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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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鉄血の華

 そこにいたのは、ほんわかとした雰囲気を持つ優しげな美女だった。

 血のような鮮紅色(スカーレット)のポニーテールとたれ目気味の瞳、左の目元には泣き黒子があり色香が湧き立つ。豊かな胸にくびれた腰、形の良いお尻とスラッと伸びた脚、それを覆うのは深いスリットの入った青紫色(ヴァイオレット)のドレス。


 エリー・ブラッドローズ。カーラの母であり、不死身の怪物。

 それが、俺の前に拳を構えていた。


「起きろ、ヤト」


 血流に納めていた、自身の武器を具現する。

 それは、新月の夜のように、星光の散りばめられた漆黒の刀身を持つ刀。隕鉄(メテオライト)の剣が生体武具となり、いつの間にか、自我を持ち形を変えた愛刀。


『ん、起きた。父様、おはよう』

「あぁ、おはよう。やることはわかっているな」

『ん』

 

 銘を、夜刀姫(ヤトノヒメ)と言う。


「可愛らしい、お嬢さんね」

「あぁ、自慢の娘だ」


 互いに構えたまま、会話した。いつ踏み込もうと、互いに文句はない。


「いくわ」

「あぁ」


 だが、まるでそれが礼儀のように、ブラッドローズの宣言とともに、戦いは始まった。


 音はなかった。まるで、初めからそこにいたかのように、あっさりとブラッドローズが目の前にいた。振り抜かれるのは、左の拳。

 俺はその軌道上に、ヤトの刃を置いた。


 キィンン!


 拳と刃がぶつかり合ったはずなのに、響いたの金属音だった。

 ブラッドローズの拳に見えたのは、ドス黒い血の色。おそらく、血魔法【鉄血】によって拳を覆っているのだろう。


 お互いに体勢を崩した。立ち直りも同時、俺はヤトを左から横薙ぎに、ブラッドローズは再び、左の拳を振りかぶる。

 ぶつかる瞬間、ブラッドローズの拳が下がり、右脚の蹴りが襲って来た。


 魔力操作(マナ・コントロール)・派生技術【障壁(ウォール)


 透明で薄紫の壁が、それを防ぐ。その姿勢で硬直する怪物に、振り切ったヤトを翻し、右からの斬撃を喰らわせる。


 キィンン!


 されど、【鉄血】を纏った左腕がそれを防いだ。


 占星魔術(アストロロギア)重圧(グラビティ・プレス)


 夜空に輝く星の魔力を借り受け、この星の重力を増幅する。


「くっ!?」


 【隔離空間アイソレート・スペース】の床に、ブラッドローズが押しつけられる。だが


「舐めないでくれるかしら」


 その姿は、霧と化し、重力の戒めから逃れる。


「ふ〜ん、思ったよりやるのね。剣も魔術も一流なんて、私たちでも珍しいわ」

「そうか」


 間合いを空けて、再び、人の姿をとるブラッドローズ。


「でも、若いわね。長き時を鉄血拳(これ)に捧げた私には、敵わないわよ?」


 そう言って、ドス黒い血が怪物の拳を覆う。


「それがお前の敗因だ」

「?……負け惜しみかしら」

「どうだかな」


 鼻で笑う俺を、不快げに見て、怪物は静かに怒る。


「そう、わかったわ。私の血族が鮮血の薔薇(ブラッドローズ)と名乗る由来、特別に貴方に見せてあげる」


 その言葉とともに、怪物の全身を【鉄血】が覆う。それはまさに、薔薇の如く巻きつき、棘をつける。怪物の胸元に薔薇の華が咲くことで変化は終わった。


「【鉄血の華衣】。この魔法を用いた体術に、勝てた者は今までいないのよ?」


 そうだろう。全身を凶器にしただけではない。その魔法の発動とともに、神秘抵抗が向上している。おそらく、魔力密度が上がっていて、身体能力も向上しているはずだ。

 戦士も魔術師も、生半可な実力では相手にならなかっただろう。ましてや、その魔法を行使するのは、吸血鬼(ヴァンパイア)。基礎スペックが違う。


 だが、俺もまた、怪物の身体を持つ。ブラッドローズは、俺の若さを指摘したが、それは通常の吸血鬼同士の力の差を分ける要素に過ぎない。俺は自分で言うのもなんだが、特殊だ。


「では、俺が最初の攻略者になるわけだ」

「貴様ァアア!言わせておけばァアア!!!」


 余裕の崩れぬ俺の言葉に、遂に怪物は本性を曝け出す。暴力的な踏み込みが、【隔離空間】を震わせる。


 キィィン!


 最初の拳を、ヤトで弾き、だが、怪物はそこから猛攻にでた。それを律儀にヤトで弾いてやった。


「はぁ!」


 猛攻のなか、間合いの外から放たれるかに見えたブラッドローズの拳はしかし、纏わりついた【鉄血】が伸長することで届いた。


 キィィン!


 それもまた、ヤトで防ぐ。特に危ないということはなかった。


「ふふふ、防戦一方じゃなぁい、このまま、倒れなさい!」


 怪物に負ける未来は見えないのか、今の状況もわからず、吠える。


「ヤト、啜れ」

『ん、父様』


 迫りくる拳を弾き、懐に潜り込む。ぶつかり合うたびに、ヤトに血を吸われていた怪物が自身のチカラが徐々に低下していることに気づかずにそれを許す。


「そんなバカな!?」


 ヤトによる刺突は、正確に怪物の心臓を捉え、その血を啜り上げる。そして、怪物を引き剥がす魔法を発動した。


 血魔法【血核調律】

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