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妖精王国観光日記 参

参を飛ばして肆を投稿したアホは私です

「へぁぁぁぁぁいっ!! ノォォォォン!!!」



 これで55度目の死。

 現在95階層。一色だけの大きな羽が特徴的な蝶が、7匹集まることで1匹の蝶となるモンスター、ナナシキ。こいつはフワフワと空を飛びながら色に応じたビームを出してくるのだが、それが避けれない。


 だってこれらのビーム、色によっては直角に曲がるからだ。



「意味分かんねぇ......上に避けたら死が確定とか」


「仕方ないの。ナナシキは肉食で、オオカミガエルが主食だから、跳躍する相手に特化してるの」


「......もうちょっと前に知りたかったなぁ」



 跳んじゃダメなら先に言ってくれ、イオタ。俺は兎なんだ。跳ばなきゃ死ぬんだよ。


 武器を修繕ボックスにぶち込み、ナナシキの攻略法を考える。予測が難しい飛行と、90度曲がるおかしなビーム。下に潜れば紫色の毒鱗粉で即死し、離れすぎたらビームを複数発射する。


 俺の得意とするヒットアンドアウェイ戦法のうち、最初のヒットすら許されない相手だ。



 例えるなら、そう。

 アルテミスの率いるチーム『ニヒル』所属の凄腕スナイパー、“Piggy”を相手にしている気分だ。



「バケモンだな......あ!」


「どうしたの?」


「ナナシキをスナイパーとして見れば、あの闘技場での立ち回りが分かるぞ!」


「すないぱぁ?」



 スナイパー相手には、ジグザグに進むと当てられにくい。例え直角に曲がるビームであっても、100度以上の角度で変則的に動けば、被弾率はグンと減るだろう。


 兎さん特製のダガーを手に、俺はエレベーターに乗った。



「よぉ......今度こそぶちのめしてやる」



 初手は確定の赤い直線ビームを避け、戦闘開始だ。

 ダガーの刃を指先で挟んだ俺は、ナナシキの下を目掛けてジグザグ猛ダッシュ。毒鱗粉を撒かれる前にスライディングで滑り込み、ダガーを思いっ切り上に投げる。


 ダガーはナナシキの腹に刺さり、更に不安定な飛行軌道を描かせた。



「1本」



 禁じられた跳躍を使い、ナナシキの背中にダガーを突き刺し、搭乗。蝶の飛行を司る羽をモギモギするべく、まずは触覚を握った。


 暴れるナナシキに必死に掴まり続けると、遂に堕ちた。急いで触覚を切り落とし、飛べないように羽にダガーを刺すが......弾かれた。


 まるで金属と勘違いする硬度だな。



「よっこい、せ!」



 ならばと思い、2本のダガーを刺して両手で広げる。

 溢れ出す緑色のポリゴンを浴びながら、ナナシキのHPを急速に減らしていく。


 そして10秒後。ナナシキがポリゴンになった。



「あ〜、勝てた勝てた。クソビームが無ければよゆ〜。ってかHP低かったな。はぁ.....」



 次の階段が現れ、早く終わらないものかとため息をつく。

 仕方ない。これもアカシックレコードのためだ。

 髪を括っていた紐を外し、また結び直す。

 前髪を上げて気合いを入れたら突撃だ。




「はいはい、ゴーレム系ですかそうですか。ンなもん倒すのに武器なんか要らねぇぜ。どうせ壊れる未来しか見えないからな」




 赤色の金属で出来たゴーレムが次の相手だ。

 グルグルと大きな円を描きながら行動パターンを見た感じ、尋常ではない速度のロケットパンチと、胸にあるコアから放つ極太熱線がコイツの武器のようだ。


 近距離は拳をぶん回し、中遠距離は熱線で蒸発。

 戦うなら......いや待てよ?

 こういう敵って、熱線を撃たせ続けたらオーバーヒートしてダウンするんじゃねぇか?



