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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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謁見

 カラカラと車輪を回し、馬車がカラグの所有する王都の屋敷へと入っていく。


「「「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」」」


 先触れを出していたのか、ここの管理をしているのだろう使用人たちが迎える。彼らは普通の人間(ヒューマン)のようだ。王都に魔化物(モンスター)を置くのは、やはり、危険が伴うのだろうか?そう言えば、王家はカラグの一族のことを知っているのか?


 玄関の前で、馬車が止まったので、俺たちはそれを降りる。他二台からも、人が降り、使用人のなかでも、上等な衣服を着た人物が顔を引き攣らせていた。少し、周りを観察すれば、持ち運びできる木製の階段があった。なるほど、本来はあれで降りるのか。大分、高さがあるしな。それが正しい振る舞いでもあるのだろう。カラグ自身も飛び降りてしまったが。


「旦那様、私どもが扉を開けるまで待ってください」

「構わんだろう。ここは俺の敷地だ。他所では、待つから勘弁してくれ」


 引き攣っていた人が、カラグに諫言していたが、それを聞く気はなさそうだ。


「取り敢えず、こいつらを客室に案内してくれ」

「畏まりました」


 いつものことなのか、特に食い下がったりせず、使用人の男、たぶん、執事が俺たちの案内を始めた。


 ……。


 王城・謁見の間。

 王城の中でも、一二を争う広さを誇るそこに、カラグとイジネがいた。扉から敷かれた道のような赤い絨毯の上に、立っている。絨毯の先には、何段も高くなった場所があり、豪華な装飾のされた椅子、玉座があった。その主は、まだ、来ていない。だが、その周囲には近衛兵なのだろう者たちが屹立していた。

 部屋の周囲は、本来なら官吏貴族が立っているのだろう空間があったが、今は誰もいない。


 立場としては一冒険者に過ぎない俺は、その様子をイジネの胸ポケットにいるセイを通して見ていた。


 召喚魔術(レメゲトン)感覚共有(シェア・センス)


 本来は、幻獣(ファンタジア)と感覚を共有する魔術だが、従魔(ファミリア)であるセイでも可能だ。


『イジネは、国王が来ても跪くな。軽く頭を下げる程度で構わない。森妖精(エルフ)は王国に従属しているわけではないのだからな』

『そ、そうなのか』

『あぁ、ジャックの言うようにしてくれ。だが、下げた頭は許しの出るまで上げるな』


 セイを通した【念話(テレパス)】で、会話する。イジネもそうだが、大森林に引き篭もっている森妖精たちは、このような場に慣れていない。それを言うなら、俺もお偉いさんに会うなんて経験はないが、知識としてあることを頼りに指示を出す。カラグにも繋げているので、変なことにはならないだろう。


 この後の展開を考えている間に、一人の男が玉座の裏からやって来て、声を上げる。


「国王陛下の御成だ。面を下げよ」


 カラグと近衛兵たちが膝をつき、頭を下げる。イジネだけが腰をおり、頭を下げるに留めた。

 それを一瞥して、伝令した男が不快げに目を細めるのが、セイを通して見えたが、イジネの耳から種族を察したか、特に何も言うことはなかった。


 男が玉座の裏に合図を送れば、ようやく、国王らしき人物が歩いてくる。そのゆっくりとした歩みは、高貴な者としての余裕を表すのだろうか。背筋の伸びた初老の男は、些か苛立ちを覚えるほどの時間をかけ、ようやく玉座に座る。

 正面に捉えたその顔は、平凡。だが、その眼光は鋭く、その座の重さを否応にも理解させた。その身を飾るのは、赤を基調とし、金糸と銀糸で刺繍のされた豪奢な衣服とマント。頭には、王の証たる王冠、金をベースにその形状は屋根のない輪状タイプのもので、様々な宝石が嵌め込まれ、中央には紅く輝く紅玉(ルビー)。その手に握られるのは、王権の象徴たる銀の王笏、その先には蒼い魔石が嵌っていた。

 魔術大国なだけはある。その魔石からは、通常の魔石の何倍もの力が感じられた。

 魔石は、稀に、魔化物の体内にあったり、迷宮(ダンジョン)で発掘される魔力の結晶のことだ。イカロスの研究資料にもあった。主な用途は目の前にあるように杖に取り付けて、魔術の補助装置にすること。他には、魔道具の核にもなる。


「面を上げよ」


 厳かな声が響く。イジネは頭を上げたが、カラグたちは上げるわけにはいかない。


『ジャック!?上げてはダメだったのか!?』

『いや、そんなことはない。まぁ、形式としては、一回目で上げるのは、不敬だが。お前はこの国の者じゃないんだから、そんなのは関係ないさ』


 イジネの焦りのある念にそう答えてやった。カラグが何か言いたそうにしていたが、とくに何か伝えてくることはなかった。国王たちのほうも、反応はない。

 

「国王の御言葉だ。面を上げろ」


 伝令の男は、国王の側仕えなのだろう。彼がそう言ったのを聞いて、カラグたちもようやく、頭を上げる。もちろん、膝はついたままだ。


「久しぶりだな、シャバニア卿。それでそちらのお嬢さんはどなたかな?」

「はい、お久しぶりに御座います、陛下。こちらは、ハフル大森林の森妖精の使者、イジネ・テテジーラ殿で御座います」


『イジネ、前に出て、挨拶だ。余計な情報は必要ない。名乗りだけでいい』

『わかった』


 俺の言葉に、前に出るイジネ。国王もそれを見て、イジネに視線を移す。


「お初にお目にかかります。カラグ殿の紹介のとおり、森妖精のイジネ・テテジーラです」

「ふむ。余は、ここカルドニア王国の現国王アデル・シュダンナ・ジャネル=カルドニアだ。それで、大森林から滅多に出てこない其方らが何をしに来たのかね?」


「陛下、それは私から」

「ふむ、では、話せ。シャバニア卿」

「はっ……」


 カラグが今回の事情を説明する。アデル王は、それに口を挟まず、耳を傾けた。

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