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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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精霊樹の枝葉

短いです

 アバラとティターニアの争いは、アバラの根負けで決着がついた。

 今や、薄布は取り払われ、霊位森妖精の美貌が惜しみなく、曝け出されている。と言っても、ティターニアは、少女といった容姿で、色気はないし、ついでに神子としての神秘性も薄い。


「今、失礼なこと考えませんでしたか?」


 勘の鋭いらしいアバラが、こちらを睨む。ただ、失礼なことを心の中で言われた当の本人はノホホンとしていた。


「いや、何も。それより、モノは何処だ?それが目的だろう」


 俺の言葉に促され、アバラが俺を睨んだまま、ティターニアに言葉を掛ける。


「神子様、そろそろ」

「ん?何かしら?アバラ」

「精霊神様から預かったアレです」

「あぁ、アレね。はいはい、え〜っと」


 割と軽い遣り取りが交わされ、神子様は祭壇の奥を漁る。

 そんなテキトーに仕舞っているのか?


 ガラクタがこちらに投げられるのを避けながら、しばらく、呆れた目で待っていれば、ようやく、ティターニアが目的の物を発見した。


「あった!これよ、これ!」


 そう言って、こちらを振り向けば、ティターニアの手にはガラスケースのような【障壁(ウォール)】に守られた枝葉があった。

 何か、色合いが不可思議なわけでもない。緑色の葉っぱに、茶色の枝、光を放っているわけでもなければ、透けてもいない。ただの枝葉だった。しかし、得も言われぬ神秘性を感じさせた。


『ちょっとちょっと!この私をよくも粗雑に扱ってくれたわね!このポンコツエルフ!』


 【障壁】を纏ったまま、枝葉が浮かび上がり、ティターニアの頭部を叩く。


「イテッ!何するのよ!だって、見てて面白いものじゃないんだもの!」

『私はこの世界を左右するとびっきりの精霊なのよ!何が、面白いものじゃないんだもの、よ!そういう問題じゃないでしょ!』


 結局、その遣り取りはしばらく続き、ティターニアは頭部にタンコブをつくることとなった。


「イテテ……あぁ、それでこの人が、精霊神様の言ってたジャック様よ」


 そう言って、手元に収まった枝葉をこちらに向けるティターニア。先程から、【念話(テレパス)】を振り撒いていた枝葉が挨拶した。


『私は、神位木霊ディバイン・ドライアドのイルよ、あなたは丁重に扱ってくれるわよね?』

「ジャック・ネームレスだ。そもそも、森妖精のチカラが必要なんだろ?丁重に扱うべきなのは、イジネじゃないか?」

『うん?まぁ、そうなんだけど。イジネってのは、その子ね。よろしく』

「は、はい、よろしくお願いします」


 ジャックは自然と、イジネに面倒事を押しつけた。


「それで、お前は何なんだ?」

『だから言ってるじゃない。神位木霊よ。精霊界を支える神樹、精霊樹イルミンスールの分霊で、その枝葉。こっちと精霊界じゃ、魔力の質が違うから私が枯れないためには森妖精の魔力が必要なのよ。それで、それに加えて私は勇者の魔力を吸って、馴染ませなきゃいけないの。勇者の神剣の材料になるためにね』

「なるほどな、勇者の神剣か」


 魔王を倒すための武器を用意するとは、四神は割と間接的な干渉はやってのけるよな。魔術王の伝説しかり。


「はい、これで用事はおしまい!今日はもう、遅いから泊まっていくでしょ?」


 ティターニアが、イルをイジネに手渡しながらそう言った。イジネは渡されてオロオロしている。どうやら、早速、指図を受けているようだ。意識を切り替え、ティターニアに向き直る。 


「いや、転移魔術で帰ーー」「ダメー!ダメに決まってるでしょ!外界のお話を聞かせてもらうんだから!」


 ティターニアの我儘に、無意識に眉間に皺が寄る。アバラを見やれば、彼もまた、皺を刻んでいた。


「神子様」

「いやよ」

「神子様!」

「いやったら、いや!」


 アバラは溜息をついた。どうやら、諦めたらしい。


「ジャック様、申し訳ありませんが」

「致し方なし、か」

「はい」


「やったー!」


 神子様は、少女らしい笑みを浮かべた。

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