妖精王国観光日記 肆
2億年ぶりの更新です。
まる2週間体調崩すってナニ!?
「あ、おに〜さん。おかえり〜」
「おう。ちょっとこのまま頂上目指すわ」
「ふぁいとぉ〜?」
氷の薔薇の強さは未知数だ。分かってることは、今の俺のレベルで戦っていい相手じゃないということ。だが、相手が生物である以上、どれだけ俺が弱くても勝てるんだ。
薔薇の本性を引っ張り出して、このダガーで引きちぎってやる!
「よぉ......バラバラにしてやるぜ」
薔薇が茨を出す射程圏内に入り、バックステップ。
俺の腹を追って伸びる茨をダガーで切り上げるが、あまりの強度にビクともしない。
弾いた音はかなり鈍い。氷とは思えないな。
再度、射程に入っては離脱をすると、あることに気付いた。
「なるほど、2本までしか出せないのか」
薔薇の付け根にある氷の双葉。これが茨なんだ。
つまり、この2つをどうにかすれば、花弁を切り刻むことが出来る。
......どうにか、って、何をやれば?
思いつく限りの手札を切る。
ダガーを複数投擲し、最も茨から遠い位置に移動しても、奴は俺を優先的に狙う。かと思えば、俺を殺した瞬間にダガーが標的となる。
この違和感はなんだ?
「う〜む......よふやふぁらんなぁ」
「あー!! イオタのおせんべいなの!」
「めちゃくちゃ美味しいぞ、これ」
「ミユおね〜ちゃんが焼いてくれたの!」
「へぇ〜」
綺麗に焦げ目もついてるし、流石は火の仕事をしてるだけはある。ただこれ、網で焼いたわけじゃないんだな。
鉄板か何かで、それも一気に焼いたような......?
「それだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ど、どうしたの? おに〜さん」
閃いた。これならあの薔薇にも効くかもしれない。
「火だ。ダガーを擦り合わせて火花を起こす。そんでもって高温になった刃でアイツを溶かす」
「ほぇ〜」
「いっちょやってくるわ! また後でな!」
そして今、あの薔薇を前にダガーを2本持った俺は、
刃同士をぶつけて火花を散らすと──
「えぇぇぇ!? こんなことで弱んのかよ!」
茨の蔦が一瞬にして花に引き返した。
火が弱点とか、見た目通りすぎて逆にスルーしてた。しかし困ったことがある。手元のダガーの耐久値、一気に1割くらい減ったぞ。
「火属性的なサムシングが付与された武器が欲しいな」
こちとら初期武器すら使えなくなった変態だぞ。属性、魔法はおろか、まともな人間と話したのは武器屋のオッチャンだけだ。
ふむ......ダガーを幾らか使い潰すか。
「ハローミズキーの熱々ダガーはいかがぁ!?」
茨の隙間を縫い、火花の散らすダガーを投擲する。
この薔薇は酷く火が嫌いだ。絶対に本体に触れさせたくないと、全力でダガーから身を守る。
その瞬間、追加で取り出したダガーでも火花を出す。
「あ〜ヨイショッ! もいっこどうぞっ!」
5本ほどぶん投げると、ダガーを防いだ茨が切れた。
このチャンス、逃したくない!
再生しないうちに懐へ飛び込み、これまた熱々のダガーで薔薇の茎を切る。
ギャリギャリと金属同士が擦れるような音を立てながら、全力で切り刻む。
「き......れ、ろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
花弁から一気に冷気が吹き出し、俺のHPを削る。
だけど退かない。ここで絶対に切り落とすッ!!!
「ふんぎゃぁぁぁ.........アアアアアッ!!!!!」
残りHPが2割に差し掛かった瞬間、茎を切り落とした。そして冷気も止み、一輪の氷の薔薇はダイヤモンドダストの様に景色を変えた。
疲れた。だけど達成感がハンパじゃない。
しばらくは薔薇を見たくないけど、薔薇を液体窒素に浸けて握り潰す動画はたくさん観たいな!
