秘伝・奥義・必殺!!!
喘息にプラスして自律神経失調症になったのでつらい。皆様お気をつけ下さいませ。
「3ヶ条、2本先取で。いい?」
「りょ〜かい。負けても粘着すんなよ」
「しない」
「粘着した所で俺はまたココを離れるけど」
「............粘着していい?」
「3秒前の言葉思い出せブァーカ」
シラユキはサギリとルール確認をし、向かい合う。
先程まで騒がしかった見物客も、2人が位置についた瞬間に唾を飲む。
異様。
2人を取り巻く空気が、ギリギリスとシラユキの戦いとは比べ物にならないほど重く、冷たい。まるで本当の殺気を浴びているかのように指先が震える者もいる。
白刃取り音頭の対人戦専門のプレイヤー、キルマン。
言葉の意味を深く読み解き、“斬る人”と書いて、そう発する人も多い。
ゲームの中とはいえ、白刃取り音頭は斬った感触が手に残る。あまりにリアルな感覚に、吐き気を催し、トラウマになったプレイヤーも数しれず。
だがこの2人は、そこに悦びを覚えた。
「さぁ、やろうか。リハビリ相手にはちと厳しいが」
「今日こそは勝つ。私のノートに勝利を刻む」
互いに鞘に手を触れる。
「「お命頂戴ッ!!!!」」
(先手、来た! 神キャンの次を予測!)
先手はシラユキ。素早い接近からの神キャン抜刀、振り上げで音速刀と見せかけて蹴り上げ。
警戒していたとはいえ、刀以外による攻撃の優先順位は低いため、サギリの反応は少し遅れた。
鼻頭を掠めた足先では、一本の判定にならない。
(蹴り上げなら重心がブレるはず! 決めるなら今──)
サギリが刃を抜いた瞬間、視界が左へ吹き飛んだ。
「俺は数々のゲームで生き抜いてきた。自慢だが、VR格ゲーではプロにまみれて遊んでたんだ」
シラユキが決めたのは、蹴りあげの勢いを乗せた回し蹴り。刀は振り上げたタイミングで頭上に捨て、確実な勝利の為に肉弾戦を仕掛けた。
恐怖。サギリは知らなかった。シラユキは白刃取り音頭の剣術だけでなく、格闘術まで持っていることを。
『あなたの悲鳴を響かせて』、イベントランキング1位。斬った人数は15万7000人。2位と6万人もの差をつけて走り抜けた男は、まだ力を隠していた。
「一本げっちゅ〜♪」
サギリが立ち上がる前に刀を拾い、シラユキが収めた。
「......このゲームで蹴られたの、初めてだったわ」
「音ゲーの方ではよく蹴られてただろ?」
「物理的な意味よ!」
粘着プレイヤーとして有名だと、手を差し伸べる者も少ない。嫌われ者に自ら近づくのは、無知か愚か者だけだ。
軽口を叩き合い、再度位置につく。
鮮やかなシラユキの一本に、サギリ以外誰も言葉を発することなく2試合目へ突入する。
「「お命頂戴!」」
今回は両者様子見スタート。しかしシラユキの攻撃手段が新たに増えたことにより、サギリの読みの精度は格段に落ちていく。
待ちに徹するサギリ。後手でカウンターを仕掛けるしか、勝機が無い。
一方シラユキは、待たせることに全力を注いだ。
今の彼女の思考を読み、混乱を招いたことを確信し、切らせる手札を倍増させる。
ふんどし姿に似合わない、理知的な立ち回りだ。
試合開始から2分経過。
思考の海に溺れる相手に、先手を取ったのはシラユキだ。
動き出しと同時に抜刀し、剣先を下に接近する。
視線を下に下げさせることにより、先程の蹴り上げと切り上げ、ブラフからの格闘術を連想させる。
間合いに入った瞬間、バックステップの後に納刀。
カチッと鞘に収めると同時に神キャンを発動させ、また瞬時に納刀する。
(この動きは何!? もしかして煽られてる?)
シラユキの表紙は至って真面目だ。
しかし、彼が何をしているか分からないサギリは、真面目に煽られていると判断を下した。
(来ないなら私から行くッ!!)
ピタッと止まったシラユキに、神キャンからの音速刀を繰り出す。が、振り下ろす直前に握る手を緩め、ディレイをかける。
(取った!)
そう確信した直後、シラユキの刀がサギリの胸を貫いていた。
それも、刃を上にした状態で。
「......え?」
「サギリ、小技見せる気無かったろ? だから俺が見せた。これは納刀した瞬間に神キャンすることで発生する、“鞘に収まっていない納刀状態”を使った、神速刀の加速バージョンだ。名前を付けるなら『矛盾刀』か?」
あまりの速度に発動者自身も制御できず、刃の向きが逆になってしまう新しい技。
シラユキはこの技を2年前に発見、運営に問い合せ、『仕様』とした上で築き上げた、オリジナルの型。
本来、神キャンはバグ技だったがプレイヤーに愛されていたため仕様とみなし、更なる遊び方を見つけて欲しい運営は快く受け入れた。
神キャンの派生技は多く、その全てを把握しているサギリが反応出来なかった。
故に、2人の戦いを観ていた者は興味津々である。
「野郎共、やり方教えるからやってみ? コツは神キャンが発動した直後に納刀することと、抜刀状態の神速刀と同じ感覚がしたら成功だ」
「──うぉぉ出来た! 意外と簡単じゃねぇか!」
「シラユキ殿! こうか!?」
「失敗だな。納刀をもう少し早くするんだ」
「承知! 具体的には?」
「0.15秒くらい?」
2回の神速刀を同時に発動させる。そのためには、絶妙なタイミングで抜刀と納刀をしなければならない。
広い空間で何十人ものプレイヤーが練習している姿は、シラユキの懐かしい記憶を想起させた。
「研究熱心なのは良いが、もっと楽しもうぜ? お前と俺の違いなんて、それぐらいだろ?」
「楽しく......確かに忘れてたかも」
「おう。じゃあな、万年3位」
「......殺す」
サギリの刃は数ミリ届かず、シラユキはログアウトしてしまった。
そして、サギリによるキルマンプレイに更なる磨きがかかったことは、シラユキの知らない話である。
「あれ、なんで俺は白刃取りやってたんだっけ?」
脇道ドリフト回。