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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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四神の祝福

 魔術王ソロモンが、「気まぐれな隣人」たちから魔法を学んだとき、魔法とともにそれぞれの種族が崇めた神もまた、学んだ。


 天使族が崇めた神。この世の誕生と秩序を司る天父神エル。


 悪魔族が崇めた神。あの世の死亡と混沌を司る地母神ヘル。


 森妖精(エルフ)が今もとくに崇める神。世界の意思である精霊たちの王、精霊神アイオーン。


 山妖精(ドワーフ)が今もとくに崇める神。世界を創り管理する存在、創造神デミウルゴス。


 それぞれの魔法を神を学び、やがてソロモンはその魔術を世界に広めるために建国し、四神教という宗教の教祖になった。

 それぞれの神すべてを崇める四神教は、魔術が広まるとともに世界に広がり、程なくしてソロモンは未開地以外のすべての地を自らの国とした。


 だが、魔術王とまで言われた男に試練が訪れる。北の地より訪れる邪神の眷属。


 その怪物どもは、人類(プライミッツ)のチカラ、ソロモンが伝えた魔術すらも意に介さずに怒涛の勢いで侵略した。


 遂に、当時の人類の半数が殺戮され、ソロモンは禁術を行使する。


 それは彼が最も得意とした魔術の極致。


 召喚魔術(レメゲトン)四神召喚顕現(サモン・フォース)


 そう、四神を召喚し、助けを乞うことを決めたのだ。


 禁術は成功し、四神がソロモンの目の前に顕現する。

 彼らは神であるために、自ら直接動くことができないとソロモンに説明し、その代わりに彼に祝福を授けた。


 それまで、どこまでも深い漆黒であったソロモンの瞳は、それからは紺碧に輝いていたと言う。


 祝福により、見事、怪物を退けるソロモンであったが世界にはその爪痕が残っている。屍霊(リビングデッド)だ。邪神の眷属たる怪物は、最期に世界に呪いを振り撒き、それまで二度と動き始めることのなかった屍たちを再び、怨念によって動くように世界の在り方を捻じ曲げたのだ。


 禁術によって、寿命を大きく減らしていたソロモンは、呪いを解けないままにこの世を去り、偉大なる統治者の消えた国は分裂を繰り返し、今の世界情勢になっていったのだ。


 ……。


 なるほど。だから、イカロスは屍霊がそれを持つことは赦されないと言っていたのか。屍霊が邪神の眷属だから。また、邪神に対して、四神のことを聖神と言ったのだろう。


 ふむ。


「そうなると、俺は随分、矛盾した存在になりますね」


「そうじゃな」


 話を終えた代表は、俺の感想を端的に肯定した。


「まぁ、カーラ殿が安全だと言っておるし、その瞳だ。我らは改めて、お前さんを歓迎しよう」


 代表は、割とあっさりと話を終わらせ、それに他の長老やイジネたちも異論はないようだった。


 それで良いのか?まぁ、いいか。

 えっと、後なんかあったかなぁ?


「そうだ!ジャック!」


 俺が何か言っておくべきことがないか、頭の中を整理しているとイジネが何か思い当たったのか、声を上げた。


「どうした?」


「その、だな……同胞解放を手伝ってくれるという話はまだ有効だろうか?」


 ?何故、改まって聞くのだろう?


 ……あっ!そうか。あれが、吸血鬼(ヴァンパイア)とバレる前の会話だからか?


「その……駄目だろうか?……やはり、あれは私に吸血鬼と怪しまれるリスクを考えての返答だったのか?」


 俺の黙考に不安を煽られたか、イジネが言葉を続ける。やはり、吸血鬼なのがバレたから話が変わってくると思ったらしい。


「いや、そんなことはない。特に目的のない旅のつもりだったから、お前が頼んでくるなら、吸血鬼だとバレても協力するぞ」


「そう、なのか?……では、改めてお願いする。ジャック、同胞解放の手伝いをしてくれ」


 そう言って、イジネが頭を下げる。


「ふむ、儂らからも頼む」


 代表をはじめ、五人の長老たちも頭を下げた。


「あぁ、もちろんだ。協力しよう」


「ありがとう、本当にありがとう!」


 俺の返答に、イジネは大袈裟に喜んだ。俺の手を握り、ブンブンと振ってくる。俺はそれに笑顔を向け、カーラや長老たちはイジネに生暖かい目を送っていた。


「イジネにも春が来たのかな?」

「どうだろう?」

「早く、幸せになれるといいね」

「そうだね」

「そんなことより、はやく、あのお肉が食べたい」

「わかる!」

「ちょっと、つまみ食いに行こう!」

「「おう!」」

「「ダメよ」」


 入り口のところから、そんな会話が聞こえてきた。

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