冒険者協会
「すいません、二人、登録お願いします」
「あっはい……あっ、イケメン……」
「はい?」
「はっ!失礼しました。では、まずこちらの用紙に記載を」
先程の騒動に苦笑いの受付嬢が、俺の顔を見て惚ける。俺の呼びかけに気を取り直し、登録用紙と羽ペン、インクを渡された。識字率的に代筆を提案するのが、決まりだとは思うが、そんなことは頭から飛んでいるらしい。まぁ、書けるので問題はない。
「あの子、本当に新入り?あんな、魔力操作は見たことないわ」
「どういうことだ?」
「いい?人は自身の魔力で、多少の神秘抵抗を持っているものなの。だから、密着している服なんかを、いくら基本技術とはいえ、支配するなんてことは在野の魔術師では普通、ありえないのよ」
「つまり、アイツは……」
「魔術学院が示す階級で言えば、少なくとも導師、下手したら君主の可能性だってある。魔力量で多少のゴリ押しはきくけど、そんな感じには見えなかった。あの子、かなりの使い手よ、なんで学院入学じゃなく、冒険者になりにきたのかしら?」
名前やら種族、特技なんかの最低限の事項を書き上げる。
後ろでは、相棒らしき戦士の男への女魔術師の解説が聞こえている。周囲の連中もそれに聞き耳を立ててるいるようだ。
「はい、これで良いですか?」
ほぼ同時に書き終わったカーラの用紙も一緒に受付嬢に提出する。ザッと目を通し、問題はなかったのか、奥の人に用紙を渡し、こちらに向き直った。
「それでは、私ども冒険者協会の説明を行います」
「それは、用紙の記載の前に、言うことでは?」
「ギクッ……え、ええと、んん。いえはい、その、申し訳ありません、先程のことで気が動転していました」
ギクッを口に出す人っているんだな。
「そうですか。まぁ、俺はどちらにしろ、登録するので構いませんよ」
「はい、ありがとうございます。それでは、説明させていただきます……」
……。
冒険者協会は、文字通りに冒険者の互助組織のようなものだ。
冒険者の活動は、各地に生息する魔化物の討伐や迷宮の探索、一般に危険な場所での採取活動に街の雑用などなど、ピンからキリまであるが、その依頼を管理して斡旋するのが協会の主な業務。
協会自体は国際組織で、とは言ってもこの世界の人類圏はせいぜいヨーロッパ程度の広さだと思われるが、とにかく、魔術学院のある自由都市に総本部を構え、四大国の首都に本部を、それなりの規模の都市に支部を置いている。その発足は、極めて単純。戦争時代の終結とともに、お役御免となった傭兵が名を変えただけ。下手に放置して、野盗になられても面倒だということで、四大国の当時の首脳陣がつくったらしい。
魔化物を相手にするため、危険度別に等級制度が設けられており、それは下から順に以下の通り。
鉄級:レベル5まで
銅級:レベル10まで
銀級:レベル20まで
金級:レベル30まで
白金級:レベル40まで
霊銀級:レベル50まで
神鉄級:レベル51からすべて
レベルは人間基準とのこと。ちなみに、この世界でレベルは大雑把に言えば、魔力量のことを指す。魔力は持っているだけで、肉体を強化するので強さの基準に使えるわけだ。まぁ、基礎スペックに種族差があるので、同レベルでも、強さに違いが出るわけだが。
等級名は、魔術学院の階級バッジの材質と同じだな。ソロモンが転生者ならありえそうだが、アルファベットではない。
銀級までは、割とあっさり上がるらしいが、金級からは試験を設け、人格なども考慮するとのこと。
その他、常識の範疇のことが説明され、先程のような諍いには基本的に中立の立場を取るなどなど、約十分ほどで説明が終わった。
……。
奥の職員から、何かを受け取り、受付嬢はそれを俺とカーラに渡す。
なんの変哲もない鉄板だ。大きさは向こうの世界のクレジットカードほど。名前と種族、等級が彫られており大きく冒険者協会の文字。
「そちら、会員証になります。当協会があなた方の身分を保証していることを示すものになりますので、無くさないようお気をつけ下さい。万が一無くされた場合、速やかに報告していただき、再発行に1万エルほど頂戴いたします。なお、等級が上がれば、材質も変更されます」
ふむ。なるほど、これさえ見せれば、文字が分からなくとも材質で等級が判別できるようになってるのか。一律、1万エルの再発行は、おそらく、身分証として魔術的に加工されてるのだろう。なんの変哲もない鉄板なのに、魔力を纏っているし。
「はい、これで登録手続きは完了です。当協会はあなた方を冒険者として歓迎いたします、これから頑張っていきましょう」
決まり文句なのかなんなのか、にっこりと笑って、受付嬢はそう言った。