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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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本選・第一試合

 翌朝。


 再びの闘技場。まず、本選はトーナメント形式なので対戦カードを決めるのだが、(くじ)引きで決めた。

 メタを張るなんて戦法が通じないよう組み合わせは、対戦試合まで未公開。まぁ、これはどちらかというと賭事の調整の思惑の方が強い。本選に出るような奴が自分の戦い方を捨ててまで、勝利を得ようとはしないだろう。皆、強者としての誇りを持っている。一方、賭事は選手たちの相性やなんかでも、倍率が変動するので、その辺りで偏りがでないようにするためといったところである。


 観客席は、予選の時よりも満員。予選は満席状態だったが、本選は立ち見客までいる。

 ガラス張りの要人席(VIPルーム)には、四大国の首脳陣が表面上は和やかに座っているのだろう。


 それで肝心の舞台だが、予選と違って、場外負けなんてつまらないルールはない。石で一段高く作られた正に舞台と言ったところも、それの外も戦場である。まぁ、基本的には、石舞台のところで戦うものだが。

 ちなみに、流れ弾は結界魔術の優れた者たちで防いでいる。つまり、殺さない程度に本気で戦って問題はないとされている。これはまぁ、当人の実力次第だろう。


『レディース!アーンド!ジェントルメェーン!いよいよ!魔剣大会・本選を開始致します!!ではでは、第一試合の選手のお二人にご入場いただきましょう!!』


 職員の案内に従い、まず、舞台に上がるのは俺だ。


『まずは!先の魔群の侵攻(スタンピード)で、駆竜の骨鬼竜(スケルトン・ドラゴン)すらも消滅させた大魔術を行使し、獣王陛下と肩を並べて、剣を振るったこの男ぉお!!剣術と魔術、全く異なる技術を修めし白金級冒険者!「月下の魔剣士」ジャック・ネェェェムゥレェェエエス!!!』


「「「「「ウォーーーー!!!!!!」」」」」

「「「「「キャーーーーー!!!!!!!」」」」」


 ポケットに手を突っ込んだ状態で堂々と舞台に上がる。


『その対戦相手は!!?』


 司会の声とともに、俺の正面にある入場口から人影が現れる。


『名だたる猛者たちのなかで、(ただ)一人の金級冒険者ぁあ!!魔術の才はなく、されどその魔力量は無限に等しい突然変異!!カルドニア王国にて、名を轟かせる魔道具販売店、オグディーノ商会会長の三男坊!「魔財」のコレクティン・オグディーノォオオ!!!』


「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」


 石舞台に堂々とした足取りで立つのは、小太りの男。柔和な笑みの張り付いた顔は確かに、冒険者よりも商人としての在り方を連想させる。


「お初にお目にかかります、ジャック殿。吾輩はコレクティン。金級冒険者のコレクティンです」


 軽い挨拶だが、戦意の感じ取れるものだった。俺は別に侮っているつもりはないが、コイツからすれば、そう感じる何かを無意識に持ってしまっているのだろうか?

 まぁ、ともかくとして、確かにコイツの魔力量は異常と言っていい。常人の数十倍の魔力が余剰魔力として常に放出され、次から次へと魔力が生成されてやがる。


「……よろしく」


 こちらから握手を求めれば、コレクティンは躊躇いなく俺の手を取った。短い挨拶の後、間合いを取る。それを見計らい、司会の声が響いた。


『それでは、両者、悔いのない戦いを祈ります!魔剣大会・本選、第一試合開始ぃいい!!!!』


 試合開始と同時、コレクティンの魔力が彼の羽織る外套に集中したと思えば、彼が姿を消した。

 姿だけではない。匂いも音も魔力も、およそ人が感じ取れるあらゆる気配が消失した。


『おぉっとぉ!初っ端からコレクティンの姿が消えたー!あれは(まさ)しく、オグディーノ商会の目玉商品「姿隠しの外套」の効果だぁ!匂いも音も消し去るという完璧と言っていい隠密性に「月下の魔剣士」はどう対応するのだろうか!?』


 ふむ。まぁ、はっきり言って、その外套の隠密性は完璧ではない。そもそも、俺は()()()()()わけだし。


 背後から唐突に現れたように、観客には見える投剣を当然の如く避ける。床に落ちたそれは定められた機能に従い、爆発。石舞台に焦げ跡を残した。

 それを何度か繰り返し、当たらないと悟ったか、コレクティンが接近を試みているのが、はっきりと()()()()()()


『見えない敵による死角からの攻撃を危なげなく回避するジャック!!「爆破の投剣」のストックが切れたかぁ!?コレクティンの猛攻も止まってしまったぁ!!』


 接近するコレクティンに向け、掌を向ける。


『おぉっとぉ!ジャックが掌を一つの方向に向けたぁ!まさか、そちらにコレクティンがいるのだろうかぁ!?』


「出てきたらどうだ?その外套は、俺には意味をなしていないぞ」


 動揺が感じ取れる。だが、自身の魔道具を信頼してか、コレクティンは突撃を敢行した。

 俺は掌を翻し、一つ指を弾いた。


 ドン!


