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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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常闇の城

「……ふぅ」


 周囲に伏兵の存在のなさそうなのを確認して、イジネが息を吐いていた。


「お疲れ」

「ん?……ジャックか、そちらこそ、お疲れさまだ」


 魔群の一掃を終えて戻れば、まず、視界に飛び込んできたのが、この状況だった。


 城壁の上に立つイジネと、等しくのびている仮面を被った黒尽くめたち。


「カーラたちは?」


「城塞のほうにいるよ。彼らを拘束しているときに、負の気配があったが、それもすぐに消えた」


「ふむ?まぁ、セイやヤト、エリーさんの存在は確認できるから大丈夫か。一先ず、こいつらから情報を……」


 そう思い、テキトーな一人の目を覚まさせようとしたところで、【念話(テレパス)】が繋がった。


『ジャック、こっちに吸血鬼(ヴァンパイア)を拘束してあるから、情報の取得はこちらのほうが良いと思うわ』


 エリーさんの言葉に、なるほどと思い、ここをイジネに任せて、移動することにした。


 ……。


「父様!」「チッ!」


 頭にセイを乗せて、ヤトが駆けてくる。それを抱き上げてやった。


「ヤト、頑張ったの」


「お、そうか。偉いぞ」

「えへへ」


 褒めてやれば、ヤトは照れた様子を見せた。セイは……たぶん、食事を要求している。亜空(アイテム)()小袋(ポーチ)から、テキトーな肉を取り出し、右の掌に載せた。


「チッ!」


 当然!とばかしに、ヤトの頭から俺の右手に移動し、肉を咀嚼し始めた。


「ふふふ、ジャック、お疲れさま」

「いや、そっちも、お疲れ。……カーラはどうしたんだ?」

「えっと、ちょっとね……」


 周囲を見れば、カーラが体育座りで隅にいた。あれが男?とか、活躍がなかったとか、ぶつぶつと言っている。

 ……そっとしておくか。


 件の吸血鬼のほうを視界に入れる。

 なるほど、美人だが時代遅れ、さらには、男か。うん、嫌なインパクトがあるな。

 彼は、こちらを睨んでおり、交渉の余地は無さそうだが、一応、試みる。ヤトは、エリーさんのほうに渡した。


「よう、俺はジャックだ。お前の主は、どこにいる?」

「教えるわけがないでしょ!?馬鹿なの!そもそも、お前程度じゃ、主様の足元にも及ばないわ!せいぜい、主様の影に怯えて、これからの人生を生きるのね!!」

「そうか、残念だ」


 いや、ホント残念だよ。なんで、イケボなんだ。まぁ、吸血鬼に交渉の余地が無いのは、わかっていたことだ。記憶だけ貰おう。


「ふん!」

「まぁ、お前の運命は、あまり変わらん。記憶を貰おう」

「……?何を言って……え?」


 顔を背けていたカルロッタが、俺の言葉に再び、振り向いた時、その心臓には、夜刀姫(ヤトノヒメ)が突き刺さっていた。


 血魔法【血の追憶】


「あ、あ、あああぁぁぁああ!!!!?!?!!」


 魔法の発動とともに、カルロッタが絶叫を上げる。当然だ。血核を壊す魔法の一つなんだから。しかも、記憶を読み取るために、完全に壊れるまで時間の掛かるような拷問じみた代物。普段、痛覚などない吸血鬼に、それを耐えられるわけがない。


「安らかに眠れ」


 必要な情報を得て、出力を上げた。


「あ……」


 解放を悟ったその目には、安堵があった気がした。それを確認することはできず、血核を破壊された吸血鬼はその身を灰と化して、滅び去った。


「どうだった?」

「首魁の居場所がわかった。どうやら、逃げようとしてるらしい。俺は今からそちらに向かう。エリーさんたちは、こちらで不測の事態を警戒してくれ」

「それはいいけれど、捕まっている人たちは?」

「どうやら、支配下の商人の元にいるらしい。奴らの居場所にはいない。そちらは、獣王、はダメか。爺さんに報告して、対処してもらうので事足りるだろう」

「わかったわ、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい、父様」


 二人の言葉を受けて、魔術を発動させる。


 時空魔術【転移陣(テレポート)


 浮かび上がった魔法陣が輝き、俺の姿をかき消した。


 ……。


「チッ!」


 そう言えば、右手に乗ったままであったセイが鳴き声を上げる。

 俺たちの目の前には、黒曜に鈍く光る城。雨が降っていた。


『常闇の城:とある吸血真祖(ヴァンパイア・ロード)が魔法で造り上げた迷宮(ダンジョン)。内部には、一切の光が無く、夜の住人である彼らの独壇場。』


「……行くか」

「チッ」


 セイが右肩まで登り、落ち着く。俺は開かれていながら、闇で覆われた大門を潜った。


 光の無い空間も、真理眼(イデア)ははっきりと視認する。

 大門を潜ってすぐには、広大な玄関ホール。奥には、扇状の階段とその先に、二手に分かれた階段。天井には、闇色のシャンデリア。人には、見えないだろうに、割と細かい。力の誇示か。


「いらっしゃい」


 凛とした声だった。二手に分かれた階段の俺から見て、右。その中ほどで手摺りに頬杖を突いて、銀髪の美女がこちらを見ていた。

 その隣、女よりも下段に佇んでいるのは大柄な男。少し尖った耳。縦割れの瞳孔。背後に見える鱗で覆われた尾。


 龍人だった。


「珍しいお客様だわ。ねぇ、私たちとともに生きない?」


 問いかけは甘く蕩かすように、魅了の魔力が感じられた。目を合わせれば、(しび)れのような感覚。


「魔眼か?生憎、俺には効かないな」

「釣れないわね。良い男は、女の願い(わがまま)を聞き届けるものよ?」

「媚びなきゃ、ダメな女は願い下げだな」


「……奥方様」


 直立不動だった龍人が、女に呼びかける。


「そうね、諦めて、彼に任せるしか無いわね」


 言外のことを察して、女が返事をすれば、左の階段から、コツコツと歩いてくる音。


「ん?我が愛(クリスティーヌ)、勧誘は失敗か?」


 現れたのは、白いシンプルな仮面をした金髪の男。


「ええ、そうなの。あなたに任せるわ」

「あぁ、わかっている。……ダロガ、我が愛を連れて、先に行け」


「……御意」


 龍人の男が頭を下げる。そのまま、行くのかと思ったが、こちらを向いた。


「……カルロッタはどうした?」

「すでに、灰だ。恋人だったか?」

「腐れ縁だ……」


 静かに言った。表情に変化もなく、主の命に従い、ダロガはクリスティーヌを連れて城を登っていった。


「見逃すのか?」

「馬鹿言え。お前が牽制してるんだろが」


「くくっ……そうだな」


 よく通る声だった。厳かで、透き通っていて、粘つくような、そんな美声。


「さて、挨拶しておこう。ブラッドオペラの血祖、ファントム・ブラッドオペラだ。そちらは?」


「ジャック・ネームレス。冒険者だ」


 互いに、表情はない。


「一応、最後の問い掛けだ。こちら側に来ないか?」


 ファントムの右手に、透き通るような深紅の刀身をもった細く長い魔剣が具現する。

 俺の左手にも、夜刀姫が握られた。


「もちろん、ない」


 答えると同時、こちらから開戦の火蓋を切って落とした。


 パチンと指を弾けば

 

 ドン!


 とファントムのいた空間が爆発した。

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