死霊王
『いけェえエええ!!』
怒りに任せて、イカロスが己の軍団に進軍命令を下す。それと同時に、俺も合図を出した。
「セイ」
「チッ!」
イカロスの無駄話の間、ずっと練られ続けていた浄化のチカラが死者の軍団に放たれる。
『なっ!?』
イカロスの驚愕の声が虚しく響く。
練りに練られたセイの魔力は、こちらに接近する六割ほどを祓い討った。
『ネズミ風情が調子に乗るなぁぁぁああ!!』
イカロスはまたもや、憤怒の声を叫ぶ。
『【死霊創造】!』
その言葉とともに、辺りをイカロスの負の魔力が覆い、浄化されたはずの屍たちを再び、死霊に変えた。死霊魔術か……。
それでも、浄化のチカラの中心に晒されたいくつかの屍は地に伏したままだった。
「チッ……」
「いや、良いんだ。この後も援護してくれ」
思うように数を減らせず、セイが落ち込んだ様子で鳴いた。それを俺は励まし、剣を構えた。
「チッ!」
セイは、了解の一鳴きをして、俺の右肩から跳び降りる。
それを合図に、俺はその場を飛び出した。
ドン!
静音の靴でも抑えきれない、踏み込みの音を置き去りに、俺は無造作に最初の獲物に剣を振るった。
斬
あっさりと獲物の首を切断され、俺はそれに見向きもせずに次なる獲物に斬りかかる。
一体、二体、三体……
五十体目を数えた頃だろうか。
ガシッと脚を掴まれた。
「うお!?」
俺は、咄嗟のことにバランスを崩し、しかし、なんとか踏み止まり、その場を飛び退いた。セイの援護が飛ぶ。
「チッ!」
「すまん」
自戒を込めて、油断に対する謝罪をする。
脚を見れば、千切れた腕が未だに掴まっていた。俺はそれを無造作に放り捨てる。
イカロスのほうを見れば、俺の様子にどこか満足げだ。
……死霊たちは魔人形。つまり、屍霊と違って、首を切断する程度じゃ動きを止めないらしい。
俺の脚を掴んだのは、俺が最初に斬り捨てた個体だった。
状況を確認し、俺は再度、突っ込む。止まらないなら、脚を斬って機動力を削ぐ。余裕があれば、腕も斬るべきだ。
また、継ぎ接ぎの怪物を造られても嫌だし、道が空けたら、イカロスを叩く。
急場の作戦を立てながら、死霊たちを斬り捨てているなか、イカロスが杖を構えた。
『【道連れの炸裂】』
ボガン!
イカロスの新たな死霊魔術は、派手な効果を生んだ。
俺の周囲の死霊が、その肉体を爆ぜさせたのだ。全方位から来る攻撃に、俺の肉体が削られる。故意に、喰再生を封じて、二度手間になるのを防ぐぐらいしか、できることは思いつかなかった。
やがて、攻撃が収まると、喰再生を意識、削られた肉体を修復する。
「ペッ……」
口の中から、折れた歯を吐き出す。イカロスは、余裕げにこちらを見ていた。