 直感が当たった。



「モロ出しコアを破壊、っと。よし! 初見討伐!」



 今までで1番スムーズに倒せた。ゲーム経験が生きたな。やはりゴーレム系は頭を使えば勝てるもんだ。


 続く97階層の敵は、氷の薔薇だった。

 黄土色の地面に咲く1輪の蒼薔薇は、どう考えても異色と言わざるを得ない。


 近づいてみると、大量の茨が俺に向かって伸びた。



「防御!......あっ」



 ダガーと腕の隙間を縫って迫る茨は、俺の胸に絡みつくとHPを瞬溶けさせた。



「おふぁえりはほ」


「煎餅食いながら観てんじゃねぇよ......」



 死に戻ると、ソファに寝転がりながら戦闘シーンを観るイオタが。

 休日にダラダラする紲にそっくりだな。


 修繕ボックスにダガーを突っ込み、薔薇について考える。



「あの茨は近距離戦に持ち込ませないため、か? だとしたら遠距離に強い性分か。茨を避けて近づけるかどうか......う〜ん」


「ふぁいほ〜、おひーはん」


「全く......」



 そろそろ疲れてきた。ここまでぶっ通しで12時間。

 体より先に脳の限界が来ている。

 薔薇対策は何も思いつかないし、1回ログアウトしてから考えよう。



「失礼するぞ〜」


「わっ、ちょ! おに〜さんってば強引なの! もう」



 イオタをソファの端に座らせると、強引に膝枕の状態にしてからログアウトした。

 一言添えるなら、ひんやり柔らかい。




◇ ◆ ◇




「ふぃ〜、やっぱ風呂って心の洗濯だよなぁ」



 深夜2時。追い炊きした湯船に浸かりながら観るアニメは最高だ。6時間後には学校に行かなきゃだが、今日はもう少しゲームしたい。



「溜まってたアニメ消化しちまったな。動画観るか」



 壁に埋め込むタイプのモニターに、動画投稿サイトからアルテミスのチャンネルを開き、最新の動画を開く。


 ......ん? 最・新・の?



「おいおいおい......うぉい! オルストやってんじゃねぇか! 生配信は休止中だけど、動画は投稿してくれるのか」



 映ったのは、小学生くらいの身長の女の子が目の部分だけくり抜かれたバケツを被っている姿だ。右手にロングソードを、左手にダガーを構え、迎え撃つのはジ・ガース君だ。


 突進を躱す瞬間、目にダガーを刺して怯ませ、即座に耳から脳に向けてロングソードを突き刺し、勝利した。



『にゃ〜ん! ビビって大きく避けたのミスった!』


「鮮やかすぎるだろ......ははっ」



 これでもまだミスをしたと言うのか? イカれてる。

 でもこの人、明らかにジ・ガースの動きを知っている感じだな。生配信じゃないし、何度も撮り直ししたのか?


 いや、制作側だから分かってんのか。

 それでもおかしいけど。



『ってことで、ジ・ガース初見ノーダメ討伐完了!』



 あっダメだこの人。イカれてる! プレイヤーモーション専門とはいえ、初見でこの動き。うん、イカれてるわ。



『そうそう、私一応制作陣だからさ、プレイするにあたって縛りがあるんだよね。防具着けれなかったり、レベル固定されたり、スキル1個までしか習得できなかったり......だから序盤以降は躓いて、どんどん戦闘時間が伸びるってことは伝えとくね! んじゃ!』



 あらあらまあまあ! アルテミスってばほぼ初期ステでこれからの敵を倒そうって言うのぉ? うっふふ〜ん!



 バカじゃねぇの!?




「それでも勝てると思わせるのがこの人だ。もし、何かしらの原因で俺と戦うことになったら......全力で挑まねば」



 決意を新たに動画を閉じようとすると、フェードアウト中にひょこっと顔を出したアルテミス。



『あ、このバケツは防御力0だから、把握よろ!』



 ただの注意喚起だった。そうだよな、バケツヘルメットが存在するもんな......本物のバケツを被る奴は居ねぇけど。



「はぁぁぁ......やるか、フェリア救国」



 動画を閉じた俺は、風呂上がりの牛乳を楽しみ、オルストにログインした。

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