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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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出発

「外だー!」

「チー!」


 魔術の練習から、半月か半年か。不老不死の身体では、時間感覚が曖昧だが、俺は遂に、外に出た。周囲は木々、生い茂る森林だ。


 魔術修得はトントン拍子であった。セイの神聖魔法を参考に、神聖魔術(サクラメント)を修得、それでコツを掴み、後はなんの障害もなかった。哲人石(ラピス)のチカラか、一度読んだ本の内容を忘れることがなかったのも、トントン拍子の要因だろう。

 ちなみに、修得の間、セイはほとんどを寝て過ごし、気が向くと屍霊(リビングデッド)を狩りに行っていた。


 あの研究部屋には、時空魔術【保管(キープ)】を行使して、劣化を防いでいるため、いつ戻ってきても大丈夫だ。あの蔵書の数々が貴重品の可能性もあるし、全部持っていくこともできたが、なんせ整理が面倒だった。


 一部有用そうな品は、これまた時空魔術【亜空間創造クリエイト・ディメンション】を錬金魔術(アルケミー)で付与した亜空(アイテム)()小袋(ポーチ)に入れてきた。一々、亜空間を開くのが面倒だったので、小袋に亜空間の出入り口を固定したのだ。


 時空魔術は、「召喚魔術(レメゲトン)理論分解」という本に書かれていた魔術である。召喚魔術が異界の存在、幻獣(ファンタジア)を呼び出すという大雑把に言えば、そういう魔術なのだが、そのうちの異界と接続する部分に着目して理論が構想された派生魔術である。


 ちなみに亜空の小袋は、【血染武装】で生体武具にしてある。物体ならなんでも良いようだ。亜空間に入った物も一緒に血流に収納できる。

 【血染武装】と言えば、魔力が馴染み、剣や服、靴が成長した。今の俺の格好は、上下に、黒地に銀糸で茨の紋様の入った上等そうな服に、灰色の革靴である。


「いくぞー!」

「チー!」


 久しぶりの外にテンション上げて、右肩にセイを乗せ、意気揚々と歩き出した。


 ……。


 どこだ、ここは?


 出発からしばらく、俺たちは森の中で迷っていた。哲人石で記憶は鮮明だし、いざとなれば、占星魔術(アストロロギア)で方角の把握は可能なので、そう悲観することはないがそれでも、延々と木ばかりが視界にあれば、気が滅入る。


 ……?


 いま、視界に赤色が映ったような?

 俺はその変化に辺りを見渡す。


 お!


 俺は、一つの樹上に果実が実っているのを発見した。真理眼(イデア)


『ノノの実:ハフル大森林でよく見られる食用果実。赤い皮の下には、若干、黄味がかった白く瑞々しい果肉があり、種も小さく食べやすい。』


 おぉ!!


 俺は、変幻自在の特性で背中から蝙蝠の飛膜を生やして、ノノの実まで飛び上がった。


 その赤い林檎のような果実をもぎ取る。


 神聖魔術【浄化(ブラッシュ)


 セイも地下墓地で使っていたそれを魔術で行使して、洗浄。皮ごと齧りついた。


 シャリ!


 瑞々しくも歯応えのある食感。果実特有のしつこくない甘みが口の中に広がり、優しげな香りが鼻を抜けた。

 進化によって、五感を取り戻した俺はその幸福感にしばし、酔いしれていた。


 残りをセイに分けてやり、まだ、実っている何個かを亜空の小袋に放り込む。

 満足とばかりに頷いていると、それは聞こえてきた。


「助けてくれー!!?!」


 魔化物(モンスター)にでも襲われたか、野太い男の悲鳴だった。やっと、自分以外の人の存在に安堵を覚えつつ、その方向へと駆け出した。


 ちなみに、言語は蔵書の数々で学んだ。イカロスの言葉は思念だったので理解できたが、奴の蔵書がなければ、意味不明の叫び声にしか聞こえなかっただろう。真理眼で発音を知り、哲人石で記憶したのだ。

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