初戦闘
この場が迷宮であることを確認した後、俺は扉を潜り移動を開始した。
扉の先には、やはり石造りの通路があり、その壁には、時たま、空洞があったり、棺桶が収まったりしていた。
触覚の無いせいか、あまり意識していなかった俺の格好は、上下に最低限の衣服を身につけ、裸足であった。髪の色なんかを見た限り、生前の身体だと思われる。しかし、自身の記憶も曖昧で確信はない。
ヒタヒタという気分で、散歩するように歩いているが、内心では少し恐怖心がある。何せここは迷宮。おそらく、俺とは違い、理性のない魔化物たちが住み着いていることだろう。
ふと、違和感を覚えた。俗に気配とも呼ばれるような感覚だ。
立ち止まって意識を集中してみた。すると、なにやら邪なチカラが感じ取れる。右斜め前方だ。その先は、ちょうど角のところで死角になっている。
気配は近づいて来ていた。しばらくして、足音らしきものも聞こえる。カタカタだろうか?硬質な音だ。
やがて、俺の視界に入ったそれは、人骨だった。
ほぼ反射的に真理眼を行使。
『個体名:No Name Lv.1
分類:屍霊
種族:骨鬼 』
『骨鬼:白骨死体が長い年月をかけて、負の魔力を溜め込むことで屍霊と化した魔化物。肉がついていないため、軽く力は弱いが素早い。他の屍霊族と同じく、生者を怨み、その生命そのものを感知することができる。』
ふむ、俺の種族は屍霊としては特殊なのだろうな。おそらく、一般的な屍霊はその誕生に長い年月を必要とする。
うん?「ウラミ」の表記も違うな。俺のは、ひらがなだったはずだ。どういう基準だ?
「うお!?」
少し、考え込みすぎたか。目の前に骨鬼がおり、噛み付かれそうになった。
……。ふむ、俺のほうが素早いな。
俺は、そそくさと骨鬼の背後に周り、その頭部に拳を叩きつけた。
ドン!だろうか?流石に割れることはなかったが、ヒビが入り、そこからなにやら、淡く黒に光るものが漏れ出ている。
ふむ、しかし、我ながら凄まじい膂力だ。死体だから、脳の制限が外れているんだろう。叩きつけた感じ、触覚が無いため痛覚も無いようだ。まぁ、当たり前か。
そんなことを考えていると、淡く黒に光るものは俺のほうに纏わり付き、それは次第に俺の中に取り込まれていった。
「お?」
なにやらチカラの上昇を感じる。確認のため、自身を真理眼で見た。
『個体名:No Name Lv.2
分類:屍霊
種族:無傷の屍 』
おお、レベルが上がっている。
すると、さっきの黒い光は経験値?いや、そんな曖昧なものでは無いだろう。そうなると、候補としては魔力が最有力か?
そういえば、俺は誕生の際、多量の負の魔力を浴びたはずだが……。
なにもわからんな。まぁ、いい。進むか。