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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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絡み酒

 明くる朝、鶏の声を聞いて目を覚ます。どうやら、この宿は卵代節約に飼育しているらしい。

 二階の一室で身嗜みを整え、セイを右肩に乗せ、部屋を出る。まずは、隣のカーラを訪ねた。


 コンコン


 ……。まったく、いくら朝に弱いとはいえ、あの鳴き声を聞いて起きないとは……。


 精霊魔術(シャーマニズム)吃驚水ウェイク・アップ・ウォーター


 俺は扉越しに魔術を行使。


「冷た!?……ふえ?」

「カーラ、起きろ。朝だ」


「はえ?あっはい。お兄さん」


 まだ、寝ぼけているのか、俺の声を聞いてフラフラと扉に向かってきているらしいカーラ。


 ガチャ


 なんの警戒もなく、扉を開けて、目覚まし代わりの【吃驚水】に濡れたカーラが俺の視界に入る。宿に備え付けの寝巻きは薄手で、濡れると若干、身体のラインが浮き上がっているが、寝ぼけているカーラは気にしない。


「おはようございます、お兄さん。ふぁあ……」


 礼儀としての挨拶のあと、欠伸を一つ。


 神聖魔術(サクラメント)浄化(ブラッシュ)


 魔術でカーラの水気を払う。ついでに部屋も綺麗にした。カーラは、魔術が擽ったかったのか、少し身動ぎした後、ようやく目が覚めたらしい。別に、記憶に齟齬は無いらしく、濡れ鼠と化した自分を思い出したか、顔を紅潮させる。


「あう……着替えますので、下で待っていてください」

「わかった」


 無かったことにしたいのか、そう言ってきたので、あっさりと引き下がる。

 しばらくして、降りてきたカーラとともに、一階の食堂で、黒パンと軽いスープで朝食を摂り、宿を出た。


 ……。


 人の出入りが激しいためか、西部劇で見るようなスイングドアを手で押し開け、目的の建物に入る。汗と酒と少しの血のニオイを感じる。

 ドアの軋む音に中にいた数人がこちらを睨む。大半が多少の観察のあと、興味を失ったか、仲間との談笑に戻る。だが、明らかに酒に呑まれてるらしい男が一人、立ち上がってこちらにやってきた。


「よぉ、ニイちゃん。別嬪さん連れて、何しにきたんだぁ?」


 酒臭い息とともに、投げ掛けられる粘つくような声。隣のカーラを見れば、この男に嫌悪感を抱く前に、別嬪さんに反応して悶えていた。

 ……おい。まぁ、いいか。


「あんたらと同業になりにきたのさ。田舎の三男坊でね」


 別に、丁寧な感じでも良いのだが、酔っぱらい相手では、馬鹿にされてると感じられることだってある。それに他の連中もこちらを観察してるのがちらほらいるし、舐められないように多少の度胸は示さなきゃならない。


「ほう、新入り(ルーキー)かぁ、じゃあ、先輩たるこの俺が色々と教えてやんねぇとなぁ!」


 男は酔いのせいか、拳を振りかぶった。まず、強さを教えるとでも考えているのだろうか?それとも、ただ単にこいつの酔い方か?なんにしろ、ひどい酒癖だ。


 魔力操作(マナ・コントロール)・派生技術【念動(キネシス)


「うぉ!?動けねぇ、なんでだ!?」


「は?」「嘘!?」「まじかよ」

「ありゃ、どうなってんだ?」


 男の服を支配して、動きを止める。魔術師らしい連中は気付いたようだが、戦士職は何が起こったか分からないようだった。


「こんの!動け!」


 男は顔を真っ赤にして、動こうとするも俺の【念動】を振り解くには至らない。


「昼間から酒飲んで、おっさん、今日は休みだったのか?まぁ、なんでもいいがよ。絡み酒もほどほどにな」


 俺はそんなことを言いながら、男の首を、男の服で締め上げた。


「ぐぉ!?」


 やっと、俺のやってることだとわかったか、男は恐怖の色を浮かべ、すっかり酔いを覚ましたようだ。


「がはっ、ゴホッゴホッ……すまねぇ、酔ってたんだ、悪かった」


 解放した男の態度に納得して、歩き出す。男はすぐに道を開け、他の連中も身を引いた。

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