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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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前世はたぶん

「昨日の同胞解放で、得た情報によると奴隷狩りを実行しているのは、王国の最西端、つまり、儂らのお隣にある辺境都市を拠点としているヘブトラ商会。辺境伯が裏にいるという話は今のところないので、今も街の住人の大半は我らの良き隣人のはずだ」


 代表が皆に、情報を伝える。

 イカロスの蔵書によれば、ここハフル大森林は人類(プライミッツ)の生存圏の最西端。ここより、西は強大な魔化物(モンスター)の縄張りとなり、森妖精(エルフ)たちも訪れることはない。そんな大森林の隣にあるのが、イカロスの滅ぼしたアケドニア王国の系譜を継ぐとされるカルドニア王国でアケドニアと同じく、魔術大国らしく、四大国の一つだ。ソロモンの逸話で、森妖精は「気まぐれな隣人」の一種族とされるので一般には蔑視されているわけではないらしい。

 ついでに言えば、残りの四大国は王国の北東にある獣人族の国、ガルダニング獣王国、王国の南東にある四神教の国、エスラエム法皇国、獣王国と法皇国の東にある騎士の国、バクナンドラ帝国のことを指す。ちょうど、東西南北それぞれに国があり、その中央が四つの国すべてと隣り合うために不可侵領土として、「魔術入門」にもあったように独立自治区・自由都市リベラルが形成されている。

 帝国よりも東には、山妖精(ドワーフ)たちの住処であるドゴル大山脈があり、それよりも東は大森林と同じく、強大な魔化物の縄張りで誰も訪れない。法皇国の南には海が広がり、陸上とは違う魔化物が新たな大陸の発見を妨げているらしい。

 そして、王国、獣王国、帝国の北側には、魔化物の中でも人型で知能の高い魔族たちの国があり、魔王が治めている。過去、人類と魔族は戦争を起こし、今は休戦状態だと言う話だった。


 ……。


「まず、ジャック殿とカーラ殿に街中で情報収集を行ってもらいたい。儂ら、森妖精が訪れれば、自ずと商会の警戒が高まるはずだ。だから、儂らは決起の時を待って、それまで待機だ。協力してもらってる側で、かなり図々しくなってしまうのだが、良いだろうか?」


「あぁ、構わない。元よりそのつもりだ」

「私も構わないです」


 代表の言葉は合理的で拒絶する必要はなかった。特に異論のない俺とカーラは素直に頷いた。


「それで、辺境伯には接触するべきか?」

「あぁ、そうじゃな。白であることがはっきりとわかれば、協力してもらいたいところだ」


 俺の問いを代表は肯定した。

 となると、どうやって会うべきかね。森妖精の使いだと言えば、会えるか?いや、白黒つけるのが先決だから、まずは侵入して調査か……


「お兄さん、お兄さん!」

「ん?なんだ?」


「なんだ?じゃないですよ、もう。さっきから呼びかけてるのに、なかなか反応しませんでしたよ?」

「あぁ、すまん。辺境伯の件で少し、考え込んでたんだ」


「気を付けてくださいね」

「あぁ。それで、話はどこまでいったんだ?」


 カーラから黙考癖を注意され、俺は意識を会議に戻す。気を取り直したらしい代表が口を開いた。


「ジャック殿たちには、同胞が捕われた場所を特定してもらい、辺境伯が白とわかった場合はそちらとの連携も行いながら、夜に戦士たちを街に誘導して、商会を一気に叩く。概ね、こんなところだ。後は臨機応変に」


「わかった」

「はい、わかりました」


 俺とカーラの返答に、代表が頷く。そして、徐に頭を下げた。


「お頼み申し上げます」


 それに続き、他の長老やイジネ、周囲の戦士たちも頭を下げる。


「もちろんだ。お前らの同胞、必ず救ってみせる」

「は、はい!私もお役に立ってみせます!だから、皆さん、頭を上げてください!」


 何度目かのやり取り。だが、彼らにとっては、何度やってもやり足りないのだろう。これが最善とは言え、自分たちはギリギリまで動けない。その心にどれだけの負担がかかっているのか、協力するとは言え、当事者でない俺が推し量れることでもないだろう。

 俺は、ただ、この持て余しそうなチカラで俺のために生きるに過ぎない。これは独善だ。だが、目の前のことくらいは、これだけのチカラがあるんだ救ってやったってバチは当たらないだろう。


 俺は隣で、必死になって皆の頭を上げさせようとするカーラを見る。

 お前の母も、救ってやろう。ホスローとも約束したことだしな。


 独善でいい。偽善でいい。何もしない諦観者よりもマシだろう。この世に絶対の正義なんかないんだから。前世はたぶん、諦観者だった。ならば、今世ではなるべく、自分のやりたいようにやろう。

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