「よし! あと3体!」
そう意気込んで階段へ向かうと、ペタペタと可愛らしい足音が聞こえてきた。
「あ〜、もういいよ? 十分見させてもらったから」
現れたのは癖毛が特徴的な、灰髪の女の子だった。
モノクル越しに見える目は蒼く、真っ直ぐに俺を見ていた。
「もしかして、君がデルタリアか?」
「そだよ。お父さんからキミの武器を作るよう頼まれてね。キミの戦いぶりから、どんな武器が良いかな〜って、ずっと観てたんだよ」
「......俺の実力を測るとか何とか言ってたような」
「そりゃあ、身の丈にあった武器じゃないと、傷をつけるのは自分自身だよ? ちなみにもう出来てるから、上行くよ」
「あ、はい」
嘘だろ? これクリアしないと認められないとか、そういう課題だったはずじゃねぇのか?
いや待てよ? スティグマは『お前の能力を見させてもらう』って言ったんだっけか......。
もう......疲れたよイオタッシュ......。
「おに〜さん、カッコよかったの!」
「ま、まぁな。これでも死ぬほど戦闘経験あるからな」
俺はかの有名な伝説の音ゲー『白刃取り音頭』プレイヤーだったからな。0.2秒で降り注ぐ斬撃を受け止めた俺に、薔薇はまだマシだ。
......久しぶりにやりたいな、白刃取り音頭。
明日は白刃取りをしようと胸に階段をのぼると、ミユさんの工房と同じ造りの部屋が広がっていた。
「ようこそ、ここがこの塔の最上階だよ」
「うん、なんていうか......ちっこいな」
これまでの闘技場の4分の1も無いぞ。
わざわざ塔の最上階に作るほどのものじゃないだろ。
「おに〜さん、ちっこいのはこの部屋だけなの」
「着いてきて。自慢の設備を見せたげる」
「デルタリアおね〜ちゃんは、1番凄い妖精なの! おに〜さんも絶対驚くの!」
「おいおい、ハードル上げすぎだろ......」
イオタに手を引かれ、デルタリアに続いて工房を出ると、床も天井もガラスで出来た巨大な庭園に入った。
下を見れば雲海が広がっており、室内は様々な植物が青々と輝いている。否、輝き過ぎている。
「な、なぁにコレェ......」
「第一鉱物庭園。ワタシの魔法で鉱石の実をつける植物を栽培してるの」
「鉱石の実?」
輝く木を見ると、頑丈な枝の先には赤や青の宝石みたいな実がついている。中でも中心にある銀色の木は、つけた鉱石が重すぎて枝が垂れ下がっている。
他にもメロンやスイカのように丸い鉱石を実らせる植物もあり、俺の脳は理解することを辞めた。
「第二鉱石庭園では宝石を育てているのだけれど、立ち入り禁止。工房に戻るわよ」
ボーッとしたまま工房に戻ると、デルタリアは椅子に座り、膝の上に武器である何かを置いた。
指から手首までを覆う銀色のそれは、禍々しいオーラを放っている。
「これは?」
「受狂者。相手の物理攻撃を吸収し、無属性魔法攻撃にして反射するナックル。変換率は......0.3倍ってとこかしら」
「......弱くね?」
「これから育てるのよ、キミが」
「どうやって?」
「色んなモンスターの素材をその子に合成するの」
本当にコレが俺に合った武器なのか、疑問に思うところは多々ある。が、これから成長するということは、とんでもない性能に化ける可能性を秘めてるという意味だ。
俺がコイツを、俺とコイツで強くなるんだ。
「ありがとう、デルタリア。大切にするよ」
「強化したかったらミユの所に持って行きなさい。新しい武器を作る時は、ワタシに言った方が良いかもね」
「これからよろしく頼む」
「こちらこそ。救世主サン?」
ってなワケで城に戻って来たんだが、スティグマは不在のようだった。報告はデルタリアがしてくれるそうなので、俺はイオタにトリポーラの宿に帰してもらった。
「これからどうっすっかな〜」
「燃え尽きちゃったの?」
「んや、剣の素材を集めに行く、が」
「が?」
「実は俺、受狂者も装備できねぇんだよな」
必要レベルが15。対して俺のレベルは13のまま。
うん、まずはレベリングからだな!
これにて妖精王国観光日記は終了です。
次回は.....白刃取り音頭、かな?
お楽しみに!