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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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 詳しい話はまた、後日ということで、解放された同胞を歓迎する宴が開かれることとなった。あたりはすっかり闇に覆われ、精霊魔法【光球(ライト)】の明かりが(コロニー)の広場を照らす。


「わーい!」「やっはー!」

「ぷはー!」「だははは!」


 ガヤガヤと騒ぐ声が聞こえる。

 犬妖精(クーシー)猫妖精(ケットシー)森妖精(エルフ)の子供たちが無邪気に遊び、大人たちが酒を飲む。


 中央で燃える炎が、俺の狩った森猪(フォレストボア)の肉を中心に焼いている。森妖精の女性たちが、焼けたものから広場の机に広げていった。


 俺とカーラは長老たちの席の近くに座り、イジネは皆に挨拶しに向かった。


「お前にイジネはやらんぞー!」


 俺の席には、すでに出来上がっているらしい男が数人やって来るのだが、どいつもこいつもこんなことばかり言ってくる。


「あぁ、わかったわかった」


「なんだー!その投げやりな言葉は!ぉまえは、ひっく!?……あれー?なんだったかなー……ひっく!まぁ、とにかく、頑張れやー!ははは!」


 酔いでコロコロと変わる話は、男の気分によって終わり、やっと落ち着いた。さて、ようやく、食事だ。


「いただきます」


 俺は、木製のナイフとフォークを手に取り、香草とともに焼かれた森猪の肉を一口大に切り取る。

 意を決して、口に放り込めば、まず、香草の良い匂いが広がった。ゆっくりと顎を動かせば、野生の獣独特の硬さはあったが、俺の顎の前には意味はなくどちらかと言えば、舌に感じられる脂の旨味や香草のピリッとした辛味がよく調和していた。文明的に発展しているはずの向こうの料理よりも、こちらの方が美味しい。違いは、魔力の有無だろうか。

 魔力は、欲望から発生しているので、美味しくする効果があってもおかしくはない。


「美味しいですねぇ、お兄さん」

「あぁ、とても美味しい」


 カーラと料理に舌鼓を打っていると、陽気な音楽が聞こえてきた。広場の中央に目を向ければ、耳のピンと張ったまだ、歳若い森妖精たちが男女のペアになって軽やかに踊っている。その後ろで、笛や太鼓、ハープのような楽器を奏でる大人たちの姿があった。

 酔った不良どもは、わいわいと冷やかしの言葉を投げかけ、上機嫌にまた、酒を呷った。


「ジャックさん!私と踊っていただけませんか?」

「いいえ!私と」

「いえ、あたしと!」

「わたしも!」

「ボクも!」


 頬を紅潮させ、少し酔っているのか、まだ、お相手のいないらしい森妖精の女性たちが踊りに誘ってくる。隣では、カーラも男たちに誘われていた。


「コラコラ、お前たち。ジャックとカーラが困っているじゃないか」


 対応をどうしようかと思っていると、イジネがやって来て、酔いで気の強くなった若者たちを諫めた。しかし、それはどうやら逆効果だったようで……


「それじゃあ、イジネさんが俺と踊ってください!」

「いや、俺と!」

「いえいえ、私と!」


「そんなこと言って、イジネがジャックさんと踊りたいだけじゃないの!?」

「「「そうだ!そうだ!」」」


 イジネは、男女双方に攻め立てられ、タジタジ。収拾がつかなくなっていた。


「はぁ……。おい!」


「なんですか、ジャックさん!俺たちはイジネさんを誘うので忙しいんです!」


「なんですか、ジャックさん!もしかして、私と踊っていただけるんですか!」

「いえ、私と!」

「いえ、あた……」


「ストップ!ストップ!」


 俺の呼びかけに一斉に声を出し始める若者たちを、魔力の発露を増やし、強制的に黙らせる。意識的に強化された聖なる魅了は、若者たちの目から光を奪っている気がするが、これはまぁ、しょうがない。


「お前らの中から、ペアをつくればいいだろう?」


「「「「「なるほど!わかりました!!」」」」」


 俺やカーラのほうに来たということは、彼らは互いを無意識に避けていたということだろうに聖なる魅了のために、あら不思議。素直に若者たちの中でペアをつくり、踊りの輪に加わりにいった。


「すまないな、ジャック」


「いや、構わんよ」


 イジネが若者を止められなかったことに申し訳なさそうにしている。俺の言葉を聞いても、まだ気にしてる風だった。


「そんなこと言ってぇ〜、お兄さん、実はモテモテで嬉しかったんじゃないですか〜」


「そうなのか!?」


 カーラのからかいの言葉に、イジネは申し訳なさそうな顔から一変、驚愕の表情を浮かべた。


「そんなわけないだろ。それより、カーラこそ、モテモテで嬉しかったんじゃないか?」


 俺は余裕の笑みでカーラに返してやった。


「え!?ちょ、ちょちょちょ、そんなわけないじゃないですか〜、いやだな〜、あははは……」


 俺の余裕な態度が意外だったか、カーラは動揺をあらわにしてごまかし笑いをする他なかったようだ。


「チッ!」


「セイちゃん、すご〜い!」

「これもあげるね!」

「これも!」

「これも!」


 俺たちのやりとりの横では、身体に似合わず、たくさん食べるセイを囲んで子供たちが和やかに過ごしていた。


「チッ!」


 アイツ、気がついたら、この里の食料を食い尽くすなんてことにならないよな?

 ……後で注意しとくか。

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