表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
68/139

魔群の侵攻

 獣王との勝負の後は、狸人の爺さんの手配で、城塞の中の客間で厄介になることになった。当然、女性陣とは別室である。


 取り敢えず、連中の居場所がわからなければ、どうしようもないので、捜索隊が結成され、冒険者にも依頼をするようである。何の手掛かりもないので、闇雲に探すのかと言うと、そうではなく、占星魔術(アストロロギア)の【星詠(ホロスコープ)】によって、大体の当たりをつけるようだ。

 ちなみに、俺はこの魔術を使ったことがない。儀式魔術であるため専用の道具が必要であり、イカロスの遺品の中に、それがなかったのである。また、使用する必要性がなかったことも理由の一つだ。


 獣人には、魔術が不得手なイメージがあるが、獣王のように、心霊魔術(サイキック)はほとんどの獣人の得意分野であり、狸人や狐人は占星魔術も得意であるらしい。


 まぁ、ともかく、俺たちは一時の休息を得ることになったのである。


 ……。


 カンカンカン!!


 深夜。俺のような不死者(アンデッド)でもない限りは、深い眠りにあるか、睡魔と戦っている時間帯。

 獣王都に、けたたましい警鐘が鳴り響いた。


 と同時に感じられたのは、濃厚な負の魔力。


 存在を悟られたことを知って、連中が強硬手段にでも出たのだろう。俺は、取り敢えず、女性陣たちの部屋に向かった。


 ……。


 廊下では既に、戦士や召使いたちが慌しく動いていた。それの邪魔にならないよう道の端を歩いていれば、前方からカーラたちが歩いてきた。向こうもこちらに合流しようとしたようだ。


「お兄さん!」

「ジャック、この気配は……」


 カーラの呼びかけに手を挙げて応え、イジネの半ば確信のある問いに首肯で答えた。


「おそらく、存在がバレたからコソコソする必要がなくなったんだろう。若しくは、こちらの動きを鈍らせることで、逃亡の時間を稼いでいるかのどちらかだな」

「こちらを滅ぼせれば、完璧。そうでなくとも、被害を出せば、御の字と言ったところかしら?」

「そうだ。取り敢えず、獣王のところに行くぞ。勝手に動かれても困るだろうからな」


 皆、異論はないようなので、気配を辿って獣王の元に向かった。


 ……。


「おぉ!オマエらか!魔群の侵攻(スタンピード)だ!それも、屍霊(リビングデッド)のな!がははは!まぁ、巣を見つける手間が省けて良いじゃないか!」


 相変わらずの大声は無視して、狸人の爺さんに話しかける。


「連中の目的は、おそらく、逃亡の時間稼ぎだ。こちらの動きを鈍らせるような手段を取ってくる」

「ふむ、なるほど。となると、魔群の侵攻のほうは囮か」

「そうだ。吸血鬼(ヴァンパイア)は狡猾で、人類(プライミッツ)のことをよく理解している。狙われるのは、あんたをはじめとしたこの国の政治を担っている連中だ」

「むぅ、となると、戦士団の大半を城塞に残すべきか。魔群のほうは、冒険者に任せて……避難誘導にも人員を割くとして……」


 俺の話に、ぶつぶつと考えをまとめ始める爺さん。その様子を黙って見ていた獣王だが、やがて、痺れを切らしたのか、大声を上げた。


「あぁ!くそ!俺は、魔群のほうに行くぞ!ジジイ、そっちは任せた!」

「へ、陛下!?お待ちを!貴方様の護衛は!?」

「そんなものはいらん!この国最強は俺だぞ!」


 そう言って、獣王はズカズカと歩いて行った。


「むぅ……仕方ないか」

「爺さん」

「ん?何じゃね?ジャック殿」

「俺も魔群のほうに行く。なるべく、魔群のほうに戦力を集中させておかなければ、向こうさんの動きに変化が出る可能性もある。予測のつけやすい方向に持っていくべきだ」

「まぁ、そうだな」


 疲れたような表情の爺さんだが、話は了解してくれたので、イジネたちに向き直った。


「お前らには、なるべく、爺さんたちの護衛をやってもらいたいんだが」

「魔群のほうに、ジャックがいくのなら、私たちは必要ないだろうからな。言われなくとも、こちらに残ったよ」


 イジネの言葉に、エリーさんとカーラも異論は無さそうだった。しかし


「父様、ヤトも?」

「チッ!」


 ヤトとセイは、行きたそうにした。


「あぁ、お前らもだ。こっちで、爺さんたちを守ってくれ」

「ん、わかった」

「チッ……」


 ヤトは素直に頷いてくれたが、セイは渋々だった。


「ふふ、ヤトちゃんは良い子ねぇ」

「セイちゃんも、こっちで活躍して、お兄さんに褒められよう?」


 エリーさんがヤトの頭を撫で、カーラがセイを強引に抱き上げた。それを見届けて、俺は魔群のいるほうへと走っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