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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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四大国会議・前編

 メインイベントである魔剣大会を終えた戦神祭は、その余韻の中、まだ、しばらく続く。


 普段は、獣王国の執政の場である城塞の奥にある特殊な会議場で四大国それぞれの国主たちが一堂に会していた。この会議は、戦神祭が開催されてから毎日、行われており、今後の世界規模の事柄が話し合われていた。


 一年に一度、執り行われている四大国会議。これに合わせた反乱などがないように、その時期は年ごとに異なり、場所も変更される。

 今後の情勢を決める重要な会議ではあるが、戦神祭も終盤、会議のほうも一段落といったところである。


 ……。


「ジャック様がお越しになられました」

「よし、入れてやれ」


 獣王国での会議だからだろう。獣王レオニダスの受け応えが聞こえた。獣王国の戦士に促され、俺は会議室へと入室する。


 中は、広く余裕があった。中央には、大きな円卓が置かれ、出入り口の扉から見れば、バツ印になるような配置で豪華な椅子が置かれている。

 俺から見て、左側、手前にカルドニア王国の国王アデル・シュダンナ・ジャネル=カルドニア。奥に、ガルダニング獣王国の獣王レオニダス・ガッテング=ガルダニング。

 右側にいるのは、まだ訪れていない二国の国主だろう。手前に老爺、奥に美女が座していた。

 それぞれの国主の背後には、側近と見られる者たちも控えている。


「お初にお目に掛かります。白金級冒険者ジャック・ネームレスです」


 頭を下げ、名乗りを上げる。


「よせよせ、顔を上げろ、ジャック。ここにいる連中は、冒険者に礼儀は求めん」


 獣王のそんな言葉に、顔を上げるほど、俺も素直じゃない。責めて、面識のない二国のどちらかの国主の許可が欲しいところだ。


「ふふふ、随分と学のある冒険者ね?安心しなさい、レオの言う通り、妾はそのようなこと気にしないわ」

(つれ)も気にせぬよ、頭を上げなされ」


 二国の主の許可を受けて、顔を上げる。


「で、用件は何だ?ジャック」


 楽しげに笑みを向ける獣王だが、それに待ったがかかる。


「レオ?彼は妾たちと面識がないのだから。まずは、こちらも名乗るべきでしょう?」

「おっと、すまねぇ。んじゃ、どうぞ」


 獣王の言葉に、褐色の美女がこちらに改めて、視線を向ける。肉感的な肢体に、銀髪紅眼。ともすれば、暗森人(ダークエルフ)にも見えるが、耳は尖っていない。身に纏うのは、ティアラに露出多めの艶黒のドレス。だが、露出部分もシースルーのベールのようなもので覆われていてどこか、砂漠の民のような印象を受ける。


「バクナンドラ帝国、現皇帝セミラミレア・マリジーア・クレオテラ=バクナンドラよ、よろしくね?」

「よろしくお願い致します」


 一つ一つの仕草が、色香を漂わせるそんな印象。悪意はないが、悪戯好きな雰囲気があった。


「次、猊下の番よ」


 女帝の言葉に、老爺がこちらに()()を向ける。頭髪は既に白かった。女帝と対比するような白皙の肌は、多くの皺が刻まれ、泰然とした雰囲気を持つ。身に纏うのは、白い法衣。金糸と銀糸で最低限の装飾がされた簡素なもの。頭には、四神教の聖印である十字架の刺繍された縦長の白い帽子。十字架は、四つあるそれぞれの端が円形となって、その中に四神の象徴(シンボル)が刺繍されている。


「徒は、エスラエム法皇国、現法皇シバ=エスラエム。よろしくするよ、ジャック殿」

「はい、よろしくお願い致します」


 特に、何かあるわけではないが、この爺さんの瞳に俺に対する敬意が見えるのは気のせいか?


