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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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吸血鬼は空を飛ぶ

 あの会議の後、すぐに俺とカーラは辺境都市に出発した。

 都市までは、徒歩でおよそ三日。だが、俺たちはなるべく、急がなきゃならない。というわけで途中まで、近道(ショートカット)することにした。


 ずばり、空だ。


「ぎゃあー!!?!お兄さん、速度!抑えて抑えて!死んじゃいますー!?!」


 カーラの絶叫が広々とした大空になんの障害もなく、響き渡る。だが、いくら叫ばれようと問題はない。精霊魔術(シャーマニズム)の【風霊(シルフ)()悪戯(トリック)】で俺たちの周囲は、防音の結界が施されており、ついでに風圧対策がなされている。さらに時空魔術の【屈折結界リフラクション・バリア】で下からは見えないよう光の屈折率を空間ごと弄ってある。

 地上の連中が、俺たちを発見するには魔力を感知するくらいしか、方法はなく、俺の飛行速度で魔力を感知できる奴はそうそういない。つまり、隠蔽は完璧だ。


「大人しくしてろ、風圧もないんだ。(ドラゴン)に運ばれるよりか、マシだろうが」


「そもそも、竜に運ばれることなんてあって欲しくないです!?せめて、お姫様抱っこにしてください!なんで、荷物みたいに小脇に抱えられてるんですか!?」


「お前の扱いなんて、そんなものだ」

「ひどい!」


 その後も、色々騒ぐカーラだったが、都市が見えた頃には諦めがついたか景色を楽しんでいた。


「あぁ、あの雲、王子様にお姫様抱っこされたお姫様みたいだなぁ……」


 ……ノーコメントで。


 俺は、都市近くの茂みに着陸した。


「はぁ、地面だぁ……」


 カーラはへたり込み、地面を愛おしそうに撫でていた。セイが近寄って、その顔を覗き込んだが、なにやらびっくりした様子でこちらに戻ってこようとした。しかし


「セイちゃ〜ん!」


 地面を撫でていた手は、いつの間にかセイを掴み、自分の胸元に持っていく。空中散歩に疲弊した心を癒すため、カーラは無心にセイをモフり続けた。


「チッ!?チィ!?」


 遠慮のない手に、セイが逃げだそうと必死なのが、憐みを誘う。セイの恨みがましそうな目は極力避け、俺はカーラの心が落ち着くまで待つのだった。


 ……。


「チッ!チッ!」


 右肩にいるセイの猛烈な抗議を耳元に聞きながら、俺たちは都市に入る列に並んでいた。そこまで長くはない。すぐに回るだろう。

 用心を重ね、大森林側の西門ではなく、東門に来ている。俺たちは、近くの田舎から出てきた冒険者志望の若者ということにする予定だ。まぁ、聖なる魅了や魔術で、どうにでも誤魔化しは利く。


「お兄さん、半日も経ずに着けたのは良いことかもしれませんが、次はもう少しゆっくり飛んでくださいね」

「はいはい、わかってるよ。周りに怪しまれてもメンドーだから、その話は終わりだ」


 俺の言葉に、カーラは渋々といった様子で引き下がる。

 その後、特に問題はなく、街に入ることに成功した。


 ……。


「わぁ!すごいです!お兄さん!色んな屋台がありますよ!」


 一先ず、人の流れに逆らわず、歩いていたらいつの間にか、屋台の並ぶ広場に出ていた。

 カーラは明らかにお上りさんだ。こんなだと、王都に行ったらどうなるのやら。


「チッ!」

「セイ、離れるな。カーラも。もう、遅いから観光は後だ。まずは、門で衛兵に聞いた宿に向かう」


「はーい、晩ご飯も宿で取るんですか?」

「そうだ、行くぞ」


 周りに聞かれても、大丈夫そうな言葉を選び、話す。カーラは観光をそのままの意味に捉えてそうだが、まぁ、それでいい。こいつは意識するとボロを出すタイプだ。


 ……。


 衛兵に聞いた宿は、安全性やセイのことなどを考慮すると、どうしても割高の中級宿になったが、どうにか足りた。明日からは、入門の際の言い訳にも使ったが、冒険者登録を行って路銀を稼ぐべきだ。分身を使えば、情報収集も同時に行える。この身体ならば、多少の無茶もきくし、問題はないだろう。

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