月下無双
初のコメント(感想)を頂きました。ありがとうございます。
感謝、感激、感涙でございます。思わず、電車で泣きそうになったほどです。
ええ、ええ、頑張らせていただきますとも、どうぞ、最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
ほのかな月明かりを見れば、真円を描く銀色が見えた。
「望月か……」
街中の屋根を走り、魔群のもとへと急ぐ。高く積み上げられた城壁を跳び越えて、外に降り立った。見張りの何人かを驚かせたが、それを気にするような状況ではない。
既に、冒険者の一団が横広がりに城門の前に集まっていた。その先頭に、獣王の姿がある。俺は、ズカズカとそれに近づいていった。
「レオニダス」
「おう!ジャック!オマエも来たか!で、どうする?競うか?」
子供のように無邪気に笑う獣王をひとつ睨んで、ため息。気を取り直して、俺の想定する流れを話した。
「最初は、俺が魔術で雑魚を一掃する。お前は、それまで前に出るな」
「むぅ、それでは、暴れ足り……」
「馬鹿言え、被害を抑えるのが、最優先だ」
この戦闘狂め。
心の中で、悪態を吐きつつ、周囲を見渡す。元霊銀級である獣王と対等に話しているように見える俺に、訝しげな視線を向ける者がほとんどだった。
「連中の抑えを頼むぞ」
返事は聞かず、【障壁】で足場をつくり、空中に移動する。
「俺の獲物も残してくれヨォ!」
獣王のそんな叫びに軽く、手を振って応えた。
……。
「ったく。自分だって、魔術の試し撃ちがしたいだけだろうが……」
「あの、獣王陛下、あの青年は?」
地上で、獣王のぼやきの横から、冒険者協会の獣王国本部長が声をかけた。
「未だ、銀級だが、俺以上の実力をもった魔術師だ。連中には、前に出ないよう指示を出しておけ。アイツが雑魚を一掃する魔術をぶっ放す」
「陛下以上!?そんな馬鹿な!」
「ウルセェ!俺本人が認めたんだ!ゴチャゴチャ言ってねぇで、血の気の多い馬鹿どもに指示を出せ!」
「ぅ……わかりました」
獣王の怒気を浴びて、反論ができるわけもなく、本部長は集まった冒険者に待機命令を下した。
……。
遠方を見やる。魔群は既に、地上からも視認できる範囲にいた。歩みは遅い。
存在を確認できるのは、まず、かなりの大きさを誇る骨鬼竜。骨格から見て、小飛竜がほとんどだが、一体、三竜のうちの一種、駆竜が混じっていた。
三竜とは、竜のなかでも一際チカラのあるとされる種類で、大空を飛ぶ飛竜、大海や砂海、果ては溶岩までもを泳ぐ泳竜、大地を駆ける駆竜のことである。ちなみに、小飛竜は、飛竜と言うが種類としては亜竜である。
小飛竜でも、大きさは大人三人分ほど、駆竜に至ってはちょっとした山である。
その周りに、比較すると蟻んこのように見える喰屍鬼や呪屍鬼、武骨鬼に魔骨鬼という進化一段階目の屍霊ども。幽霊系統は見た感じではいない。
「さて……」
標的は駆竜の骨鬼竜。そいつが、やはり中心にいた。
冒険者連中に指示が行き渡ったのも確認できた。さっさとはじめないと痲れを切らした奴が前に出かねない。
望月へと右手を伸ばす。それをスッと前方に翳した。
占星魔術【月鏡結界】
俺の前方に、金色に輝く結界が形成される。もちろん、地上までカバーしており、その範囲は獣王都の城壁の一面並み。
月の光が、太陽光の反射であることは知っているだろうか。この結界は、そんな月の特性を写し込むことで形成されている。この結界に当たった攻撃は、反射される。それが、物理であれ、魔術であれ、なんであろうとも弾き飛ばす。
