後始末とそれから
醜い男を、【念動】で持ち上げる。カラグのほうに、歩き出した。
カラグと話をつけて、翌日の深夜。迅速にことは動いた。すでに近くの森に待機していたイジネたちを門から迎え、ヘブトラ商会の建物を包囲。カラグが、監査の名目で押し入り、一網打尽。
カラグの計画では、カラグの一族だけで、事を運ぶ予定だったが、森妖精たちたっての希望で、参加。カラグが森妖精に恩を売ることはできなかった。
協力してくれた下っ端連中のおかげで、押し入るのもスムーズで、幹部連中を逃すなんてことにはならないだろう。
後は、捕まっている連中を助ければ、事態は取り敢えずの終息を見せるわけだ。まぁ、公爵家の問題やすでに売られた連中の問題は残る。
「ジャック!」
カラグたちのところに戻れば、すでに用心棒たちは気絶し、従業員たちも一つところにまとめられていた。
俺に気づいたイジネが、まず声を上げた。
「こいつが、この商会の会長だな」
「あぁ、そうだ」
俺はイジネに片手を上げて応え、カラグの前に醜男を下す。
「後は、捕まってる連中を解放するだけか、イジネ行くぞ。カラグはそいつらの処理を頼むわ」
「あぁ」
「わかった!」
カラグの返事を聞き、歩き出した俺の後をイジネをはじめとした森妖精たちがついて来る。
「お兄さん、あの豚なんてほっといて、何故、こっちをまず手伝ってくれなかったんですか〜」
隣に立ったカーラのどうでもいい問いは無視して、スタスタと歩く。
「お兄さ〜ん、無視ですか?お兄さんなら、あの豚がどこに逃げようと、戦闘を手伝ってから、余裕で追いつけますよね?」
「……カラグにも、活躍した事実が必要だろう」
「あー、なるほど。体面ですか」
こちらが楽をしたと責めていたのだろうカーラは、それで納得がいったらしい。煩く言うのをやめた。
そんなこんなで、地下に辿り着いた俺たち。
「……」「くそぉお!」「そんな……」
森妖精たちの怒りや嘆き。
地下の鉄格子の中にいた者は、すでに生気を失った目をしており、ひどい臭いが辺りに漂っていた。
「助けに来たぞ!」
イジネのその呼びかけにも、反応するのはごく僅か。大事な商品だろうに、満足な食事も与えていないのか、痩せ細り、声を出すのも億劫そうだ。
神聖魔術【浄化】
俺はひとまず、地下全体を清め、捕まっている者の汚れも落とす。
鍵が見当たらないな。
錬金魔術【腐蝕】
俺は鉄格子を魔術で分解した。それを確認した森妖精たちが次々と捕まっていた者に駆け寄り、優しく声をかける。
「ジャックさん!この子、病気みたいです!見てくれませんか?」
「こっちもです!」
こんな環境にいたんだ当然だろう。俺はセイと手分けして、治療を施していった。
……。
捕まっていた者たちを解放して、数日。しばらく、カラグの屋敷で体力の回復を図った彼らも徐々に生気を取り戻し、戦士たちとハフル大森林に移動していった。取り敢えず、里のいくつかに分散し、徐々に自分たちの里を復活させるようだ。
カラグは、諸々の後始末に追われており、てんてこ舞い。俺が協力者の就職先として、商会の表商売を指定したもんだから、情報工作にも追われていた。街の住民は、商会のトップが挿げ替わった事を知らずにいる。アホラたちの処刑とともに知らせるらしい。
街での諸々を終えても、奴隷狩りは大問題だ。王都に報告に行く必要があるらしい。狩られた奴隷の身元によっては、外交問題になるので当然ではある。
公爵の問題もあるので、俺はそれについて行くことになっており、イジネたち何人かの戦士もまだ、捕まっている同胞のためについて来る。
「お兄さ〜ん、行きますよ」
「あぁ、今行く」
ぼーっとしていた俺をカーラが呼ぶ。それに応えて、俺はカラグの用意した馬車に乗り込む。
行き先は、王都。カルドニア王国の首都。
全員が乗ったことを確認した馬車が進み始める。
……商会にカーラの母はいなかった。つまり、公爵家のところにいるはずだ。問題はまだ、一つとして解決しちゃいない。




