四神の祝福
魔術王ソロモンが、「気まぐれな隣人」たちから魔法を学んだとき、魔法とともにそれぞれの種族が崇めた神もまた、学んだ。
天使族が崇めた神。この世の誕生と秩序を司る天父神エル。
悪魔族が崇めた神。あの世の死亡と混沌を司る地母神ヘル。
森妖精が今もとくに崇める神。世界の意思である精霊たちの王、精霊神アイオーン。
山妖精が今もとくに崇める神。世界を創り管理する存在、創造神デミウルゴス。
それぞれの魔法を神を学び、やがてソロモンはその魔術を世界に広めるために建国し、四神教という宗教の教祖になった。
それぞれの神すべてを崇める四神教は、魔術が広まるとともに世界に広がり、程なくしてソロモンは未開地以外のすべての地を自らの国とした。
だが、魔術王とまで言われた男に試練が訪れる。北の地より訪れる邪神の眷属。
その怪物どもは、人類のチカラ、ソロモンが伝えた魔術すらも意に介さずに怒涛の勢いで侵略した。
遂に、当時の人類の半数が殺戮され、ソロモンは禁術を行使する。
それは彼が最も得意とした魔術の極致。
召喚魔術【四神召喚顕現】
そう、四神を召喚し、助けを乞うことを決めたのだ。
禁術は成功し、四神がソロモンの目の前に顕現する。
彼らは神であるために、自ら直接動くことができないとソロモンに説明し、その代わりに彼に祝福を授けた。
それまで、どこまでも深い漆黒であったソロモンの瞳は、それからは紺碧に輝いていたと言う。
祝福により、見事、怪物を退けるソロモンであったが世界にはその爪痕が残っている。屍霊だ。邪神の眷属たる怪物は、最期に世界に呪いを振り撒き、それまで二度と動き始めることのなかった屍たちを再び、怨念によって動くように世界の在り方を捻じ曲げたのだ。
禁術によって、寿命を大きく減らしていたソロモンは、呪いを解けないままにこの世を去り、偉大なる統治者の消えた国は分裂を繰り返し、今の世界情勢になっていったのだ。
……。
なるほど。だから、イカロスは屍霊がそれを持つことは赦されないと言っていたのか。屍霊が邪神の眷属だから。また、邪神に対して、四神のことを聖神と言ったのだろう。
ふむ。
「そうなると、俺は随分、矛盾した存在になりますね」
「そうじゃな」
話を終えた代表は、俺の感想を端的に肯定した。
「まぁ、カーラ殿が安全だと言っておるし、その瞳だ。我らは改めて、お前さんを歓迎しよう」
代表は、割とあっさりと話を終わらせ、それに他の長老やイジネたちも異論はないようだった。
それで良いのか?まぁ、いいか。
えっと、後なんかあったかなぁ?
「そうだ!ジャック!」
俺が何か言っておくべきことがないか、頭の中を整理しているとイジネが何か思い当たったのか、声を上げた。
「どうした?」
「その、だな……同胞解放を手伝ってくれるという話はまだ有効だろうか?」
?何故、改まって聞くのだろう?
……あっ!そうか。あれが、吸血鬼とバレる前の会話だからか?
「その……駄目だろうか?……やはり、あれは私に吸血鬼と怪しまれるリスクを考えての返答だったのか?」
俺の黙考に不安を煽られたか、イジネが言葉を続ける。やはり、吸血鬼なのがバレたから話が変わってくると思ったらしい。
「いや、そんなことはない。特に目的のない旅のつもりだったから、お前が頼んでくるなら、吸血鬼だとバレても協力するぞ」
「そう、なのか?……では、改めてお願いする。ジャック、同胞解放の手伝いをしてくれ」
そう言って、イジネが頭を下げる。
「ふむ、儂らからも頼む」
代表をはじめ、五人の長老たちも頭を下げた。
「あぁ、もちろんだ。協力しよう」
「ありがとう、本当にありがとう!」
俺の返答に、イジネは大袈裟に喜んだ。俺の手を握り、ブンブンと振ってくる。俺はそれに笑顔を向け、カーラや長老たちはイジネに生暖かい目を送っていた。
「イジネにも春が来たのかな?」
「どうだろう?」
「早く、幸せになれるといいね」
「そうだね」
「そんなことより、はやく、あのお肉が食べたい」
「わかる!」
「ちょっと、つまみ食いに行こう!」
「「おう!」」
「「ダメよ」」
入り口のところから、そんな会話が聞こえてきた。




