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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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霊獣

いつもよりは、長め

 訓練場は、城塞の敷地内にある。かなり広く、地面は踏み固められた砂。当然、非番だが他にやることのない戦士や、教官に(しご)かれていた新兵たちが、獣王の登場に面食らっていた。

 ちなみに、獣王国の主だった武力は、戦士団と呼ばれる。他国に比べると少数だが、皆精鋭であり、国民の過半数以上が戦えるとあって、なんら問題はないらしい。


 目の前では、()()()()大剣をブンブンと素振りしている獣王。片手持ち、両手持ちのどちらでも振ってやがる。


「よーし!これは、俺が普段使ってる大剣だからな!オマエも、普段ので良いぞ!魔術も使って構わん!」


 相変わらずの大声に、ため息を吐く。周囲を見れば、いつの間にか、元々いた以上の獣人が観客と化していた。


「父様、がんばれー!」

「チー!」


 ヤトとセイの声援に少し、和む。彼女らの近くで、エリーさんとカーラがこちらを面白そうに眺めており、イジネは柱にもたれ掛かっていた。獣王の了承に気が抜けたか、それとも急ぎたい気持ちを抑え込んでいるのか。俯き気味の彼女の表情を知ることはできなかった。


 さっさと終わらせるか。


 俺は夜刀姫(ヤトノヒメ)を具現させて、左手に握る。構えはしない。左腕はぶらんと下げたまま。


「……銀級冒険者、ジャック・ネームレス」


 俺の名乗りに、獣王はニヤリと笑った。


「元霊銀(ミスリル)級冒険者、レオニダス・ガッテング!」


 その言葉に、多少の驚愕を覚え、真理眼(イデア)を行使。


『個体名:レオニダス・ガッテング=ガルダニング 

 Lv.42

 分類:人類(プライミッツ)

 種族:獅炎                 』


『獅炎:猫人の上位種、獅人の覚醒種。妖精族の血を目覚めさせた獣人。炎のチカラを宿し、肉体はより強靭に、寿命も延びている。』


 なるほど。覚醒種なのね。誕生はかなり稀だと聞いたんだがなぁ。この時代にいたのな。


「いくぞぉ!!」


 獣王は、そう言うやいなや、深く踏み込んだ。


 ドン!


 音を聞くと同時に、目の前にいるが、このくらいなら俺にもできる。問題は……


「せぇぃやぁあ!!」


 右腕に握られた大剣は、獣王の右から横薙ぎに振るわれた。つまり、俺の左側から迫るのだが、それに、左手に握る夜刀姫を合わせた。


「っ!」


 体重が足りない。俺の身体は、自由の無い空へと舞い上がる。浮遊感は一瞬、獣王の追撃はなく、ザッと余裕を持って地を滑る。


 ……着地してからも、まだ、運動エネルギーが残ってたか。かなりの馬鹿力だ。


「くはははは!!いいぞ、その余裕!だが、本気を出してくれ!でなきゃ、一瞬で終わるぞ?」


 俺が様子見をしているのに合わせて、今の大剣は振るわれたようだ。俺の強さに、機嫌良く叫んでいるが、最後の言葉には殺気と呼べるほどの威圧があった。

 間違いなく戦闘狂(バトル・ジャンキー)だ。仕方ない。これも接待だ。


 魔力操作(マナ・コントロール)・派生技術【魔装(アームズ)


 肉体に、夜刀姫に、魔力を纏わせる。この世界の生物は、余剰魔力によって常に肉体を強化している状態であるが、それの濃度を上げる単純な強化魔術。


 獣王の動きはない。今度は、こちらから来いということか。


  !


 音はない。踏み込んだ先は、獣王の左側。勢いのままに、斬り抜ける。


 ギィィン!


