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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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吸血鬼は泳げない

 カーラが慣れた手つきで、森猪(フォレストボア)を解体していく。ここで食べるわけではないので、適当にブロック状にしていくだけではあるが。


「ふむ、鮮やかなものだな。私はそういうことはいつまでも、慣れなくてな」


 割と感動しやすいらしいイジネがポツリと言った。


「そうだな。イジネは小さいときから戦闘は凄まじかったが、それ以外はからっきしだったからなぁ」


 近くのイジネと同い歳くらいの見た目の男の森妖精(エルフ)が、それにやはり、ポツリと言った。


「ふむ、その言い方だと、あんたはイジネより歳上なのか?」


「そうだぜ、ジャックの兄ちゃん!」


「森妖精は、歳の見分けがつかんな」


「だははは!」


 俺の相槌のなにが面白かったのか、その男は俺の肩をバシバシ叩いた。


人間(ヒューマン)は、そうらしいなぁ!だが、よく見ろ、イジネの耳はピンと張っているが、俺の耳は若干、垂れてるだろう」


「うん?おぉ、ホントだ」


「これが俺たちの歳を見分けるコツよぉ」


 へぇ。俺はその豆知識を心にメモしながら、相槌を打つ。


「覚えておこう」


「おうよ!」


「お兄さ〜ん、【保管(キープ)】は使えますか?」


 粗方の解体を終えたらしいカーラが呼びかけてきた。


「あぁ、使えるぞ」


「じゃあ、お願いします」


 俺は了解と頷いて、魔力を集中。


 時空魔術【保管】


 森猪のブロック肉を魔力が覆い、その品質を維持するよう働きかけ続けている。よし、成功だな。


「できたぞ」


「はーい!じゃあ、イジネさん、出発しましょう!」


「あぁ、だが、どうやって運ぶ?」


「そんなのお兄さんが魔術でやってくれますよ〜」


 カーラの軽い言葉に、イジネは申し訳なそうな顔を向けてくる。


「あぁ、そのくらい構わんよ」


 俺は【念動(キネシス)】を行使して、ブロック肉を運ぶのだった。


 ……。


「川だー!」


「チー!」


 いつの間にか、意気投合しているカーラとセイの元気な声が聞こえる。

 

 そう、俺たちの前には、微妙な深さで微妙な早さの流れの川が流れていた。


「あぁ、そうだった。いつもなら、普通に渡るんだが、今は彼らがいるからな……」


 イジネは捕まっていた同胞の体力問題を考えてか、頭を抱えている。

 

 ふむ。ちょうど良いな。


 魔力操作(マナ・コントロール)・派生技術【障壁(ウォール)


 俺は、【障壁】を橋になるように展開した。透明で薄い紫の橋が瞬時にできあがる。


「おぉ、すまないな、ジャック。本当にありがとう」


 イジネが、かなり真剣に感謝を伝え、同胞たちの誘導をはじめた。

 そこへ、カーラがそそくさと寄ってきて囁いた。


「お兄さ〜ん、泳げないんですか〜?」


 わざとらしいからかいの言葉。


「当たり前だろ」


 俺はそう言いつつ、密かに魔力を操作した。


「そうですよねー、クスクス」


 少し、ウザいくらいにからかってくるカーラは、吸血鬼(ヴァンパイア)のこの弱点を把握しているのだろう。


 吸血鬼は泳げない。


 正確には、泳げないのではなく、流れのある川などでは肉体の制御が効かなくなるのだ。これは吸血鬼が霊体(アストラル)を本体にするために起こる現象で、飾りというか、擬態というか、正の生命だった頃の名残というか。とにかく、オマケである肉体は、浄化の概念を孕む水の流れに捕まり、制御が効かなくなる。

 他にも、霊体が本体なために空っぽの肉体はよく燃え、影がなく、弱点以外は霊銀(ミスリル)のような魔金属でなければまともにダメージが入らないといった特徴がある。俺の場合は、吸血聖人(ヴァンパイア・ホープ)なため、魔金属と炎が弱点といったことはないが、水の流れに捕まることと影のないことは克服されていない。ただ、影は魔術で認識誘導を引き起こしているから、バレたりしない。水の流れも魔術で堰き止められるが、そんな派手なことをすれば、流石にバレるので、イジネの悩みは渡りに船であった。


「行くぞ、カーラ。俺たちで最後だ」


「はーい!クスクス」


 こいつ、笑いすぎだ。


「うえ!?」


 俺が歩き出し、カーラもそれに続こうとしたところ、彼女は呻き声を発して転んだ。


「大丈夫か?」


 俺は心中で笑いながら、問いかけてやる。


「あっはい。大丈夫です、お兄さん」


 あれー、おかしいなぁ?とかなんとか言いながら、カーラが立ち上がり、動き出そうとする。


「ぐっ!?」


 しかし、今度は足そのものを上げることすらできない。


「どうした、カーラ?クク……早く、行かないと置いてかれるぞ」


 俺は遂に、堪えきれず笑いを零しながら、カーラに優しく言葉をかけてやる。


「あ!お兄さん、笑った!ちょっ!待って、これお兄さんの仕業でしょ!早く、解除してください!」


「失礼な奴だなぁ。ほら、早く行くぞ」


 俺はカーラを放置して、【障壁】の橋を渡り始める。


「え!?ちょっ、ホント、待って!?……お兄さん!さっきのこと謝るから!解除してください、お願いします!」


 やっと悪戯の原因を把握したカーラが謝ってきたので、俺はカーラの靴にかけた【念動】を解く。


「次からは言葉を選ぶように」


「はーい……」


 カーラは観念したように、トボトボと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん、文章力は凄く高いんだけど、主人公の行動に疑問を多く感じる。警戒心とかが無いし、なんか、ん?ってなっちゃう。
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