侵入は失敗
ジャックたちが魔群の残りを一掃している頃。
獣王都・城塞にて、やはり、侵入者があった。
城塞を囲う第二城壁は、東西南北それぞれに門を構え、今はどれもが固く閉ざされていた。だが、夜闇の中で、侵入者たちは労せずにその城壁を登り越える。城壁上にいた見張りは、無音の矢撃に尽く倒れた。
いざ、城塞の庭に降り立とうとしたその時、一人の侵入者が違和感を抱いた。
倒れた見張りが、何というか生きた感じがしなかったのだ。矢撃で、絶命したにしてもまだ、生気を感じてもいいはずだった。
侵入者の一人は、確かめようと近づいた。幸い今夜は満月だ。近づけば、この違和感もはっきりするだろう。
果たして、彼が見たのは、矢撃に倒れた土人形だった。
「!?」
侵入がバレている。瞬時に、その判断を下した彼は仲間へと警戒を促そうと息を吸い……
「地霊よ」
土人形に囚われた。見れば、仲間の何人かも囚われている。
カツコツという足音が耳朶を打った。そちらに目をやれば、月明かりに照らされ、幻想的な雰囲気をもった女性。
金髪碧眼。極めつけは、その耳。長く尖った妖精族のその証。
「この大変な時に、君たちは何をしているのかな?」
言葉とともに放たれるのは、強者の武威。
森妖精の戦士、イジネ・テテジーラがそこにいた。
……。
城塞内部。狸人の爺さんをはじめとした政治の要となる人々を避難用の部屋に押し込んで、エリー、カーラ、ヤト、セイが扉の前で佇んでいた。
獣王国の戦士たちは街中や城塞の各所に散っており、ここは彼女たちに任されていた。
「イジネさんは大丈夫かなぁ?」
「あら、カーラ。イジネちゃんは、あなたより強いんだから大丈夫よ。それより、お客さんよ」
カーラの呟きに、エリーが答えつつ、近づいてくる気配に警戒を促す。ヤトとセイは、すでに気づいており、気づいていないのはカーラだけだった。
「むぅ……私だって、強くなってるもん。みんなが強すぎるの」
母の強さを信頼してか、呑気なカーラにエリーは苦笑して、気配のほうに視線を向けた。
歩いてきたのは、金髪の女。鮮やかな髪は長く伸ばされ、それを台無しにする時代遅れのドリルロール。明らかに詰め物をした胸に、細身ではあるが背が高い。ピンク色の高いヒールに、フリルだらけの淡いピンクのドレス。整った顔ではあるが、化粧は濃かった。
テラテラと光る紅が引かれた口許が言葉を紡ぐ。
「どうもこんばんは。私はカルロッタよ。あなたたちは?」
女だろうと思われる高めの声。真っ先に反応したのは、ヤトだった。
「ヤト。おじさんは、何で女の人の格好なの?」
漆黒乙女の美幼女は、残酷な真実を問いかけた。
カルロッタは顔を痙攣らせ、エリーが仕方ないわねとばかりに苦笑い、カーラは純粋に驚いていた。
「何で?」
「私は乙女よ!!変なこと言わないでくれる!?」
可愛らしく首を傾げての二度目の問いかけに、我慢の限界に達したのか、低音のイケボが怒鳴り声を上げた。女口調なのがひどく残念だ。
肩で息をして、自身の失態に気づいたか、カルロッタは咳払い。
「そこをどいてくれるかしら?」
何事もなかったかのように、再び女の声で要求を告げた。
「ダメ」
前に出ながら、ヤトが告げる。それにヒクヒクと唇の端を痙攣させるカルロッタ。
「……そもそも!どうして、こんなところに子どもがいるのよ!?あぁ、めんどくさいわね!もういい!全員、殺してあげるわ!」
そう言って手元に具現されたのは、ノコギリのような刃を持った大剣。
「死ね!」
乙女にあるまじき、大股の踏み込み。やはり、狙うのは地雷を踏み抜いた美幼女。
周囲の連中は何の反応も示さない。
とった!
カルロッタはそう思ったし、その美幼女の正体を知らない者も十中八九、そう思うだろう。だが、彼女はあくまで、剣である。
キィン!
その音にカルロッタは間抜け面を晒す。
何故?肉を抉り斬る、あの心地よい感覚がもたらされるはずなのに……
美幼女は、底冷えするような瞳でこちらを見ていた。
「ひっ!?」
思わず、跳び退いた。距離を開けたことで、美幼女が何で自身の剣を防いだのか、がわかった。
手刀を構えたその腕部は、仕込まれた神霊鋼製の刃を展開していた。
「魂を持った魔動人形……?」
自身の感覚から出された結論は、長き時を生きるカルロッタをして、未知であるものだった。
「ん……おじさん捕まえて、父様に褒められる」
それだけ言って、ヤトは軽やかに踏み込んだ。
「どこ!?」
カルロッタは見失った。すでに、ヤトはその背後。
「ん」
右の手刀が一閃される。
「があ!?」
乙女にあるまじき野太い悲鳴。
「てんめぇ!」
最早、女口調も忘れて、ヤトに向けた大振りの一閃。
「遅い」
すでにそこにはいなかった。再び、回った背後から、再び、右の手刀が一閃された。
「がああ!!?!」
響いた悲鳴はより強く、そして、ここにいるのは敵ばかり。
「私もいるわよ?」
碧い瞳をした美女が目の前にいた。右の拳が構えられている。
「【鉄血の杭】!」
突き出された拳が、鳩尾に衝撃を与える。と同時に、鉄血が流動して杭へと変化、カルロッタの臓腑を穿った。
「ごふっ……」
血反吐が出た。
「あ、るじ……様……」
追い込まれて頼るのは、自身の主人。たが、ここに彼はいない。
「チッ」
青白い毛並みの鼠が視界に映る。それが一鳴きすれば、カルロッタは光輪によって、拘束されていた。
侵入は失敗、繰り返す、侵入は失敗
カルロッタ……これでは、中途半端にギャグである。我ながら半笑い
一応、区切りが良いと言えなくもない七十話目、やったね!
この作品タイトルは略すとしたら、「しかもこ」だと思っているのだが、他に案がある人は、是非、感想を
そうじゃなくても、感想を
作者のエネルギーになるのです!
そして、スクロールした先にあるらしい?評価もしていただけると尚のことやる気が出ます!
応援、宜しくお願いします!




