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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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分身

 話を終えたホスローは、梟となってカーラのもとに戻っていった。俺はベッドに戻り、意識的に睡眠を取った。


 ……。


 夜が明けると、手が空いていたのだろう若者の森妖精(エルフ)が呼びに来て、俺は長老たちの家に向かった。


 家の中には、五人の長老の他に、イジネをはじめとした戦士たち、こっくりこっくりと船を漕ぐカーラの姿があった。


「俺が最後か?遅れてすまないな」


「いや、時間は指定しておらんかった。謝るようなことではない」


 俺の謝罪に、代表が返答した。


「さて、皆、揃ったな。同胞解放の段取りを決めよう」


 代表の言葉に、皆、真剣な顔をする。……いや、カーラはまだ、船を漕いでいた。


「カーラ、起きろ」


 俺はカーラの隣に腰を下ろして、彼女を起こしてやった。


「はえ?あっ、お兄さん、おはようございます」


 状況を理解しないまま、視界に入ったのだろう俺に挨拶をするカーラ。周囲の連中は、気の抜けたというような顔をしていた。


「あぁ、おはよう。ところで今から会議が始まるところなんだが?もう少し、緊張感を持て」


「はえ?……あや!皆さん、すいません……」


 俺の言葉に、周囲を見回して、ようやく頭が回り出したか、カーラが何度も頭を下げる。


「いやいや、カーラ殿は吸血人(ダンピール)ですからな。朝は弱いのでしょう、仕方のないことです。いい感じに、緊張も抜けましたので大丈夫ですよ」


 必死な様子のカーラに、代表がフォローを入れる。

 それに続いて、戦士たちからも気にするなといった感じの言葉が投げかけられた。


「いや、ホント、皆さん、ありがとうございます」


 カーラのその言葉を区切りに、ようやく、代表が本題をきりだす。


「それでジャック殿、昨日も確認したが……」

「あぁ、協力する」


「左様ですか。それでカーラ殿もこちらにいらっしゃるということは?」


「あっはい。一晩、宿も貸していただきましたし、私も何かお役に立てればと」


「そうですか。ありがとうございます」


 カーラに他の事情があるようには見えない。ホスローは何も伝えていないのだろう。純粋に、森妖精たちを助けようとしているようだ。


「一つ、確認が」

「はい、なんですかな?ジャック殿」


「ここにいる者は、俺の種族を知らせていますか?」


「……いえ、知りません。そうだな、イジネ」

「あぁ、ジャックの意思を確認していなかったからな。余計な軋轢を生むのもよくないと知らせていない」


 俺の問いに、代表とイジネがそう答えた。

 ふむ……。やはり、伝えておいたほうがいいだろう。カーラの母のこともある。吸血鬼(ヴァンパイア)であることを伝えておかないと動きが鈍くなってもいけない。


「では、長老たちとイジネはすでに、知っているが、俺は吸血聖人(ヴァンパイア・ホープ)という吸血鬼の新種だ」


「なんと!?」「まさか……」

「いや、そんな……」

「しかし、道中の力を見るに、間違いとも……」


 俺の暴露に、戦士たちが騒めく。俺の第一印象が良いのか、すぐに退治どうこうとならないのは、森妖精の美徳なのだろうか。これが人間(ヒューマン)だったならば、すぐに退治だ!とか言われそうだ。


「静まれ!」


 代表の一喝に、戦士たちは黙る。それを満足げに見渡し、代表が口を開く。


「ジャック殿は、確かに吸血鬼のようだが、四神様に祝福されているお方だ。それにカーラ殿の話では、正の魔力を扱えるジャック殿は吸血鬼が負の魔力によって持つ怪物性を持たないどころか、従魔(ファミリア)のセイ殿のチカラによって正と負の魔力の天秤が正の魔力に傾き、聖人性を持っている。心強い味方だ」


「おぉ、四神様に」「長老が言うのなら大丈夫だろう」

「確かに、聖人のような吸血鬼ならば、心強い味方だ」


 戦士たちは割とあっさりと理解して、俺に期待しているような目を向けていた。ふむ、こいつら、騙されやすそうだな?まぁ、いいか。


「さて、俺の種族が知れたところで一つ、見せたいものがある」

「何かね?」


 代表の問いに対して、行動で返答した。

 俺は変幻自在の特性で、肉体の一部を変化させ、蝙蝠の分身をつくる。分身は、パタパタと羽を動かし、天井にぶら下がった。


「ふむ、あれは?」

「俺の分身だ。常に繋げておくのは面倒だから、少し賢い程度の蝙蝠として独立させてるが、分身であるため、どんなに離れても連絡が取れる」


「ふむ、なるほど。つまり、お前さんが街に居る間、あれで連絡するということか?」

「そうだ」


 代表はその有用性に気づいたか、うんうんと頷いている。イジネやなんかはチンプンカンプンなのか、首を傾げていた。


「お前たち、わかってないな?これによって、儂らは逐一、街の情報を得ることができるのだぞ?それどころか、数匹増やせば、離れたところで互いに話すことができるのだ、別行動も上手くいくと言うものだ。ジャック殿、数の方は?」

「あぁ、増やせる」


「なるほど」「連携を取りやすくなるのか」


 イジネたちの納得の声がやけに虚しく聞こえた。これは何人かわかってない奴がまだ、いるな。

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