相棒
『クククク……なんだ、その顔は?ワタシに勝てると本気で思っていたのかね?……勝てる!わけが!無いだろう!ワタシは、死霊王!屍霊の王だぞ!』
俺の苦戦の様子に、調子を取り戻したのか、高らかに叫ぶイカロス。
ウザい。
てか、お前の種族は死霊の王であって、屍霊の王じゃねぇよ。魔人形に囲まれて寂しく、孤独に過ごす哀れな死者だ。
自惚れ屋らしいイカロスは、俺にとどめも刺さずにペラペラとお喋りを続けている。おかげで、色々と考えることができる。
しかし、どうするか。一気に片付けたいところだが、死霊魔術のおかげで大して数が減らない。自分で天才だと言う程度には、魔術行使も早い。近づいたときの反応も、近づけていないから分からない。
……。
クソッ!手詰まりなのか?
「チッ」
思考の坩堝に沈むなか、セイの鳴き声が俺を現実に引き戻す。
「チッチッ」
すでに、地に伏したままの屍を視線で示しながら、セイが鳴く。
僕に任せろとでも言っているのだろう。魂の繋がりでも、そのように感じ取れる。
……待てよ?魂の繋がり、セイの浄化……
綱渡りになるが、これが嵌れば、勝てる。
「セイ」
俺の言葉にセイは最初、拒絶の意を示したが、根気強い説得に最後には折れてくれた。
「いくぞ」
「チッ」
ドン!
一息に踏み込んだ。
『何度来ようと同じことよォオオ!!』
イカロスの叫びを聞き流し、魂の繋がりを意識する。
……。
ある。セイのチカラ。
清浄な、俺の負とは異なるそれ。
「チッ……」
セイが、葛藤の声を上げながらも、集中する。
感ぜられるセイのチカラが、こちらに流れてこようとする。だが、主人を傷つけかねないそれに魂の繋がりは、その流れを堰き止めにかかる。
良いんだ、それで。
俺は自ら、それを掴み取るイメージを強固に意識する。
……。
来た。清浄なる正の魔力が、浄化という方向性を持って、俺の身体に満ちてゆく。
「グァアァァァアアア!!!!」
『くはははは!!自爆するとは、自棄になったか。そのまま、滅せられるがいい!』
イカロスの嘲笑が耳に障る。
久しく感じていない痛みを、無理矢理押さえ込み、綻ぶ身体を喰再生で修復する。
「ダァアア!」
気合の咆哮とともに、剣を一閃。
溢れ出る浄化のチカラを纏い、愛剣が死霊を斬り裂く。斬られたそれは、ただの屍に成り果てて、再び動くことはない。
一体、二体、三体……
思惑は成功した。セイのチカラは、しっかりと俺に絡みつき、斬り裂く死霊を浄化していく。
だが
「グッ……」
イカロスにたどり着く前に、身体が軋んだ。
『クククク……いやはや、素晴らしい、胆力だった。ワタシではそんなことはできんだろう。だが、ここまでだ』
イカロスの余裕ゆえの賞賛の声が聞こえる。
「チッチッ!?」
セイの焦りの声がやけに響いた。それでも、俺は……勝つた……め……に……
バキン!
意識を失う俺の耳に、何かが砕ける音が聞こえた。