大規模な結界の形成に、敵方も動きを見せる。武骨鬼の弓矢が、魔骨鬼の魔術が、骨鬼竜の竜の咆哮が一斉に放たれた。
その尽くが、月鏡結界に当たって弾き返された。だが、弾かれていないものもある。今回は、わざと結界の効果を変更しておいたのだ。魔力を含む攻撃は、結界に留まり、吸収される。俺の魔力量なら、こんな手間を取る必要はないのだが、まぁ、一応の用心だ。
結界の所々に、魔法陣が展開される。それに伴い、結界の金色はさらに輝き、夜空より月光が、俺を強く照らした。
左手に、夜刀姫を具現させる。鋒を敵方へと向ける。数多の魔法陣が互い違いに回転し、その輝きは太陽を超える。
「祝福の遠吠えは 瞬く間に 世界に響き渡った
純潔の狩人が 放った一矢も 御身を祝福する
汝 その歓喜に呑まれて 三つ星を穿たん 」
俺の背後に降臨する美しき月女神の巨大な姿。その尊顔は涙に濡れて、両眼は白き布で隠されていた。それでもなお、その手には弓矢が握られている。
夜刀姫を引き絞る。それに合わせて、月女神が、矢を番え、弦を引き絞る。
占星魔術【月女神の狩猟一矢】
夜刀姫を突き出せば、月女神の一矢が放たれる。それは、光線の柱となって、屍霊たちを呑み込んだ。
魔術世界において、月は不可思議な魔力を宿しているとされ、とくに真実を暴き出すチカラがあると考えられた。地球における人狼や魔女の逸話に、月の満ち欠けが関係するのは、そのためだ。
真実を暴くその光矢は、屍霊に「死んだ」という真実を与える。
光り輝いたのは、一瞬か、数分か。やがて、光は収まり、そこにあったのは、美しき花々が咲き乱れる園だった。
……。
「マジかよ……」「なんだ、あれ……?」
獣王は、背後から聞こえる声に心の中で同意を示す。
(ジャック・ネームレス……控えめに言って、化け物。旧友全員でかかって、ようやく互角といったところか)
ジャックが行ったのは、敵方の魔力の再利用による大魔術に分類される魔術の個人行使。それだけならば、理論上可能だ。獣王が旧友と呼ぶ者たちのなかの魔術師たちもできることではある。
だがそれは、無防備を晒しても構わないという条件が付く。ジャック・ネームレスは明らかに、魔術とは別に、周囲の警戒も行っていた。
おそらく、横槍を入れても、魔術は中断されないという有り得ないはずの結果を生んだと確信が持てるほどの気配だった。
「何、してんだ?」
「オマエ、ホントに人間か?」
夜空から降りてきたジャックに、思わず問い掛けていた。それに、肯定も否定もなく、片眉が持ち上がるだけだった。
「取りこぼしはあるんだ。気合入れろ」
淡々と告げられるのは、目の前の状況への集中。
「行かないのなら、俺がすべて、斬っておくが?」
挑発的な物言いに、先ほどまでの疑問はどうでも良くなった。
「くはははは!!それは困る!俺にやらせろ!」
獣王の大声と、構えたのを見て、冒険者たちも各々の構えをとる。
「早い者勝ちだ」
「そうだなぁ!!」
その会話をもって、二人の超人が踏み込んだ。
一人は静かに、一人は荒々しく、共通したのは笑顔であったということだった。
割と、ジャックさんも戦闘狂だな。
「チカラがあれば、振るいたくなるのが普通だろ」
後、あの詠唱は?
「もちろん、省いても発動できる。偽装だ。獣王の反応からして、意味はあまりなかったが」
「くはははは!!まぁ、なんであれ、オマエが敵じゃなければ、それでいいぞ!!また、戦おう!!!」
あれ、獣王陛下って、こっち出てこれたっけ?
まぁ、いっか。
次回は、ヤトちゃんを活躍させる予定で〜す。ではでは、早めの更新を願っておいてくださいまし〜




