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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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獣王

「見えましたよ、皆さん。あれが、ガルダニング獣王国の首都、獣王都です」


 セルバの呼びかけに、全員が外を見た。


 そこにあったのは、王国よりもどっしりとした頼もしい城壁。王国の城が、ほとんど塔であり、美観も考えられていたのに対し、こちらは城塞としての要素が強く荒々しい印象を受ける。


 まさに、難攻不落。獣人の独立戦争での名残により、堀まであるようで、要塞都市の様相であった。


「おっきい!」

「……」


 と無邪気に(はしゃ)ぐヤト。対照的に、イジネの顔には影が差していた。


「イジネさん、もう少しですよ」

「そうよ、イジネちゃん。だから、そんな顔しないの。獣王様には、愛想良くしないと。協力してもらうんだから」

「チッ!」


 カーラが声をかけ、それに続き、エリーさん、セイまでもが元気を出せと言った。

 それに、イジネも笑みをつくる。


「あぁ、そうだな。もう少しだ」


 そんな話の間も、馬車は進み、跳ね橋を渡って門を潜り、獣王都へと入っていった。


 ……。


 獣王都、城塞。王国に比べると、狭い謁見の間で、俺たちは佇んでいた。セルバは、王国民であるので、礼儀に則り、膝を突いている。だが、頭は垂れない。それをすれば、獣王国では従属するという意味合いになるからだ。そのため、王国とは違い、他国の者は、はじめから顔を上げた状態で良いらしい。


 空間内の物の配置は、王国とあまり変わらない。玉座とそれに続く絨毯。獣王国の国旗が玉座の後ろに見える。国旗に描かれるのは、狼と獅子だった。


 程なくして、奥から狸人の爺さんが、出てきた。


「獣王陛下の御成だ」


 その言葉とともに、戦士たちが膝を突き、頭を垂れる。


 足音はない。だが、姿を見せたその男は、とても荒々しく歩いていた。アデル王の余裕のある歩みと違い、幾分早歩き。

 そんな男の容姿は、煌々と燃え盛る炎のような髪が、まるで鬣のようになっており、彫りの深い強面。眼光は鋭く、大柄。中背の俺を自然と見下げる格好になる。頑強な筋肉の盛り上がりを隠す気のない薄い服。上質なのだろうが、王が着るには簡素。申し訳程度に、豪奢なマントを羽織っていたが、それは男の存在感の前に萎縮していた。


「よく来た!オマエら!俺が、この国の現獣王、レオニダス・ガッテング=ガルダニングだ!よろしくな!がはははは!!」


 玉座に座るやいなやの大音響。エリーさんは、眉をピクッと動かしただけだが、その他の面々は吃驚しており、セイが右肩から転げ落ちてしまった。それを右手に受け止めつつ、改めて、レオニダスを見る。


 獣王は、世襲制ではなく、選定制。任期は四年で、それが終わると決闘形式のトーナメントで行われる武闘大会がある。参加資格は、獣王国民であること。優勝者が次代の獣王となる。

 つまり、目の前のレオニダスが、礼儀を捨てたような奴でもおかしくはないが、こいつは確か、優勝を繰り返して獣王となって十年以上と聞く。もう少し、落ち着いているべきではないか?


 と思い、狸人の爺さんに目を向ければ、頭が痛いとばかりに眉間のシワを揉んでいた。


 皆が一通りの反応を終えたあたりで、レオニダスがまた、声を発する。


「それでジジイ、こいつらは何しに来たんだっけ?」


「陛下、先ほどの書状をお読みになられましたよね?」

「あぁ、読んだぞ。だが、王国の文書は遠回しで俺にはよくわからん」


 大丈夫か、コイツ……。

 おそらく、他の面々も思っただろうが、それを口に出す者はいなかった。


 爺さんの説明を聞き、レオニダスはふんふんと言ってるが何かこちらに目が向いている気がする。なんだ?


「よぉし、話はわかった。俺の国の問題でもあるから、協力は惜しまん!」


「ありがとうございます」


「うむ、だが、協力するにも、まず、お前さんらの実力が知りたい!と言うわけで、オマエ!俺と戦え!」


 と言ってレオニダスが示したのは、俺だった。爺さんのほうを見れば、顔が引き攣っており、コイツの我儘なのだろうことの予測はつく。戦闘狂(バトル・ジャンキー)なのだろうなぁ……。


「よし!訓練場のほうに行くぞぉ!」


 返事も聞かずに、レオニダスはドンドンと歩いていった。だが、足音は一切なかった。

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