魔剣大会・予選
『レディース!アーンド!ジェントルゥメェーン!!さぁさぁ、始まりましたー!毎年恒例のイベント。血湧き肉躍る!熱き闘志のぶつかり合い!戦神祭のメーンイベント!!魔剣大会!!!』
「「「「「ウォーーーー!!!!」」」」」
なにやらテンションの高い司会の口上に、ノリノリで答える観客たち。
『ではでは、早速ルールを説明しよう!今大会は、例年通りに、数多いる、いや、歴代最多の参加者たちを振るい落とすために、予選が行われるー!!そして、その予選のルールは…………』
無駄に大きくためる司会。雰囲気に呑まれ、観客たちも固唾を飲んで次の言葉を待った。
『それは、バトルロイヤルだーー!!複数の参加者たちが一度に一つの舞台に上がり、最後の一人になるまでぶつかり合うサバイバァアール!!』
「「「「「ウォーーーー!!!!!」」」」」
たぶん、メンチコアラー!とか言っても、歓声が上がったに違いない。そのくらい観客たちも準備していただろうほどの大歓声だった。
『では、早速、第一グループによる、魔剣大会・予選、第一試合を開始するー!!!』
「「「「「ウォーーーー!!!!」」」」」
『選手の、入場ダァーー!!』
「「「「「ィエェーイイ!!!!」」」」」
大歓声に包まれながら、というか選手たちの中にも大歓声を上げている奴がいる。とにかく、第一グループの面々が舞台に上がる。かく言う俺も第一グループだった。
『準備は整った!それじゃあ、早速、予選第一試合、開始!!』
ゴーン!とゴングが鳴るなんてことはなかった。割とあっさりと試合が始まり、周囲で切った張ったぶつかり合いが始まり、俺のもとにも何人かが突撃をかまそうとしていた。
……ま、本番は本選からだ。ここに今一つの盛り上がりの欠けるところがあって問題あるまい。
未だ、ポケットに手を突っ込んだやる気のない姿勢のまま、俺は自身の足元に魔力を集中させた。
精霊魔術【雷蜘蛛の巣】
俺を中心に、地面を放射状の電撃が撫でる。範囲内にいた選手たちは感電し、悉くが麻痺して仲良く倒れましたとさ。
『……は?……うん?』
これには、思わず司会も我が目を疑った。しかし、立ち直りも早かった。
『な、何と言うことでしょう!!あれだけの参加者が、たったたった一つの魔術によって、その悉くが倒されています!文句なしに、ただ一人佇んでいる彼が本選進出です!!』
「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」
勝利宣言を聞いたので、スタスタと舞台から引き上げる。その最中、司会が再び声を上げる。
『今、手元に圧倒的チカラを見せた選手の情報が回ってきたのでお知らせします。なんと!?あの魔群の侵攻で大活躍をしました白金級冒険者!「月下の魔剣士」であることが判明致しました!!名前は、ジャック・ネームレス!!皆さん、獣王都の英雄に今一度、祝福を!』
「「「「「ウォーーーー!!!!」」」」」
「結婚してー!!」「こっち向いてー!」「イケメン許すまじ、死に晒せー!!」「「「あぁあ!!」」」
「いや、そのゴメンなさい」
ヤジを飛ばしたおっさんは、淑女たちに睨まれて萎縮していた。別段、ファンサービスをする気はないのでスゴスゴと引っ込む。
てか、『月下の魔剣士』ってなんだよ!?
……。
予選第二試合。
「ぬん!」
『おおっと!またもや、一瞬の決着だー!「龍槍」リシの剛槍がすべてを薙ぎ払ったぁあ!』
いや待て、司会。おかしいだろう?なんで、間合いの外の奴までぶっ飛んでんだ?
「呵呵呵呵!!いやはや、あのような様を見せられては、こちらもやりゃんわけにいかんのう」
……。
予選第三試合。
「あの二人の後だとやり辛いあるね」
俺が参加登録した時のちみっこが、そんなことを呟きながら確実に一人ずつ場外に投げ飛ばしていた。完全に作業だった。
『なす術なく、全員が場外に投げ飛ばされたぁ!?本選進出は、「静謐」のコヅネだあ!!』
「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」
「こっち向いてー!」「ペロペロさせてー!」「踏んでくださーい!」
幼女趣味か?いや、どちらかと言うとペド野郎か。処置なしだな。てか、女性も混じってるし。
……。
予選第四試合。
『本選進出を決めたのは、「魔財」のコレクティンだぁ!!』
司会の声が響き渡る。観客たちもそれなりに楽しめる長さの戦いらしい戦いだった。勝者が小太りなのが、なんとも締まらないがな。
……。
予選第五試合。
「はぁ!」
堅実な剣撃が最後の一人を気絶させる。
『本選進出は、影の薄いこの男ぉ!!王国騎士団団長、「斬魔」のカットラスだぁ!!!』
「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」
歓声に応えるように、高々と己の剣を掲げるカットラス。渋めのおっさんの快活な笑みは何人かの女性に黄色い悲鳴を上げさせた。
……。
予選第六試合。
「フッ……」
短い呼気の音。流れるような剣撃がそのままに舞いとなっていた。
「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」
司会の勝利宣言の前から既に、大歓声。
『本選進出を決めたのは、我らが誇る白金級冒険者!「魅刃」のクズハだぁ!!』
獣王国の冒険者なのだろう。狐人の女剣士は手を軽く振って去っていった。
……。
予選第七試合。
「儂は派手にいこうかの」
ニヒッとばかりに口元に大きな笑みを浮かべて老爺が、莫大な魔力を解き放つ。
「【爆風衝波】」
魔術名の宣言に、風霊が応え、選手すべてを吹き飛ばす爆風が吹き荒れた。
『本選進出は、「轟雷」のボボル・エクレールだぁ!!爺この変態!まだ、生きてたのかぁ!』
「「「「「クタバレ!爺!!!」」」」」
「ヨホホホ、若いのは元気じゃのう」
「「「「「ほざけ!てめぇが一番元気じゃねぇか!」」」」」
お前ら、息ぴったしだな。
……。
予選第八試合。
『さぁさぁさぁ、予選も遂に、最終試合だあ!!準備はいいかぁ!?』
「「「「「ィエェーイイ!!!」」」」」
『開始ー!!!』
「【凍てつく雪原】」
酷く冷めたその声とともに、舞台が凍りつく。選手たちの下半身も徐々に凍りつき、誰一人として脱出は叶わなかった。
「諦めなさい、男としての機能を失いたくはないでしょう」
その言葉が決め手となり、一斉に降参の声が上がった。
『最後の切符を手にしたのは、クールビューティ!「氷麗姫」シトナ様だぁ!!』
「「「「「ウォーーーー!!!!!!」」」」」
「結婚してくれー!」「「「お姉様、結婚してーー!!」」」「こっち向いてー!」
男女ともに人気だな。
……。
『これで明日の本選出場者が決まったぜぇい!!今年は、なんと白金級冒険者が六人で司会の私も大興奮!じゃあ、みんな!明日に備えてさっさと寝ろよ!興奮冷めやらぬで、深酒したら、明日の名試合の数々を見逃すことになっちまうぜ!ヒャッハー!!』
「「「「「ウォーーーー!!!!!」」」」」
予選が終わり、今日の予定は終了。俺もそそくさと宿に戻った。
なんだこのノリ!?
まぁ、いい。予選だから、仕方ない。
評価を何卒何卒、宜しくお願い致します。




