狂気
真顔で待つこと少し。骸骨は笑いを収め、ようやくこちらに向き直った。
『……お前を殺したかだって?愚問だなぁ、キミィィ』
表情がなくともわかる。こちらを嘲っている。
『あぁ、そうだなぁ、どこから話そうか?……うんうん、やはり最初からがいいだろう。ワタシはねぇ、古に栄えた魔術大国アケドニア随一の魔術師だったのさぁ』
尋ねたことに端的に答えずに、自分からベラベラと様々な情報を語り出した。
自己陶酔の激しい奴なんだろう。
『名をイカロス・テシジールと言う。……あぁ、そうだ。お前の名前は?』
?こちらが記憶を持たないことは知らんのか。ふむ……。名付けでこちらを縛るような魔術があっても困る。テキトーに名乗るか。
「ジャック、ジャック・ネームレス」
我ながら安易な名前だ。日本では、名なしの権兵衛という言い回しがあるが、それを英語にしただけだ。確かジャック・ザ・リッパーが、ジャックを取り敢えずの仮名に使った一例のはずだ。
『ふむ、変な名だな。まぁ、いい。それでなんだったか?……そうそう、それでだなぁ、ワタシはいわゆる天才だったんだが、生憎と寿命には勝てんでなぁ。どうしたと思う?』
「どうしたんだ?」
いちいち、問いかけくるなよ。うざい奴。俺はテキトーに相槌をしながら、真理眼を行使。
『個体名:イカロス・テシジール Lv.30
分類:屍霊
種族:死霊王 』
『死霊王:魔骨鬼が進化した術師型の骨鬼の頂点。本能的に死霊魔術を行使でき、その姿を見ただけで気の弱い者は死ぬことだろう。また、死霊魔術によって、生者が自ら変貌することもある。』
ふむ。レベル30で種族的な頂点なのか?いや、たぶん、基本構造が定まっただけでここから、なにかしらの因子を宿せば、さらに進化するのではないだろうか?
一応、軍団の方も確認するか。
『個体名:No Name Lv.20
分類:死霊
種族:動く屍 』
『動く屍:死霊魔術によって、動いている屍。死霊は一種の魔人形で、屍霊と違い、自ら動くことはない。』
腐乱死体も白骨死体もどちらも表記は変わらない。てか、死霊魔術って死体を使った魔人形なのかよ。
『ワタシはねぇ、愚民を、蒙昧な貴族を、高慢な王族をワタシの国のすべてを生贄に、死霊王となったのさ』
イカロスは、当たり前のように、それこそ世間話のように語った。明らかに、狂人だ。人を人とも思わぬ所業。
「それで、結局、俺を殺したのか?」
『ンンン……そう、焦るな。それでだ。死霊王となったワタシは、魔術の探究に没頭し、深淵を覗く日を夢見て、今に至るんだ。あぁ、この迷宮は、その過程で手に入れたんだよ。人間でなくなったワタシが外界で暮らすのは無理があるからねぇ』
「へぇ」
まったくもって興味がないのだが、テキトーに相槌を打っておく。しかし、こいつ。ホントお喋りだなぁ。自分語りがしたいなら、何で人間関係をつくる能力が身につかなかったんだ?
『それでだねぇ、ようやく、答えてやれるのだが』
おっ、やっとか。ホント頼むわ。俺は校長先生の話は、聞き流すタイプだからさっさと話してほしい。
『ワタシが召喚魔術の【召喚】の実験をしていた結果として、お前の死体が召喚されたんだよ』
あぁ、うん。序盤の話、全然関係ないし。てか、実験の副産物かよ、俺は。てか、死体が召喚されたんなら、向こうで死んだのか、召喚で死んだのか、判断つかないじゃねぇか。
『そのあとは、まぁ、無傷の死体だったから面白そうということで負の魔力を過剰に滞留させたあの部屋に放置していたら、屍霊となってここにいるということさ』
……ハァ
『おい、なんだ!そのため息は!?』
ため息ひとつで、馬鹿にされたとでも思ったのか、イカロスが怒りを露わに尋ねてくる。
「いや、うん、結局、なにも分かってねぇなと思って」
『あぁん!』
「だからさ、うん、向こうで死んだのか、召喚で死んだのかもよくわかんねぇし。お前の話は、自分のことばっかりで役に立たねぇし」
沸点の低いらしい、イカロスはギリギリと歯を食いしばっている。
「いや、ホント、時間の無駄だなって」
『貴様ァァァァァアアア!!!!創造主であるワタシに向かって、生意気な!お前のような失敗作は廃棄ダァ!!』
お前、確か、あの部屋に放置しただけだよな?何で創造主だと堂々としてるんだ?こいつ、自分が正しいと盲信するタイプか。なんだ、天才じゃなくて、クズか。