魔剣
「挨拶だな、無詠唱か」
爆発を霧となって回避したファントムが、空中から言葉を投げる。
ファントムの言う通り、俺がやったことは無詠唱。特定の行為と魔術を結びつけることで、詠唱なしに魔術を発動させる技術だ。
ちなみに、俺が普段やっているのは、思考のなかで詠唱する無言詠唱と魔術名のみで魔術を発動させる詠唱省略という技術の合わせ技である。
「次は、こちらからいかせてもらおう……【血風刃】」
ファントムが魔剣を振るえば、こちら目掛けて襲いかかる紅い風の刃。違わず、俺の首を狙うそれを夜刀姫で啜る。
「啜れ」
『ん』
「ほう、魔剣か。だが、剣の腕は如何程だ?」
【血風刃】に意識を向けていた俺の背後に、ファントムはすでにいた。
「チッ」
セイの【浄化】が牽制し、俺は右手に刀印を結ぶ。
「くらえ」
刀印をファントムに向ければ、そこから顕現する聖雷。ファントムは目を見開きながらも、魔剣で弾くことを試みた。
「ぐっ……!?」
流石に、滅することはできなかったようだが、隙だらけだ。
夜刀姫を唐竹割に振るった。
「舐めるな」
キィン!
ファントムの斬り上げにぶつかり、互いに弾かれる。
刹那の間もなく、互いに斬り返した。
ギギギギギギギギン!
幾度も忙しなく、攻防を入れ替えての剣撃の嵐。生きた年月の違いか、技量ではファントムが上、だが、有するエネルギーでは哲人石により明らかにこちらが上回る。
魔力操作・派生技術【魔装】
威力の上がった剣撃が、ファントムを押し始める。
「……弾け、グラム」
ファントムの呟きに、彼の魔剣が妖しく輝く。
互いの剣がぶつかれば
「うお!?」
俺だけが弾き飛ばされていた。制御のきかない空中に投げ出されたが、飛膜を生やして、制御を取り戻す。
さっきの聖雷は弾かれなかったよな?ふむ、じゃあ、こんなのはどうだ?
神聖魔術【祓魔の刃】
夜刀姫を青白い光が覆った。祓魔のチカラを付与する魔術だ。これで弾かれないと思いたい。
こちらを見上げるファントム目掛けて、急降下。夜刀姫を叩き込んだ。
「……グラム」
キィン!
妖しく輝いた魔剣は、再び俺を弾き飛ばした。
「うお!?ッとと……あー、物理的な効果か?属性は関係なし?」
「そうだ。どうする?諦めて、魔術勝負といくか、それとも、これを攻略するか?」
「そうだな。攻略するとしようか」
「ほぉ、どうするつもりだ?」
「こうするとも」
再びの急降下。
「策なしか。愚かだ……グラム」
その魔剣は、三度、妖しく輝いた。
時空魔術【逆転した方向性】
キィン!
