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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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勇者

若干の章タイトル詐欺だったような、なかったような三章のタイトルを変更しました。「魔剣舞闘会」となります。特に内容とかは変わっていません。

「ふっ……はっ……!」


 呼気とともに、剣が振り下ろされる。何度も何度も、汗が滴り、体熱の上昇によって湯気が見えても、少年の素振りは止まらない。


「せいっ!」


 ラスト一本、刺突の動きは堂に入っており、大半の相手にトドメを刺すことができるだろう。


「精が出ますね。マサミチ殿」


 素振りを終えた少年に声を掛けるアルビノの女狼人。


「アナスタシアさん。えぇ、それが僕の役目ですから」


 少年、勇者として召喚された異世界人のマサミチは、気負う様子もなく、そう告げた。


 その様子に、安堵と悲哀を同時に持った瞳を向けて、それを瞬時にアナスタシアは切り替えた。


「此方に、貴方の旅路の同行者が到着しました」

「わかりました」


 勇者と戦乙女は、その場を後にした。


 ……


 エスラエム法皇国 聖都 大聖堂


 ここが四神教の総本山か。


 俺の前にあるのは、巨大な白い建造物だった。今まで、見たどんな建造物よりも高く、大きい。見上げれば、ステンドグラスが嵌められている。そこに描かれているのは、四端が円になった十字架。円には、それぞれの四神のシンボルが描かれている。


「へぇ、大きいわね」

「そうですね、イル様」


 翠髪の少女の言葉に、イジネが同意する。

 その少女こそ、精霊神よりもたらされた精霊樹の枝葉に宿った精霊、神位木霊のイルの魔力体(アバター)である。魔力体は、主に召喚魔術(レメゲトン)において幻獣の身体を構成している代物だ。文字通り、魔力で編まれた身体で、今回は彼女の要望で俺が作った。その容姿は、本人の性質によるもので俺の趣味ではない。

 肝心の枝葉は、魔力体の核となって、本来、心臓がある位置に収まっている。これで、なくす心配はない。逸れる心配はあるが。


「お待たせ致しました、ご案内致します」


 取り次ぎを頼んでしばらく、やって来た聖騎士の案内で俺たちは、大聖堂の中へと踏み込んだ。


 ……


 法皇の間。他国における謁見の間と同じ役割をした部屋であるが、それらよりはややこじんまりとした空間で、その装飾は細やかながらも地味だ。垂れ幕にはやはり、四端が円となっ十字架が刺繍されている。


 法皇の座は同じ高さに置かれ、空間内に高低差はない。

 神の御前に上下は無し、か。


「よくお出でなされた、ジャック殿。そちらの方々は誰かな?」


 座ることもなく、奥より現れた法皇が挨拶もそこそこに問い掛ける。


「森妖精の狩人、イジネ・テテジーラです」

「神位木霊のイルよ!」


 イジネは少し頭を下げ、イルは威張ったように自己紹介した。それに対して法皇も名乗り、雑談もなく話は進められた。


「改めて確認致します。依頼内容は、勇者様の護衛、ひいては、魔王討伐の助力です。お受けいただけますか?」

「あぁ、勿論だ。一度、了承したんだ。約束は違わない」

「はい、宜しく頼みます。それでは、このまま、勇者様と面会いただいても?」

「あぁ」


 俺が頷けば、法皇の側に控えた聖騎士の一人が奥へと赴く。やがて、アルビノの女狼人、アナスタシアとともに現れる黒髪黒瞳の少年。

 日本人か?なるほど、勇者、ね。


『個体名:天崎正理 Lv.25

 分類:人類

 種族:異界人

 固有特性:勇者

 ・約束する勝利の聖剣(エクスキャリバー):かつて、騎士の国の王を選定した剣であり、輝ける剣にして、なによりも強き剣。

 ・聖剣の鞘(アヴァロン):かつて、騎士の国の王に不死性を与えたとされる魔宝の鞘。または、黄金の林檎(ヘスペリデス)の園とされる理想郷の名。

 ・[封印]

 ・[封印]                 』


 固有特性、か。俺以外では、初めてのことだ。


 法皇の隣で止まる。こちらを向き、強い意志のある瞳を捉える。


「天崎正理です。よろしくお願いします」


 挨拶とともに、勇者は深く頭を下げる。


「安いな、正理」

「えっ?」

「オマエは立場ある者になったんだ。そんな深く頭を下げるものではない」

「あっはい」

「ジャック、ジャック・ネームレスだ。まぁ、気楽にいこう、そうだな、取り敢えず、オマエの実力が知りたい。手合せといこう」

「えっと?」


 俺の提案に、アナスタシアを仰ぐ勇者。いや、そこは法皇を仰ぐべきだろ。

 アナスタシアが今度は、法皇を仰ぐ。二度手間だ。


「あぁ、構わない。修練場に案内しなさい、アナスタシア」

「はっ!」


 アナスタシアを先頭に、俺たちは修練場に向かった。

 道中に、イルが勇者に近づき挨拶した。


「私はイルよ!あなたが勇者ね、よろしく!」

「よ、よろしくお願いします」


 イルの勢いに押され気味の勇者だが、はてさて、実力の程は?

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