強敵
ヒタヒタという気分で、散歩を続けている。
どうやら、この辺りには骨鬼しかいないようで、安心して歩ける。
すでに死体のためか、疲労は無い。精神的にも負担がないので、時間感覚もなく、歩き続けている。
遭遇した骨鬼は、片っ端から討伐しているので、レベルは5となった。骨鬼のレベルにもバラつきはあるが、5を超える個体は見ていないので、これで万が一にも負けることはないだろう。
どうやら、俺の種族は、屍霊のなかでも強い種族なのだろう。ただ、屍鬼の亜種と説明されるので、低位のものの中では、ということだろうが。
しかし、広い迷宮である。ここは、第一階層のようで、先ほど入り口が確認できた。俺は、不朽の呪いのせいで、外に出ることができないので、外が森であることを確認した後、そそくさと迷宮探索に戻った。
「ふむ、行き止まりか」
当てもないので、当てずっぽうで歩いていたが、どうやら先ほどの分岐路を間違えたらしい。残っているのは、そこの選ばなかった道だけなのでどちらにしろ、これで探索はひと段落だろうか。
さて、気を取り直して行きますか。俺は元来た道を戻り、最後の道をそのまま歩いていった。
「………」
最後の道の先にあったのは広間であり、俺はその少し前で止まっていた。
その広間には、骨鬼がいた。しかし、今までの骨鬼のように無手ではない。錆び付いた剣を握っていた。
真理眼を行使。
『個体名:No Name Lv.10
分類:屍霊
種族:骨鬼 』
種族は変わらない。ただ、レベルが10。今までの最高レベルだ。単純に考えて、俺との差は二倍。種族の違いを考えても、ギリギリだろうか。
だが、奴の背後には階段が見える。ここを突破するしかない。
さながら、ゲームの階層主である。
「フー」
最早、死体となっては必要のない深呼吸を一つ。俺は、階層主に向けて、突進した。
すると、今まで動きのなかった奴が動く。先ほどまでの雑魚とは大違い。奴は、待ちの姿勢で防御のためか、剣を構えている。
それに、若干の躊躇いを思いつつも、俺は奴の背後に周りこもうとした。
斬
俺の顔すれすれを、潰れた刃が通っていった。こちらにダメージはない。だが、奴は俺のスピードについて来た。背後は取れない。
思考は、一瞬の隙。だが、奴にはそれで充分だ。
奴は、今度は果敢に攻めかかり、俺は、回避に専念する羽目になった。
「……」
「……」
互いに無言。奴はそもそも声帯がなく、俺は無口だ。故の沈黙はどちらかというと俺の精神に影響を与えて、状況を不利にしている。焦りがあった。
徐々に、避け損ねた刃が、俺の髪や服を斬り、遂には身体に到達した。
傷口からは、どろりとした黒い粘液状のおそらく血液が出てきた。それはすぐに固まって傷を塞ぐ。どうやら、死体であるのであまり、小さな傷は意味をなさないらしい。
ふむ。
俺にとって、それは一種の安定剤の役割を果たしてくれた。多少の傷が無意味ならば、そこまで焦る必要もないだろうと。
冷静さを取り戻した俺は、奴の剣筋をじっくりと観察し、着実に避けていく。
お互いに屍霊だ。疲労は無い。生前の感覚を残す俺は、焦りがあって動きが鈍ったがそれがなくなれば、条件は五分。いや、種族の強みの分、俺のほうが有利ですらある。さらに、しっかりとした自我のおかげで学習ができるのだ。負ける要素はなかった。
「……」
「……そろそろか」
体感で数時間ほど。俺はひたすらに剣を避け続けた。最早、目をつぶっていても、避けられるほどに慣れた。
奴の横薙ぎの剣とともに、俺は奴の懐に潜り込む。
慌てることなく、奴は剣を引き戻そうとしているが、遅い。
俺の拳は、正確に奴の頭蓋骨を叩きつけた。
奴の動きが止まり、淡く黒に光るおそらく、魔力が俺のほうに漂って来た。