果たして、合わさった剣撃は互いを弾くことなく、鍔競り合った。
「なん、だと?」
「【逆転した方向性】。逆ベクトルを当てる相殺の魔術。お前の魔剣のチカラを相殺したわけだ」
「……なるほど。こちらの負けだな」
「?……随分と潔いな」
「くくっ……あぁ、だが、ここは我の迷宮だ」
そう言って、ファントムは強引に距離を開けた。
「我が愛は行ったようだからな。時間稼ぎは終わりだ。置き土産を置いて、我も帰るとしよう」
「……血核が別のところにあるのか?」
「そちらは別のところどころか、複数あるようだな?」
ちっ……こいつ、分身か。まぁ、魔剣は本物のようだし、あれだけでも砕いておくか。
「また会おう、ジャック・ネームレス。次は、我の悲願が叶った時だ」
芝居掛かったその台詞と仕草に、冷めた目を送る。
ファントムは魔剣を起点に魔力を高め、そして、迷宮の床に深々と突き刺した。
「では、せいぜい楽しんでくれたまえ。【黙示録の赤き竜】」
その宣言とともに、ファントムの分身体は霧となって、闇に溶け、迷宮全体が鳴動を始めた。
「チッ!?」
これはやばい!?みたいなセイの鳴き声を聞きながら、【転移陣】で外に出る。
外から眺めれば、常闇の城の原型はすでになく、その姿はグニャグニャとつくり変わっていく。
……やがて、カタチが定まり始める。強靭な四肢が大地を踏み締め、樹齢何百年の大樹と見紛う尻尾が唸る。その身は赤き鱗で覆われて、背には一対の巨大な翼を有していた。最後に、頭のカタチが定まった。
七対の眼と耳、七つの鼻と口、十の角を生やしていた。眼光は狂気を感じる金色だった。首は一つだけ。せめて、多頭であったならば、ただの怪物であった。だが、複数のパーツは一つの顔に収まり、形容し難い生理的嫌悪を催させた。それは、気分の悪い化け物だった。
『個体名:グラム Lv.66
分類:竜 真竜 不死者
種族:黙示録の赤き竜 』
『黙示録の赤き竜:吸血真祖の血魔法によって生み出される竜。その醜悪な頭部に大半の生命が生理的嫌悪を抱く、生命の敵。かつて、世界を滅ぼしかけたことがあるが、天使族によって討滅された。』
三竜を超える竜の中の竜、真竜か。しかし、ホント気分悪い。さっさと終わらせよう。
「ヤト、ちょっと頑張ってもらうぞ」
『ん』
夜刀姫を両手で構え、魔力を集中する。
ファントムの奴は、グラムをあの醜い竜の核に置いていったが、それは【血染武装】は壊れても自身の一部として、修復されるからだ。だが、何事にも例外はある。
構えは最上段。
「「「「「「「グオオオオオオオオンンンン!!!!!!!」」」」」」」
聞くに耐えない産声が、七つの口全てから吐き出される。奴は、魔力の高ぶる此方に目をやり、突進してきた。
好都合だと、ニヤリと笑う。
「いけるな、ヤト」
『ん、父様、いつでもいける』
赤き竜はすでに目前。タイミングを測り、夜刀姫を全力で振り下ろした。
血魔法【血喰】
同時に魔法を発動させる。
「「「「「「「……グォ?」」」」」」」
すでに、赤き竜の身体は真っ二つ。しばらく慣性に従って突進を続けていたが疑問の鳴き声とともに地に伏した。
ザスッ
天から地に突き刺さったのは、透き通った深紅の刀身グラム。柄はなく、中途から斬り飛ばされていた。やがて、赤き竜とグラムは血霧となって、夜刀姫に吸収された。
【血喰】。ヤトの魔剣としての特性を最大限に発揮させる魔術である。
……。
「かはっ……」
とある場所にあるファントムの自室。彼は、吐血していた。
「な、なんだ?」
予想外の事態に混乱し、周囲に敵が潜んでいないかを探る。だが、ここに敵がいるはずがない。そこで、ふと気づいた。
「ない。……我のグラムがない!?」
いつもならば、半ば無意識に具現させているはずの愛剣が、右手に握られていなかった。
「どうなっている!?……いや、アレか?」
そこでふと、先程まで分身で相対していた男を思い出した。
「くっ、くくっ、くっははは!!我からグラムの存在を引き剥がしただと!?あぁ、あぁ、あぁ!!素晴らしいじゃないか!素晴らしいじゃないか!……良いだろう、グラムはくれてやろう。だが、次会う時には、灰も残さず、殺してやる。覚悟しておけ、ジャック・ネームレス」
仮面から覗くその瞳は、より一層赤く輝き、狂気を宿していた。
ファントムはラスボス候補なので、簡単には決着しません。でも、獣王国からは撤退している?ので、これにて奴隷狩り騒動は一応の終息となります。
後は、後始末とか、次章への話とか、色々と。まだまだ、三章は続きます!
応援宜しくお願いします。
ある程度、おもしいと感じて頂けたなら、是非ともブックマークを、そして、評価をポチッとなしてください!
感想には、できる限り対応させて頂きます。