーティプレイなんだ、方針とかあった方が面白いだろう。
俺が出すなら、そうだな......レアアイテム収集?
「きき、決めました!」
頷いて促すと、な〜よさんはプルプルと震えながら叫んだ。
「ま、まったり激しくズッコンドッカン!」
「最早アウトだろ」
狙ってるとしか思えんな。却下だ。
思いついた時点で何かおかしいと思わなかったのだろうか。それになんだよ。『まったり激しく』って。
ツッコミどころ満載だな!
「適当にやりながら決めましょうか。あ、ミズキです。得意なことはPVP、苦手なことはコミュニケーション」
「あ、ども、な〜よです。得意なことは......無いです。苦手なことは生きること。よ、よろしくお願いします!」
「よろしく〜」
初めてのフレンド交換、と思ったが、いつの間にか俺のフレンド欄に『キュール』という名前のフレンドがいた。
いつフレンドになったか覚えてないが、関わることも無いのでそのままにしておこう。
「な〜よさん、レベルは幾つ?」
「あ、42です。今は鉄鉱石で金策してて、疲れて森に来たらミズキさんと......デュフ」
「鉄鉱石が金策になるんですか?」
「あ、はい。1個600ゴールドで取引されるので、それなりに。100万まで後ちょっとなんで......ウヘィア」
笑い方のクセが強すぎるだろ。
にしても鉄鉱石か。う〜ん、どっかで見たような......?
あ。換金しようと思ってた鉄鉱石、忘れてた。
インベントリから検索すると、【鉱石】タブの中には3桁のアイテム達がゴロゴロしていた。
確か鉱石を集めた後、マーニェイズと戦って、それから城剣・セラのクエストを受けて、イオタと出会って......。
なるほど。次から次へとイベントが起きたんだ。
「俺、これから攻略に行きたいんですけど、な〜よさんはどうします?」
「て、手伝います。クアディス前のボス、面倒なんで。ええ」
「それはありがたい。では早速......ん?」
「み、ミズキさん?」
こちらに近付いてくる足音が4つ。
弓の弦を引く音が聞こえた。抜剣の音は無し。
喉が鳴る音、浅い呼吸の人間が1人。
ふむ、察するにPKだな、これは。3人は慣れているが、1人は初めてってところか。
俺は静かに隠しナイフ── 『隕』──を水平に抜いた。
「いえ、なんでもありません。行きましょう」
な〜よさんと共にトリポーラの方角へ向いた瞬間、バシュッ! と矢を放つ音を捉えた。
俺は振り向きざまに『隕』を薙ぐと、眼前の矢はポリゴンとなった。そして殺意に満ち溢れた男が3人出てくると、な〜よさんが尻もちをついて驚いた。
「えぇぇ!? 誰ぞ〜!?!?」
「PK集団です。さっきから近付いてきてました」
「どど、どうしよう?」
「任せてください。さっきの話を思い出して」
俺の本業、それは究極の対人戦。
あの人に憧れて始めた対人戦は、見た目の野蛮さから程遠い、深謀遠慮の心理戦。腕の力だけでは勝てない奥深さに、俺はハマった。
あぁ、きっとあの人もこんな気持ちだったんだろう。
積み上げた経験の山から見下ろす景色は、実に美しい。
「右腕を狙え。刀を奪う」
「おう!!!!」
初期装備であろう剣を構えた男が突っ込んでくる。
な〜よさんには一切手を触れさせないため、俺は1歩引いてから男の顎を蹴り上げ、近くの木に激突させた。
続くリーダー格の男に急接近すると、後方から矢が飛翔した。
「おっ、武器サンキュ」
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
援護射撃のつもりだったのだろうが、バレバレの射線は味方を殺す。ほぼノールックで矢を掴んだ俺は、男の目に刺し、『隕』で首を一閃した。
残った2人はまだやれると踏んだのか、息を合わせて突撃を仕掛けた。
「最初から4人でそうしなよ。四天王方式はただのエサって、普通気付かない?」
ダガーを構えた男とレイピアを持った女。
四方から攻撃すれば勝率が高いものを、ここに来て使ったところで意味が無い。
それと、ステータスが低いのか知らんが、動きが甘い。
リーチの関係的にレイピアの剣先を右手のひらで受け止めると、そのまま右腕を男の方へ振り回す。
「あぁっ!?」
「一丁あがりィ! お前ら、PKする相手は見定めろよ? このゲームは基本モンスターとの戦いだが、俺みたいな対人戦特化のヤツも居る。視野を広く、ね?」
動けなくなった2人の首を薙ぎ、平和が訪れた。
足元に落ちているレイピアとネックレス、緑色のポーションと『急所の兆眼』を広い、な〜よさんに振り返る。
尻もちをついた拍子に外れたフードから覗く少女の顔は、非常に整っていた。
サラサラ靡く白金の髪と、宝石の様な深紅の瞳に潤んだ唇。そして柔らかそうな頬とスラリと伸びた耳は、非常に目を引く存在が──
......は? 耳?
「え、エルフ?」
「はぇ? あ、あっあっ、ち、違って、これ......その」
キャラメイクの時に種族という項目は無かった。
それ故に、一瞬だけNPC説を疑ったが、フレンドにもなったので破綻した。
つまり、この人は他人が知らない方法でエルフの姿になった。
「言わなくていい。秘密があるのは俺も同じだ」
すぐに彼女のフードを被せてあげると、な〜よさんは顔を真っ赤にしてしゃがみこんでしまった。
彼女も俺と同じように、世界依頼か、それに準ずるクエストを受けたのだろう。だったら、おいそれと他人に言えない問題だ。
コスプレ説も拭い切れないが、まぁ保留だな。
「行きましょう。面倒と言われるボスも、2人なら何とか出来るでしょう」