森妖精
ザッ
と音を立てて、悲鳴の元に到着。状況は馬車が三台に、粗末な服の男が震え、周囲には護衛だっただろう連中の死体。襲撃者は……
うん?耳が長く尖り、金髪碧眼、総じて美形。
……真理眼。
『個体名:イジネ・テテジーラ Lv.23
分類:人類
種族:森妖精 』
『森妖精:金髪碧眼で美しい妖精族。森に住まい、森と調和して生きる種族。精霊魔法を操る。』
参考にリーダーらしき奴を調べると、森妖精だった。どういうことだ?
「誰だ?」
やはり、リーダーなのか、イジネという女が威圧的に問いかけてくる。細剣の鋒もこちらに向いた。
「あー、悲鳴聞いて駆けてきたんだが、どういう状況だ?あ、動くなよ、状況がわかんねぇと双方の動き、どっちも止めなきゃなんねぇ」
「ふむ、私はイジネ・テテジーラだ。コイツは、奴隷の運搬をやっている人間なんだが、その奴隷が不当に奴隷狩りにあった我らの同胞であることが分かっている」
割とすんなりと事情が聞けた。イジネさんは大分、冷静だな。鋒はこっちを向いたままだが。
「おっさんの言い分は?」
俺は未だに震えるおっさんに問う。
「うあ、えっと。俺は組織じゃ下っ端なんだ。う、うう、上には逆らえないが、命にゃか、かか、変えられねぇ、好きにして良いから命は、み、みみ、見逃してくれ」
震えながら、そんなことを宣う。どうやら、イジネの言い分は正しいらしい。ふむ。
「見逃してやるのか?」
「まぁ、いいだろう。同胞さえ帰ってくればいい。しかし、ある程度、質問には答えてもらう、いいな」
「…はいぃ」
イジネは割とあっさり、見逃すと言い、おっさんは多少、落ち着いたらしい。だが、細剣の鋒が俺からおっさんになった。
俺は一応とばかりに魔術を行使する。
心霊魔術【読心】
【読心】、その名の通り、心を読む魔術だ。本来はイメージを捉える程度らしいが、俺は真理眼のおかげかはっきりとわかる。
「奴隷たちの鍵は?」
「俺は下っ端なんだ。持ち逃げ防止に、別ルートで目的地に運ばれてるよ」
「そうか」
その後、色々な質問が投げかけられたが、おっさんは嘘をつかなかった。
……。
おっさんは、馬車の馬を使って、去っていった。
ちなみに、人間を真理眼で見るとこう説明される。
『人間:この世界で最も数が多い人類。これといった特徴はなく、その能力は個人差が激しい。人型の異種族とならば、どのような種族とでも子をつくることができる。』
まるで色魔のような扱いだ。この説明を見るに、普通は混血は産まれないんだろう。
森妖精たちが鉄格子の引っ付いた馬車に寄っていくなか、細剣を鞘に納めながらイジネが、俺に近づいてきた。
「改めて、名乗ろう。イジネ・テテジーラだ、君は?」
最初の威圧的な態度は抜け、友好的に語りかけてくる。聖なる魅了が働いているのだろうか?
「俺は、ジャック・ネームレス。こっちは相棒のセイだ」
「チッ」
セイは紹介されると一鳴きした。イジネはチラッとそちらを見て、俺に視線を戻した。
「そうか、それで君は何故こんなところに?」
「いや、森の中で迷っちまったんだ。近道しようしてな」
俺は当たり障りの無い話で濁す。
「そうなのか。見たところ、人間だろう。慣れない森に入るものではないよ」
「そうだな。次は気をつけるよ」
俺は人間に見えるらしい。話を怪しまれた様子もないし、これでいいだろう。