「ぬぅぅ!」


 走る動作を利用した斬撃に、獣王は見事に大剣を合わせてきた。だが、獣王の思う以上に、剣撃は重く、地を滑る羽目となった。


 観客が息を呑むのがわかる。


「陛下が押された……」

 誰かがポツリと言った。


「油断して、一瞬で終わるのは、あんたのほうだぞ?」


 最初の体勢になり、獣王を見て、言ってやった。


「そうかもしれんな。その構え、驕りかと思えば、完成したそれだ……【霊獣化(ハイ・ビースト)】」


 獣王は、何らかの魔術を行使した。その瞬間、獣王の持つ圧が増幅され、顔は獅子のそれとなり、大剣と赤い髪が、文字通りに燃え上がる。


 なるほど、心霊魔術(サイキック)か。霊体(アストラル)を弄ることによって、肉体を強化する【霊体改造(エンハンス)】の応用といったところだろう。獣王は、霊体を獣や妖精のそれに近づけたわけだ。


「長くは保たん。そちらも、何か使うか?なら、さっさとしてくれ」

「まぁ、そうだな。では、お言葉に甘えて」


 占星魔術(アストロロギア)太陽(サン)()祝福(シャイン)


 昼空に燦々と輝く太陽の魔力を借り受ける。まぁ、月のほうが相性が良いが、それでもそれなりの強化だ。おそらく、これで互角。若しくは、太陽という属性の関係上、炎には若干有利。


 俺の様子に、獣王はニヤリと笑った。


「オマエ、どちらかというと魔術師か。これは負けられんな」

「はぁ……さっさと終わらせよう」


 ため息を吐いての返答。とくに不快ではないのか、獣王の笑みは変わらない。大剣が両手に握られ、大上段に構えられる。


「もう少し、楽しもうや!」


 その言葉と同時、振り下ろされた。もちろん、届く間合いではない。だが、それは刃の話。

 獣王の炎は容赦無く、斬撃の直線上を焼き尽くす。


 魔術で防いでもいいが、面倒だ。斬る。


 無造作に振るわれる左腕。そこに握られた夜刀姫は、吸収の特性を持つ。吸血ではない。吸収だ。


 炎を構成する魔力を啜り、それを無効にした。


「はぁ!?」


 流石の獣王も困惑の声。観客たちは、顎が落ちるほどの驚きよう。

 まぁ、ヤトの特性は魔剣としては、最上級だ。当然の反応だろう。こちらが、吸血鬼(ヴァンパイア)ということは知らないしな。


 ザッと、踏み込んだ。


 流石、元霊銀級。困惑しつつも、大剣が振るわれる。


 ギィィン!


 甲高い金属音。だが、力比べをする気はない。そもそも、刀は斬り裂くための剣。大剣のような斬り砕く剣と合わせるような剣じゃねぇ。

 流れに逆らわず、刀の上を滑らせる。と同時、獣王の懐に踏み込んだ。身を捻り、背後をとる。


「くそっ!」


 獣王の悔しげな声が聞こえる。それと同時に、燃え上がる髪が俺を近づけまいと勢いを増した。

 普通ならば、本能的に避けるところ。だが、俺は生憎、吸血鬼。多少、燃えても問題はない。……いや、吸血鬼の場合はあるか。


 とにかく、夜刀姫で炎を吸収しながら、首筋を斬りつける。


「うっ……!?」


 刃が当たるところでの寸止め。


「降参だ……」


 やけに悔しげな獣王の降参宣言に、観客たちが歓声を爆発させた。


「「「「うおーーーー!!!!」」」」

「あんた、すげぇ!」「陛下が負けるとこなんて、初めて見たぜ!」


 口々に感想を叫ぶ獣人たちの間から、あの狸人の爺さんが歩いてくる。


「陛下?」


 笑顔ではあるが、怒気が含まれている。

 まぁ、獣王は強さで選ばれているので、私闘で負けると色々とあるんだろうなぁ。


「ジ、ジジイ……」


 戦闘はともかく、そのほかのことでは頭が上がらないのだろう。獣王は後退りをしていた。


「ん?なんですかな?」

「いや、えっと、なんだ……悪い……」

「ええ、はい。これに懲りたら、誰かれ構わず戦闘を吹っ掛けずに、王としての振る舞いを覚えてください」


 ここぞとばかりに、爺さんは、その後も小言を続けた。

 ジャックのレベルは、現在、30代くらい。今まで、小鬼とか、吸血鬼とか斬ってるし、魔術修得中も試し撃ちとかしてたから、うん。

 正確なレベルは、まぁ、強敵を倒したときとか、切りのいい時に出しますよ。


 みんな、応援宜しく!

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