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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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神子

「それで、何の用なんだ?」


 イジネとの世間話もほどほどにして、俺たちは長老たちの元に赴いた。長老たちに対する俺の問いかけは、長老たちではなく、その隣に控えた森妖精の男が為した。


「貴方様をお呼び立てしたのは、私です。ですので、私の方から、ご説明させていただきます。まずは、自己紹介を、私は大森林の最奥にある精霊神様の聖地、精霊門を守護する里の者、アバラと申します」


「ジャックだ」


 高尚な雰囲気のある男の名乗りに、端的に名乗り返す。


「はい、ありがとうございます。聖地には、精霊神様と交信なされる『神子』と呼ばれる我らの長がおりまして、その神子様が、先日、精霊神様の御言葉を賜りました」


「それで?」


「ついては、勇者のチカラとなるべく、とある物を、勇者と共にあることとなるジャック様に引き渡すようにとのことでした」


「なるほど、それでそのとある物は今、どこに?」


「神子様は、その役目のために聖地を離れることができないのですが、その今代の神子様は少し我儘な性分でして……」


 若干、ツンとした雰囲気のあったアバラだが、僅かに困惑したような雰囲気で話を続ける。


「その、私どもの里にあります。ついては、ジャック様と、イジネに、里の方に来ていただきたく思います」


「わ、私もか!?」


 いきなり話に上がったイジネが驚愕の意思を示すと。


「はい、とある物には、森妖精のチカラが必要になりますので、イジネには、そのまま、ジャック様と勇者の旅への同行をお願いしたく思います。どうやら、ジャック様と最も懇意にしていらっしゃる様子でございますので」


「し、しかし、そういうのは、実力も加味しての判断をするのでは?」


 聖地の者に対する遠慮だろうか、イジネがそう問いかけた。


「いえいえ、見た所、イジネ様はかなりの実力を有しておられる様子。森妖精の代表として申し分ないと思われます。……さっさと決めておかないと神子様は自分がついていくと言い出しかねない」


 最後にサラッと本音を漏らしたが、それは囁き声で、吸血鬼の俺やアバラの近くにある長老たちくらいにしか、聞こえていないようだ。

 イジネは、聖地の者に認められて、若干、頬を紅潮させていた。


「わ、わかりました。謹んでお受けいたします。その、ジャックもそれで構わないか?」


「あぁ、構わん」


 そんなやりとりの後、俺とイジネ、アバラの三人で聖地に向かうこととなった。聖地というだけあって、エリーさんたちはやんわりと断られた。


 ……


 森の奥へ奥へと歩みを進め、いくつかの里に休息をとって、数日、ようやくのことで聖地の里へと辿り着いた。


 里そのものに変わった様子はない。他の森妖精たちの里と同じつくりである。

 しかし、里の入り口からでもわかるおそらく、奥に聳える巨大な門が、ここを聖地たらしめていた。巨岩を荒く削り出したかのような支柱が二本、様々な蔦植物に覆われ、支柱を渡されているのは、燃え盛る岩の柱。門の中の空間は、水面のように揺らめき、異界へと繋がることを示していた。さらには、門を護るように、風の結界が里全体に施されていた。


「異様な光景だな。自然物でありながら、自然物ではないのか、あの門は」

「どういうことだ?精霊神様のお造りになった門ではないのか?」

「世界ができた当初から、あの姿だったように見えるな。神が造ったならば、創造神が造ったことになる」

「ふむ?」


 魔術的観察からくる話に、イジネは何を思うのか、改めて、門を眺めた。


「ジャック様、イジネ、こちらです」


 俺たちの様子に笑みを浮かべて、アバラが声を掛けてくる。俺の話を耳にしなかったわけではないだろうが、特に不快げな様子はない。精霊神に関するモノではあるが、造ったモノについては彼もよくわかっていないのだろうか?


 アバラの案内に従い、里に入る。住人たちはこちらを物珍しげに見るものの、聖地に住まうからといって、特段変わった様子はなかった。

 やがて、精霊門にほど近きところに建てられた神社のような屋敷に上がり込む。


 屋敷内を慣れた様子で歩くアバラについて行くと、かなり奥まったところの扉の前に辿り着いた。そこで、彼は一旦こちらを振り返る。


「この先に、神子様がおられます。特に作法があるわけではないですが、礼儀は弁えるようにお願いします」

「あぁ」「わかりました」


 俺たちの返答に、笑顔で頷き、アバラが扉に向き直る。


「狩人衆のアバラ、ただ今、戻りました!」


 声を張り、扉の向こうへと響かせる。やがて、向こうに控えていたのだろう女性が扉を開く。扉を潜る時にチラッと見れば、顔が白のベールに隠されていた。


 奥には、薄布で隠された一段高い座があり、うっすらと見えるシルエットからは、そこに祭壇と神子らしき姿も見えた。


 アバラは、薄布からやや大股の三歩ほどの距離で止まり、腰を下ろし、胡座をかく。俺もテキトーに座り、イジネは正座した。


「お帰りなさい、アバラ。それで、そちらが精霊神様の仰られていたジャック様かしら?」


「はい、こちらの黒髪の者がジャック様です」


 そう短く返答して、アバラは俺の顔を見る。神子の注目も俺の方に向いたので、口を開いた。


「ジャック・ネームレスだ。勇者の助けとなるという品、預かりにきた」


「はい、ジャック様。私は、霊位森妖精(ハイ・エルフ)のティターニア。当代の神子です。よろしくお願いしますね」


 神子、ティターニアは、名乗り終えるとイジネの方に視線をやる。やがて、アバラへと視線を戻した。その様子にアバラも、察して口を開いた。


「其方の者は、イジネと言う狩人です。今回、森妖精の代表として、ジャック様と勇者の旅への同行をお願いし、了承をいただきました」


「イジネ・テテジーラです。よろしくお願いいたします」


 アバラの紹介の後、アバラの視線に促され、イジネも名乗る。


「むぅ……それにしても、これ邪魔よね。アバラ、取って」


「ダメです。それは、古来より、培われてきた伝統となりますので」


 この後、しばらくはアバラとティターニアの水掛け論が続いた。ちなみに、邪魔呼ばわりされたのは、もちろん、此方と彼方を隔てる薄布である。

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