「よし、これで良いな?側近連中の中で、名乗っておきたい奴はいるか?もしくは、尋ねておきたいことでも良いぞ?」


 獣王のその言葉に、二つの手が上がった。


「あら、珍しいわね?あなたが動くなんて?」

「ふむ、お前もか。まぁ、よい」


 面識のなかった二国の側近から手が上がった。


「私は、尋ねたきこともありますので、剣聖殿からどうぞ」

「そうかね。では、陛下、よろしいですか?」

「えぇ、構わないわ」


 主に伺いを立て、着流しの男がこちらに視線を向ける。白鞘を佩いた黒髪黒目の青年。しかし、老練な雰囲気のある隙のないおそらく、剣士。それは、法皇国の聖騎士と見られる、手を上げたもう一方の女の「剣聖殿」という言葉からも分かる。


「お初にお目に掛かります。僕は、帝国で剣術指南役などをやっているしがない剣士、コジロウ・ジークムントと申します。先の大会拝見させて頂きました。素晴らしい腕前でしたね」

「ありがとうございます」


 特に、試しの殺気を向けてくるわけではないか。目線を法皇国の聖騎士の方にやって促しているし、挨拶だけのようだ。その聖騎士のほうからは、こちらへの警戒の色が見える。


 狼人のアルビノのようで、白髪紅眼。狼耳と尻尾の毛も白かった。女性らしい細身ではあるが、よく引き締まっており、その身を霊銀(ミスリル)の軽鎧で覆い、鮮血色の十文字槍を手にしている。


「お初にお目に掛かります。法皇国にて、聖騎士団団長を務めております。アナスタシア・クルセーレです。それで、ジャック殿」

「はい」


 凛とした声で、ハキハキとアナスタシアは、こちらに問いかける。


「失礼ですが、貴方は人間(ヒューマン)ではありませんね?」

「その問いに驚愕する者は、この場にはおりませんよ?」


 あっさりとした俺の返しに、特に何の反応も返さないアナスタシア。


戦乙女(ヴァルキリー)殿、ジャック殿が人間でなければ、何だというのかね?」


 動きのない状況に、アデル王の後ろに控えた老爺。魔導師団相談役『賢者』ウィズ・ダムヴァシルが問い掛ける。こちらとは、カラグに相談した後、アデル王との謁見で面識を得ていた。


「私の聖槍が語るには、彼は吸血鬼(ヴァンパイア)だと」

「ほう」「へぇ」「……」「ふむ」


 皆、反応は様々。得心、微笑、無表情、目を瞑る。だが、誰一人として、俺を怪物とは扱わない。


「あまり言いたくはないのですが……」

「何か?」

「そもそも、真っ当な人類(プライミッツ)はこの場では、アデル王くらいのものではないでしょうか?」


 その言葉に、獣王と女帝は声を上げて笑い。アデル王と法皇は苦笑。剣聖と賢者は沈黙している。


 肝心の戦乙女は、こちらを睨んでいる。


「だとしても、皆様は、怪物ではありません」

「ふむ」

「何ですか、その反応は?」


 俺が片眉を上げたことに、静かな問いを投げる戦乙女。俺は彼女から視線を外し、女帝を一瞥した。

 しぃーとばかしに、口許に立てた人差し指を当てる女帝。


「まぁ、怪物ではないことを証明するとしましょう」

「どうやって?」

「もちろん、手っ取り早く、神聖魔術(サクラメント)を使って見せましょう」

「なるほど、吸血鬼ならば、確かにそんなものは使えませんからね」

「えぇ、ではいきます」


 神聖魔術【浄化(ブラッシュ)


 心なしか、空間が清浄になった感じがする。少し、埃っぽかったからな。


「確かに、正の魔力を感じ取れました。怪物ではないようですね?吸血鬼は、負の魔力によって、怪物と化すわけですから」

「その辺りの知識があって、助かりました。流石、不死狩りの長です」

「聖騎士団は、法皇国の守護も担っています。あまり、そのような発言はなさらないでください」

「失礼しました」

「いえ、こちらこそ、失礼致しました」


 そのやり取りを最後に、場が改まる。

 ふぅ、ようやく本題か。


「では、ジャック、用件はなんだ?」

つれは、現実にはない一人称です。信徒や使徒などから、それっぽいと思い使っています。人を指す意味としては、仲間とかそんな感じなようです。

まともな種族の奴が為政者をやってるなんて、ファンタジー世界ではあり得ないんですよ?だって、まともじゃない人のほうが基本的に優秀でしょ!


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