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花嫁の血:2

 慌ただしく廊下を走る音が聞こえて来る。

 音を認識した瞬間、勢いよく部屋の襖が開いた。

「美鶴!」

 名を呼ばれた襖の方に反応すると、白髪で金の瞳を持つ男がいた。

 よほど急いでいたのか、男は息を切らしている。こんな知り合いは自分にはいないはず。なのに美鶴の中には、何とも言えない既視感がうずまいていた。

「よかった、美鶴」

 柔らかく笑った男にぎゅっと抱き締められる。 その動作に美鶴は、恥じらいだとか羞恥だとか、そう言った感情が驚きよりも先に訪れた。

「ちょ、ちょっと……!」

 やっと状況を理解した美鶴は男を離そうと懸命に体を押す。だが当然ながら美鶴の力では動かなくて、更にきつく抱きしめられる。

「起きたらいなくなってたから、心配した」

 美鶴などに構わず男はそう言う。

「あなた……誰?」

 美鶴は声を振り絞って話す。その時瞬時に体が離れ、そして肩を掴まれた。目の前にある顔はひどく驚いたような表情を見せた。

「真白」

「え?」

 美鶴がそう聞き返すと、またふわりと笑う。

「真白。美鶴がくれた、名前」

 嬉々とした表情。よく通る声で実に嬉しそうに話す。

「ま、真白!?」

 思いもよらなかった返答に驚いて、必要以上に声が大きくなる。美鶴のその言葉に男は頷いた。

「え、ちょっと待って、真白ってちっちゃくて真っ白な猫……」

 だったはず、なのだが。

 自分の記憶と随分違った真白に、美鶴はたじろぐ。そして目の前にいる男、もとい真白をじっと見つめてみる。白いふわふわの髪はどこか懐かしく、猫の真白を思わせる。

自分を覗き込む金色の瞳、そういえば真白の瞳も金だった。

 そしてかなりの美形。浮世離れした美形だ。顔立ちは青年のようでもその表情には幼さが残っている。

「猫は、雪神の仮の姿」

 真白は言う。雪神、と確かに真白はそう言った。

「そこからは私めが説明致します」

 母が真白を見据えて言う。その瞳はとても落ち着いていた。

「白猫は雪神様の仮の姿。美鶴、あなたが昨日連れてきた白猫はあなたが嫁入りをする方なの」

 母が紡いだその言葉は美鶴を更に困惑へと落とす。

 真白が神様で結婚相手だという事が、今の美鶴ではどうしても認識できない。

「嘘でしょ……」

「美鶴? 考えるのは、もう少し待って」

「あ、……はい」

 母は美鶴が混乱する事を見越しているらしい。それを踏まえた上で、考えるのを待てと言っているのだ。

 美鶴の返事を聞いた母は話を続ける。

「でも、ね、さっきも言ったように力が現れなければ花嫁にはなれない。花嫁の娘は十七の誕生日までに力が現れないなら花嫁になることができなかった。でも今この家にはあなたしかいないでしょう? だから美鶴、あなたに賭ける事にしたの。覚醒の儀式を行っていないあなたが、力を発現できるのか」

 母の瞳は、真摯に美鶴を見据えていた。

 美鶴に賭けるという言葉は、どれほど危機的なのか、美鶴に重くのしかかって響いた。

「でも千鶴、問題はこちらにもある」

 真白が美鶴の袖を掴み呟く。微かだったが、震えが伝わってきた。

「真白にも、問題?」

 真白の思わぬ一言に美鶴は聞き返していた。美鶴の問いに真白は自嘲気味に笑い、頷く。

「まず美鶴、君に力はないと千鶴は言うけど僕は違うと思う。操り方を知らないから力がないように見えるだけだ」

 力が表面に現れないのだから、結局は同じだけど。

そう言って真白は柔らかい笑みを見せた。安心して、と語り掛けるように。

「僕も、美鶴と同じで、力を上手く操れない」

 先刻とは一変し、悲しみの色が増す真白。

「雪神は代替りをしたら花嫁を迎え入れることができる。それは雪村の娘の誕生日と同調しているものだけど」

「私と真白は、まだどちらも未熟で、それができないって事?」

 誰に言うでもなく、美鶴は自分の考えをまとめるように呟く。美鶴の言葉に、真白や母は頷いた。

「僕は感情が高ぶったときにしか力が現れない。操ることができないから雪神としての役目を果たす事ができない」

「役目って、ちゃんと雪を降らせるってこと?」

 真白は頷き、少しの間の後不意に距離を縮めてきて美鶴をじっと見つめる。

「美鶴」

「……はい」

 真白は戸惑い考えるように一度、目を逸らす。美鶴は首を傾げて真白を見る。

「嫌じゃない?」

「え……?」

 もう一度真白は美鶴を見て言った。真白の目は不安で揺れているようだ。

「別に、嫌じゃないよ」

 とくに考えるでもなく、美鶴は自分の素直な思いを告げていた。不安げに揺れていた真白の瞳が丸くなる。

「だって、真白は私のこと助けてくれた」

 その言葉に何か感付いたのか、母は驚きの表情で美鶴を見つめる。

「小さい頃、私真白に会った事あるよね。私泣いてた。真白は私に泣かないでって言って、抱き締めてくれた」

 懐かしさを感じたのは勘違いなどではなかった。十年前、確かに美鶴は真白と出会っていたのだ。 優しかった。

抱き締めてくれた腕も、かけてくれた言葉を。

「真白がお母さんとお父さんに私の場所を教えてくれたんでしょう?」

 美鶴がそう問うと真白は少し恥ずかしそうに頷いた。

それを見た美鶴は微笑みを真白に向ける。

「真白だもん。嫌じゃ、ないよ」




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