 と爆発が起こり、姿の見えないコレクティンが吹っ飛ぶ様がよく見える。

 床に激突したところで、外套の効果が切れた。


『おぉっとぉ!ジャックの無詠唱(シングルアクション)が見事にコレクティンに炸裂したぁ!!』


「痛たた……やれやれ、吾輩の位置がわかるかのような振る舞いでしたな?」


「あぁ、よく見えるよ」


 立ち上がるコレクティンを眺めながら、問いに答えてやる。そう、よく見えるんだ。あんたの()()()がな。

 生憎と俺は不死者(アンデッド)なもんでとは、流石に言えんが。


「ふむ、あの外套ならば、格上相手にも勝機はあると信じていたのですがね?」

「その割に、諦めたようには見えねぇなぁ?」


「えぇ、勿論です」


 次の瞬間、彼が身につけている指輪の一つに魔力が流し込まれる。

 そして、そこから火球が放たれた。


「なるほど、指輪型の魔導書(スクロール)か」

「えぇ、その通りです」


 魔導書。

 魔法陣(サークル)と呼ばれる、魔術言語たる精霊語(ルーン)を落とし込んだ記号と円陣が魔石を砕いたインクで描かれた魔術の発動媒体。巻物の形状をとっていることが多く、物によっては書物ようになっていることもあり、コレクティンが持つような指輪のような装飾具のような形状の物もある。

 どのような形状であれ、魔導書は流された魔力を燃料にして、描かれた魔法陣に従い一つの魔術を発動してくれる。そこに魔術知識は必要ない。魔術を学んでいない者でも、魔術の才能がなかった者でも魔力さえあれば、魔術の行使が可能な便利な道具だ。

 ただし、巻物型のほとんどは一回こっきりの消耗品だったりするため、コスパが悪く、いざと言う時の御守りのようなものだ。逆に、今、コレクティンが使ったような装飾具型や書物型はある程度の耐久性を備えるがその分、値段が高く、それを買える頃には一流の冒険者であり、必要としないことの方が多いというのが普通。だが、異常な魔力量を誇るが魔術の才能がなかったコレクティンにはこれ以上ない武器だろう。


 火球に続いて、隙間なく様々な属性の魔弾が放たれる。

 水球が、風球が、石弾が、雷球が、氷弾が、毒弾が。そのすべてが俺一人に殺到する。


 だが、相手が悪かったな、コレクティン。


 魔力操作(マナ・コントロール)・派生技術【支配域(テリトリー)


 俺の魔力が舞台上を支配する。


「な!?」


『なんと!?コレクティンが放った魔弾の数々が一瞬にして、消失してしまったぁ!!?一体、ジャックは何をしたぁ!?』


 【支配域】。単純な魔術だ。魔力をとびきり濃密に空間に散布することで、本来、自身の周辺にしか存在しない神秘抵抗の領域を拡大するだけ。圧倒的な魔力量による暴力に他ならない。


 そして、この状態の効果はもう一つ。


「【気絶(スタン)】」


 その魔術の宣言は、本来なら対象と接触していなければならないはずだった。


「……っ!?」


 コレクティンは、その意識を手放した。その瞳はただ、驚愕に彩られていた。


 その効果は、全方位からの魔術発動。そもそも、魔術が行使者の近くで発動するのは、燃料となる魔力が行使者の近くにしかないから。心霊魔術(サイキック)に多く見られる接触を発動条件とする魔術も、大元は同じ。濃密な魔力で空間を満たす【支配域】を発動すれば、その制限は解除されるのである。


『コレクティンが倒れたぁあ!本選、第一試合の勝者は、「月下の魔剣士」ジャァァックゥウ!!!!』


「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」

「「「「「キャーージャック様ァア!!!」」」」」


 俺はポケットに手を突っ込んで、舞台を後にした。

コレクティン……ジャックと当たったばっかりに……

だが、司会がしっかり、宣伝に協力してくれて良かったなぁ


 ご感想を書いてくださった方、ありがとうございます。作者の原動力となっております。


 何卒、皆様に繰り返し、応援のほどお願いしたく思います。


 ちなみに、改めて宣言しておくと、あくまで作者の投稿ペースは不定期です。そこのところ、ご理解のほどよろしくお願い致します。大会のお話はなるべく、早め早めを心掛けますが、まぁ、滞ったら面白い小説を読んでいるのだと思っていてください。


 ではでは、また、お会いましょう〜。

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